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Owned Media Report~オウンドメディアマーケティング戦略の潮流

「1億2千万人へ直接語りかけたいので“コミュニケーションの代理”という発想が生まれた」森永乳業の広告戦略全貌


 企業のオウンドメディア活用の実態をお伝えする「Owned Media Report」。今回は森永乳業で広告部長を務める寺田文明氏に、森永乳業の広告コミュニケーションに関して伺いました。広告活動全体の方針から人材育成の考え方まで濃密な内容のインタビューとなりました(聞き手:松矢順一氏)。

今回お話を伺ったのは…
森永乳業株式会社 広告部長 寺田文明 氏
1984年森永乳業入社、東京多摩工場、研究所、製品開発部、米国駐在、総務部秘書室、営業本部室を経て、2008年5月より広告部に異動。現在は、飲料、デザート、冷菓、チーズ等、広告コミュニケーション活動全般に携わる。

広告活動における3つの視点

 ── 最初に森永乳業さんの広告コミュニケーション全体の取り組みについてお話を聞かせてください。どのような視点を持ち広告活動を推進されているのでしょうか。

 まず広告活動全体を、広告施策の実行面、顧客理解の検証面、広告活動の計画面という3つの視点で捉えています。それぞれ3つの分類におけるこれまでとこれからは以下の図のように整理しています。

 広告施策の実行面では、マスではなく「個」に向けてのメッセージ発信が大切だと考えています。顧客理解の検証面でも“個”を重視し、シングルソースの調査など個人単位でデータを収集・計測し、事前事後で態度・行動の分析などを実施しております。そして広告活動の計画面では、フロー型ではなくストック型でのコミュニケーションが重要と捉えております。

 私は研究所、製品開発、営業部門、管理部門、米国駐在などを経て、2008年5月から広告部勤務になりました。当初は、広告についてクロスメディア、トリプルメディアなど当時広告のテーマとして多く取り上げられた広告のやり方を中心に考えておりましたが、企業と生活者をつなぐ環境が劇的に変化する中、企業側・発信者側からの発想から脱却しないと、まずいと危機感を持ちはじめました。

 恩蔵直人氏の著書『コモディティ化市場のマーケティング論理』内にあるように、特に我々のようなCPG(消費財)においては、伝統的な価値連鎖の逆転、バリューチェーンを逆に考えるべき時代となり、お客様の優先事項を起点とすることが必要になっています。どうすればお客様を最も満足させられるのかを真剣に考えなければなりません。

 メーカー的な発想をすると「良い商品ができた。その商品の存在をどのような手段でお客様へ伝えるのか、どこで売るべきか」という順番で戦略を考えがちですが、現在はお客様の優先事項を起点としチャネルを発見することが重要です。

出所:コモディティ化市場のマーケティング論理(甲斐社,恩蔵直人著)
出所:コモディティ化市場のマーケティング論理(甲斐社刊,恩蔵直人著)

1億2千万人のお客様に直接語りかけるのがベスト

 ── 環境変化によりお客様視点でのコミュニケーションの重要性を痛感し、先に挙げて頂いた3つの視点の重要性に気づいたのでしょうか。

 はい、まさにその通りです。最初に挙げた広告施策の実行面で、個(社員) 対 個(生活者)のコミュニケーションの重要性に気づいたきっかけは、チルドカップコーヒー・マウントレーニア・ダブルのキャンペーンの一環で、フラッシュモブイベントを渋谷で実施した際にある若者と交わした会話でした。

 黄色のキャンペーンTシャツと商品が付いたテンガロンハットの出で立ちで、30人くらいの集団で渋谷を練り歩いていたとき、近くの若者に「何をやっているんですか?」と話かけられました。フラッシュモブの意図やキャンペーン対象商品について話をしたところ、その若者はその商品に興味を持ちはじめ「飲んでみようかな」と言ってくれました。その時、私は熱意を持って直接会話をすれば、お客様の購入意向を促進できるということを肌で実感しました。

 また、弊社はキッザニアにパビリオン出展しているのですが、そこで楽しんで頂いたお客様へお土産を差し上げると非常に喜んでいただけます。もし、このタイミングで当社の製品をご紹介することができれば、我々の話に耳を傾けていただき、買ってみようと思っていただける確率がぐっと高まると感じました。

