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ビュースルー計測+アトリビューション分析でみえてきたこと ~ロゼッタストーンとマーケティングメトリックス研が共同実験

 先進的な商材のみならず意欲的なマーケティングへの取り組みでも知られるロゼッタストーン・ジャパンと、広告効果測定ツール「アドエビス」を提供するロックオンが、非常に興味深い実験を共同で行った。その実験とは、ディスプレイ広告のビュー(インプレッション)の計測と、ビュー~コンバージョンまで、全てを計算に組み入れたアトリビューション分析だ。それぞれの担当者に話を聞いた。

ネット上の全てのデータを取得しアトリビューション分析にチャレンジ!

 ディスプレイ広告のビュースルー(ポストインプレッション)効果については、これまでも様々な実験が行われているが、ビュースルーだけでなく、ディスプレイ広告のクリック、アフィリエイトやリスティング広告のクリックはもちろん、メルマガ内のリンククリックや自然検索経由の流入から、コンバージョンまでのデータを取得し分析した例はそれほど多くない。

 1~2年前から第三者配信サービスが普及する中、アトリビューション分析にも注目が集まっている状況だ。しかし実際の数値データを取得し、各広告がコンバージョンに対してどの程度の影響をもたらしているのか、という事例を目にする機会は少ない。各広告のコンバージョンに対する影響度を可視化したい――。ロゼッタストーン・ジャパンとロックオンは、両社共にこの点について課題と感じており、共同実験を行ったということで取材に伺った。

背景~認知系の広告効果を評価する指標が必要

 実験に協力したロゼッタストーン・ジャパンのコンシューマー事業部 ディレクター 鈴木氏は実験に協力した意図について、次のように語っている。

 「我々のブランドは一般に浸透しているとは言えず、認知系の広告が必要なのは間違いないと感じていた。しかし、認知系の広告効果をどう評価し、どう改善するかはまだ手探りの状態。また、英会話関連商材は、購入につながる“最後のひと押し”がマーケティング施策上重要であり、その“ひと押し”がアトリビューション分析で発見できるかもしれない」

ロゼッタストーン・ジャパン株式会社 コンシューマー事業部ディレクター 鈴木氏
ロゼッタストーン・ジャパン株式会社 コンシューマー事業部ディレクター 鈴木氏

 一方、データの取得/分析を行った、ロックオン マーケティングメトリックス研究所 中川氏は、次のような思いを普段から抱えていたという。

 「そもそも広告は、態度変容させるためにつくられているもの。ネット広告は『クリック』の評価に重きが置かれているが、ユーザーが広告を目にする機会、つまり『ビュー』もなんらかの意味を持っているはず。しかし、それを評価する手段がなく、ビュー計測に意味があるのかということについては、自分も手探り状態。まずは、実験を行ってみてこの目で確かめたいと思っていた」

 このような両社の思惑が重なり、今回の実験が企画されたというわけだ。

概要~ネット系広告をトータルに計測し、非CVデータも分析

 今回の実験のポイントは次の2点だ。

  • ディスプレイ、リスティング、アフィリエイト、そして難しいとされる自然検索も含め、ネット上での接触をトータルに計測
  • コンバージョンしなかったデータも分析にかけている

 アドエビスの機能をベースに、ビュースルー計測機能を特別に設計しデータを取得。まずはアドエビスの通常の機能を使って、クリック/自然検索/コンバージョン/ページ遷移といった、データを取得した。

 問題は、ビュースルー計測である。クリック計測の数百~数千倍のデータを扱うことになるため、サーバーの負荷、分析システムのキャパシティなど、いくつかの問題点を検討。その結果、今回の実験では、ビュー計測は一部のディスプレイ広告のビューのみを計測する形とした。

 実験期間は約1か月、そのうち分析に利用したのは安定したデータが取得できた3週間分のデータだ。ビュースルーを一部に制限して取得したにもかかわらず、クレンジング後でも数百万件のデータを分析にかけている。

 アトリビューション分析を行う際に、多くの場合がコンバージョンしたユーザーの接触データのみを使う場合が多い傾向にあるが、今回はコンバージョンしなかったユーザーの接触データも利用。今後のためにより詳細な分析にチャレンジしている。

 取得したデータは次の通りだ。一般的な広告効果測定の項目に加え、自然検索とビューに関するデータを取得している。また、すべてブラウザIDに紐づいてデータを取得している。

 分析の手順はどのように行ったのだろうか。中川氏は次のように説明する。

 「取得したデータを一旦ブラウザID毎にまとめ、接触経路のコード化を行うと共に、再配分コンバージョン(※1)を算出したデータセットを一旦作成。様々な視点での分析を可能にしているのが、ポイント」。分析者にとっても分析の勘所が掴みにくいデータのため、分析の手順にも工夫が必要だったようだ。

※1

 再配分コンバージョン:アトリビューション分析の基礎的な指標の1つ。1件のコンバージョンの際に5つの広告接触があった場合、それぞれの広告に0.2ずつ再配分コンバージョンとして割り当てる。これを広告毎に集計することで、その広告の全体の獲得コンバージョンに対する貢献度合いが算出される。

