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2013年世界が注目した音楽マーケティング・キャンペーンを振り返る、なぜ「消費者目線」と「デジタルへの移行」が重要なのか?

2013/12/27 11:00

 音楽とリスナーの距離が広がり、音楽の消費スピードが加速するなか、巧みな情報戦略とプロモーションプランによって、新たなマーケティングの地平を切り拓いているアーティストがいます。「デジタル化」と「消費者目線」。この2つをキーワードに2013年の音楽ビジネスを振り返ります。

2013年はデジタル音楽の節目の年

 2013年は音楽マーケティングにとって変化の年でした。P2Pファイル共有のナップスター開発から約15年、iTunes Store誕生から10年、定額制音楽サービスSpotify創業から5年と、デジタル音楽は節目の年であり、音楽ビジネスの新しいフェーズの始まりを予感させる変化の1年となりました。

 振り返ってみると2013年は、消費者の消費行動が変化するサイクルが短くなってきていることをあらためて実感しました。そしてそんな世の中に、今年もまた数多くの音楽がリリースされていきました。

 僕は音楽がなによりも好きな人間ですので、世の中に音楽が広がってほしいといつも願い、新作は購入し、アーティストのFacebookやTwitterをフォローするようにしています。しかしそれでも実際には、テクノロジーが主体となって熱量が感じにくいデジタル時代の今、音楽やアーティストとつながって価値観や期待値を共有することは、どんどん難しくなっている気がします。

 音楽ビジネスでも、情報が一瞬で消費されてしまうスピードに圧倒され、マーケティングやコミュニケーションを効果的に行えていない課題があります。しかし一方で世界を見渡してみると、今年は従来のアプローチに取って代わるような、結果を生み出せる斬新な音楽マーケティングの事例が多く生まれました。

 今回は2014年に向けて音楽ビジネスはどう変化していくのか、という来年に向けた期待を込めて、2013年の音楽マーケティングの領域で、大きく影響を与え注目を集めたキャンペーンを振り返りつつ、今後普及すると思われるトレンドを紹介したいと思います。

ジェイZとサムスンが作ったデジタル音楽マーケティングの新ルール

 今年最も印象的だった音楽マーケティングは、ヒップホップ・アーティストのジェイZがサムスンと手を組み、仕掛けたキャンペーンでした。

 このキャンペーンでは、デジタル、モバイル、メディア、ソーシャルとあらゆる要素を最大活用した斬新な戦略が展開され、これまでとはまったく違うかたちで消費者に音楽を届けるアプローチを作り出しました。キャンペーンの詳細は、こちらの記事に詳しくまとめています。

 ネットやソーシャル、モバイルが普及し、人々のコミュニケーションは大きく変化したにもかかわらず、音楽を届ける(売る)方法はこれまで大きく変化していませんでした。音楽は店頭やオンラインストアで販売し、宣伝はテレビ番組やオンラインメディアを通じて行い、新しいシングルや音楽PVをPRすることが一般的な音楽マーケティングでは普通と思われてきました。

 しかしジェイZとサムスンのキャンペーンでは、「新しいことにチャレンジする」というアーティストと企業ブランドの価値観を訴求することが戦略の中心に置かれ、より大きな枠組の中でそのブランドイメージを伝えるために、テクノロジー活用やメディア戦略が実施された点が、画期的かつ飛躍的でした。

 たとえば、テレビCMは商品内容がまったく分からないティザー動画を全米で最も視聴率の高いスポーツイベント(NBAファイナル)の最中に公開。消費者の期待を喚起したうえで放送直後にYouTubeでも公開するという、テレビとオンラインを組み合わせたメディア戦略がありました。

 音楽配信にはサムスンのGalaxy端末を使い、モバイルユーザーにはアルバムの公式リリース前に数量限定で配信、しかも配信のためにAndroidアプリを開発し、アプリを通じて情報を継続的に提供して消費者とのエンゲージメントも高めていくモバイル戦略がとられました。

 さらにリリースまでの間、YouTube動画ではサムスンのロゴが大々的に表示されることは一切なく(終わりにロゴが流れるだけ)、ジェイZもインタビューやテレビ出演をあえて控えることで、当事者がメッセージを発信するのではなく、消費者やブロガー、オンラインメディアがソーシャル上で音楽について口コミを拡散する、ソーシャルを使わないソーシャル戦略も話題づくりに重要な役割を果たしました。

 これらのアプローチは、先に述べた従来の音楽プロモーションのやり方と大きく異なります。これまでにないアプローチを戦略立てて実行する、新しいことにチャレンジする姿勢。これが、ジェイZとサムスンが最も消費者に伝えたかったブランドイメージでした。両者がこの価値観に共感することで、今回のパートナーシップで相乗効果を発揮する結果に結びついたのでした。

このキャンペーンがもたらしたマーケティングの転換点

 結果的に考えると、両者が売りたかったのは、アルバムでも最新のモバイル端末でもありませんでした。今回のキャンペーンでは、モバイルやソーシャルを使う消費者層に向けて、「ジェイZ、ヤバイ!」「サムスンってジェイZと組んでカッコイイ!」という印象を与えつつ、ルールに縛られずにチャレンジするオーセンティックなブランドイメージを共有し、中長期的な関係を構築しようとした点が非常に素晴らしいと思います

 後日談になりますが、サムスンはジェイZのテレビCMが放送されたNBAと、1億ドルに上る複数年のスポンサー契約を10月に結ぶことに成功しました。この契約にも、ジェイZとのキャンペーンで創出された消費者へのブランドイメージがインパクトを与えたと想定しても言い過ぎではないでしょう。

 またジェイZの奥さんのビヨンセは、12月にiTunes Store限定で事前プロモーションもすることなくアルバムをローンチ。ファンによるソーシャルメディアでの口コミだけを頼りに80万ダウンロード以上を売上げるという音楽マーケティング戦略を実行することで、iTunes Storeの記録を作ってしまいました。「歴史上初めて」「チャレンジする強い女性」「消費者と近い存在」などの価値観を見事に表現したビヨンセの成功も、消費者に強く共感される関係を構築していたことが要因だったと言えます。

 このキャンペーンの重要な点は、音楽ビジネス内にあるエコシステムを中心に考えたマーケティングではなく、消費者を主体に考えたマーケティング戦略であったことです。消費者が日常的に身近なチャネルを活用したマーケティング戦略によって、ブランドやコンテンツをより身近な存在へ感じてもらうコミュニケーションを実現したことは、従来の音楽ビジネスのやり方とは相反するアプローチであり、まだまだ可能性が残っていることを示しました。

 このアプローチは、届けたいブランドストーリーの形成と、消費者行動やソーシャル上のデータや効果測定に基づいた消費者と高いチャネルの徹底構築が必要になります。


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