 このような経験を通じて、伝わるコミュニケーションとはマス発想ではなく、感情とともにメッセージを伝えられる(Message with Emotion)、個(社員)から個(生活者)への伝達であると痛感したのです。そう考えると、個(社員)が1億2千万人の個(生活者)へ直接語りかけるのが、最も効果的なコミュニケーションとなるのです。

 ただ、当たり前ですがそれを実現するのは不可能です。個(社員)対個(生活者)で情報を伝えようとしても、伝えようとする規模が大きくなるほどに難しくなります。そこで「コミュニケーションの代理」という発想が生まれました。私たち広告部だけでは全てのお客様一人ひとりと対話できないので、別機能で代理していきましょう、という発想です。

コミュニケーションの代理

 PR領域は第三者による発信者の代理をしていただくことです。また、伝達チャネルの代替であれば直接我々の思いを伝えることが可能な、オウンドメディアやSNSなどデジタル活用が有効です。自分たち(発信者)と伝達チャネルの両方を代理しなければならないローカルエリアのコミュニケーションに関しては、私たちの代わりにそのエリアの弊社社員とメディアを連動させることで、お客様へ熱い思いを伝えて欲しいと思っています。

 弊社社員とメディアによる発信者代理の組み合わせを、私たちはエリア広告と位置づけています。各エリアでのコミュニケーション展開は、そのエリアの弊社社員はもちろんのこと、ご一緒いただくメディアの方々にも、高いモチベーションで活動いただくことが大切だと思っています。

 顧客理解の検証面では、「実際にどのように行動が変化したのか」という点を注視しています。「買いたい/食べたい」と「買った/食べた」との間には、とてつもない溝があります。私たちの究極の目的は、お客様に実際売り場で購入いただくことです。そのためにできる限りお客様の声を拾い、行動を探っています。POSデータはもちろん、シングルソース調査、ウェブ、ソーシャルメディア上での行動データ、イベント時のアンケートなどからの分析を試みています。

 面白い事例としては、MOW CLUB(モウクラブ)での取り組みがあります。MOW CLUBとはバニラアイスクリーム「MOW(モウ)」ファンのためのコミュニティですが、いわゆるオウンドメディアコミュニティに属する会員の方の行動変化や、どのようにファン化していくのかといったプロセスの解明を試みています。

 最後の広告活動計画ではストック型コミュニケーションの実行を重要なポイントと見ております。ここで言う「ストック型」は、皆さまがイメージするニュアンスと少々異なるかもしれません。一般的にはソーシャルメディアユーザーの声をストックすることが重要などという話をよく耳にします。

 もちろんそれも重要ですが、私たちが指すストック型コミュニケーションとは、「もともと持っている伝えたい情報の集合体を棚卸し、まず私たち自身が情報の全体を把握・整理し、全体を意識した上でそれぞれ個別のコミュニケーションを行う」という意味です。

 このような情報過多の時代ですと、自分たちとしては継続的な発信を行いコミュニケーションを図っていると思っていても、お客様側からすると、常に新しいメッセージが届くことで情報が上書きされてしまっている状態なのではないでしょうか。そのような認知のされ方では、お客様の中に情報が蓄積されていきません。

 お客様の中に情報が蓄積されるようなコミュニケーションを図るには、まずは私たち自身が自分たちが伝えたい情報群の全体像を把握し、お客様の中に蓄積していただきたい情報はなんなのかを決断しないとはじまりません。

 情報の把握、整理は、企業の財政状態を示すバランスシートのような考え方で、それぞれの項目ごとの整理を試み、社内外の関係部門とこうした概念を広く共有することを進めています。こうすることで、一貫性、統一性を持ったコミュニケーションが実現できるのでは、と考えています。

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この記事の著者

松矢 順一(マツヤ ジュンイチ)

株式会社アサツーディ・ケイ クロスコミュニケーション局を経て、伊藤忠商事株式会社情報産業部門でデジタルマーケティングを担当し、株式会社ADKインタラクティブ取締役就任。その後、楽天株式会社メディア事業副事業長を経て株式会社Tube Mogul執行役員就任。著書には共著で『次世代広告コミュニケーション』『トリプルメディアマーケティング』。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2014/09/30 17:12 https://markezine.jp/article/detail/18352

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