 では、今回の実験ではどのようなユーザー行動の観測が可能なのだろうか。以下に例を挙げてみよう。

  1. 広告ビューから他の接触を経てコンバージョン:(例)広告ビュー → ブランド名+評判で自然検索 → アフィリエイト →コンバージョン/非コンバージョン
  2. 広告ビューのフリークエンシーとその後の態度変容の関係
  3. ビューの有無とその後の検索語の関係:(例)ビュー有/無 → 一般ワードで自然検索 →ブランド名リスティング→一般ワード+比較で自然検索 → ブランド名+評判で自然検索 → アフィリエイト → コンバージョン/非コンバージョン

 非コンバージョンのデータも取得しているので、各パターンのコンバージョン率の算出も可能。コンバージョン数とコンバージョン率の両方を見ることで、量的な最適化だけでなくモチベーション変化を促した広告表現が分かるなど、広告表現の改善へのヒントも見つけられることが期待できる。

結果~ビュースルー効果をアトリビューション分析

 データ取得、DB処理、集計/一次分析は問題なく終了。すると、ビューを含めたユーザー全体の行動が見えてきた。今回は、ビュー計測に制限をかけているが、それでもユニークブラウザで数十万件分、接触データとしては数百万件のデータを取得している。

 結果としてユニークブラウザベースで6割強がビューから始まっており、7割弱が接触遷移のどこかにビューが絡んでいることがわかった。また、コンバージョンまで至ったユーザーは1%弱で、そのうちビュー絡みのものは2割強観測されている。以下に実験で算出できたこと、明らかになった事象をいくつか紹介しよう。

ビューによる自然検索のトラフィック効果は+9%

 通常の広告クリックに加え、ビュー直後の自然検索もクリックと同様のトラフィック効果と考えると、トラフィック効果は9%増し。さらに、他のディスプレイ広告のクリックまで含めると10%増しとなり、合計約2割増しとなった。

ビュー直後の接触に意外な課題

 意外にも、ビュー直後の接触はビュー以外のディスプレイ広告のクリック。これはディスプレイ広告のクリエイティブと出稿プランの影響もあるが、ここまで極端に多いとは予想外だったようだ。また、自然検索よりもリスティングが多めで、しかも非指名系(一般ワード)の方が比較的接触が多いのは、今回発見された課題の1つだ。

ビュースルーコンバージョンはクリックスルーと同数

 対象ディスプレイ広告のポストクリックコンバージョンに対し、ビュースルー経由のコンバージョンまで算出すると2.1倍。つまりCPAは約半分となった。

 この結果に対し鈴木氏は、「それでも、他の施策との比較ではコストバランスに課題があることがわかった。アトリビューション分析によって、課題と改善目標が非常にシンプル且つ明確に示された」と感想を述べた。

最適フリークエンシーは60回

 今回、ビューを計測しているディスプレイ広告のフリークエンシー(広告接触頻度)と、その後のクリック(全ての広告、メルマガ等)および自然検索、つまり能動的なアクションを起こした率を調べたところ、60回程度でピークが来ることがわかった。

 その間の検索語や閲覧ページも同時に検討する必要もあるが、フリークエンシーキャップ(※2)や時間間隔制御等をコントロールする際に参考になるデータとなるだろう。

※2

 ディスプレイ広告の配信制御の一つで、同一ユーザーに対して広告が表示される回数を制限する機能

 「今回の実験は条件設定をして取得したデータであり、また実際の施策にフィードバックするための分析視点も整理しないといけない」と、鈴木氏、中川氏は言う。紹介したのはほんの一部の結果であり、全てを可視化するのはまだまだ難しい領域であるという点も、今回の実験を通して明らかになった点の1つだ。

 ただ、光明が見えたことも確かだ。鈴木氏は今回の結果に対して次のような感想を述べている。「完全ではないにしろ、良かったこと、課題など、いままでわからなかったことが明確になったのは大きな収穫。View to Searchの際の特徴的なキーワードなど、接触初期でのポテンシャルユーザーのモチベーションが推測できるなどの意外な発見も多くあった」

 一方、中川氏は「今回はビューの一部しか測っていないので、解釈に無理があることも否めない。しかし、全てを可視化できれば購買プロセスについても、もう一段階精緻に見えるはず。もちろん実験は続けるが、分析インフラをちゃんと考えておかないとオーバーフローするのが課題だ」と語った。

 今回は一般的なPCとデータマイニングソフトウェアを使用し、データはDB化せずにローカルで置いて行っているが、より大規模のデータを分析するとなると、その環境ではカバーできず、分析環境という点においても検討する余地は多いにありそうだ。

 また、標準のアドエビスではビュースルー計測ができないが、ロックオンでは今後のために実験を重ねていきたいという。ディスプレイ広告の評価に関して、共同研究パートナーとして募集をしているようなので、同じような問題意識をもっている方は以下のアドレスへ連絡してほしいとのこと。

 最後に、鈴木氏にビュースル計測とアトリビューション分析について聞いたところ次のような答えが返ってきた。

 「量的な最適化にももちろん興味あるが、マーケターとしてはユーザーを理解するための手段として、ビュースルーからのアトリビューション分析に期待したい。アトリビューション分析の結果をクリエイティブの開発へ活かすフェーズは、すぐそこに見えている」

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2012/01/26 17:55 https://markezine.jp/article/detail/15025