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[東急ハンズ緒方×電通上原対談]ネットとリアルをシームレスにする東急ハンズのOtoO戦略とは?

 電通ダイレクトフォースでは、OtoOをテーマにした情報メディア『OtoOマーケティングラボ』を通じてOtoOに関連するノウハウや最新情報を発信を発信しています。今回は『O2Oマーケティングラボ』上で実現した、東急ハンズでECサイトの立ち上げからソーシャルメディアまで、デジタルマーケティング領域を担当する緒方恵氏と電通で事業者向けにOtoOの研究を行う上原拓真氏の対談を再編集して掲載。共にアドテック東京で登壇した小売業界・広告業界のエキスパート二人がOtoOについて熱く語っています。

株式会社 東急ハンズ ITコマース部 EC課 
ディレクター 緒方恵 (おがたけい)氏(写真左)
株式会社 電通 プラットフォーム・ビジネス局 ソリューション開発2部 
研究員 上原拓真 (うえはらたくま)氏(写真右)
株式会社 東急ハンズ ITコマース部 EC課 ディレクター 緒方恵 (おがたけい) 氏(写真左)株式会社 電通 プラットフォーム・ビジネス局 ソリューション開発2部 研究員 上原拓真 (うえはらたくま)氏(写真右)

顧客の生活に密着し、あらゆるタイミングで最適なコンテンツを提供する

上原:アドテック東京2013でもOtoOについて語っていらっしゃいましたよね。僕もOtoOの話をしました。ただ広告業界と小売業界とではOtoOという言葉で表すものが微妙に異なっているような気がします。本日はOtoOの概念的なところからお話しできればと思っています。

緒方:よろしくお願いします。

上原:僕のような広告業界の人間は、クロスメディアやコミュニケーションデザインの領域が、OtoOとほとんど同じだと捉えています。どうやってメディアを最適化し、集客していくかをOtoOという言葉で表しているんですよね。一方で小売業界では、このことをオムニチャネルという言葉を使って表しています。根底にあるものは同じだと思うのですが、最初に言葉の定義をしたいと思います。

緒方:まずオムニチャネルというのは、お客様がいつ、どこにいてもコンテンツを閲覧・購入・共有できる環境を提供することだと捉えています。お客様は好きな時間に好きなデバイスでWEBを見ています。

 そして、ネットとリアルを自分の(購買)行動に合わせてうまく使って、自分にとって最適なコンテンツを選んでいます。このため、事業者は、デバイスやブラウザに関係なく、お客様のあらゆるタイミングに合わせて顧客接点を作り、コンテンツを出しておくことが必要になります。オムニチャネルにはメディアミックスという概念もありますが、僕はOtoOも含めて「ごちゃまぜ化」という言い方をしています。

上原:つまり、オムニチャネルとは、「Online to Offline」に限らず、「Offline to Online」なども含めた、広義のOtoOのような考えですね。「ごちゃまぜ化」という言い方は面白いですね。

緒方:はい。一方OtoOというのは、Online to Offlineという意味ですので、オムニチャネルの一部として考えたほうが話が早く、単純に「WEBからリアルに送客・誘客する手法や手段」だと捉えています。このため、オムニチャネル施策を行う人がOtoO施策も行うと考えるとわかりやすく、効率も上がると思っています。ごちゃまぜ化の一部なので。

 また、社内やITと無関係のチームや人と話すときも、オムニチャネルやOtoOという言葉より「ごちゃまぜ化」のほうが、スムーズに齟齬なく方向性などを理解できるので、わざわざ難しい単語を使うこと自体がナンセンスな気がしています。多くのマーケティングバズワードは業界では通用したとしても、僕のいる小売業界、もっと言えば小売に限らず自分たちの業界や社内では通用しないことも多いです。このため、マーケターとしては、そういった業界用語をわかりやすくして社内等に持ち込む・持ち帰る姿勢も大事ですね。定義の議論が必要な単語は、可能な限り共通認識できるような言葉に変換していきたいと考えています。

上原:そうですね。相手に合わせ、僕たちも言葉を使い分けています。例えば「入口と出口」という言い方になぞらえて、僕たちの立場を考えてみます。入口に立つのはメーカーの方をはじめとするマスマーケティングを行う事業者様のことで、出口に立つのは小売業の方や効果測定の権限を持つ方々のことです。入口側の人間は、出口に立つ人にとってベストな方法を厳選して提案しなくてはなりません。ところが現実は、入口側の人は出口側の人と関わるときに、様々なノイズを浴びせてしまうところがあります。その結果、やたらバズワードを登場させては、出口側の人の頭を混乱させてしまったり……。

緒方:お客様に合わせるという視点はとても重要です。お客様が普段使うものや行動に紐づいていなければ、サービスとしては弱いでしょう。しかしながら、入口側だけの話に限らず、アイデアに消費者視点が抜け落ちている場合があります。そうなると、良いアイデアも気持ち良いサービスではなくなってしまいますよね。そもそもOtoOはリアルが出口。となると、これまでのWEB施策以上に、お客様の行動や生活と密着して考えるべきです。先述したように、手法だけ切り取って換装を考えてしまうと、お客様の生活から外れてしまうことがあります。

 会社に行く、ランチに出る、仕事をする、帰る、家に着くというお客様の1日の流れの中で何かしらコンテクストがないと、OtoOとの接点は生み出せないですよね。例えばLINEはなぜヒットしたのか。もちろんタイミング等の要素はあるものの、生活と行動に密着したツールだからまず受け入れられ、かわいいスタンプなどの付加価値で、LINEを使いたいと思わせる要素をグッと引き上げた。その結果、多くの人が使い、コミュニケーションインフラの1つとなり、他のアプリよりも滞在時間が長く、滞在回数も多くなった。だからマーケティングプラットフォームとしてうまく回る確率がグンと上がる、ということですよね。

店員のエンジニア化の狙いとは

上原:デジタルマーケティングの領域では最新テクノロジーが日々続々と登場しています。そのテクノロジーを活用して新たな施策を実施する際、どんなことに気をつけていらっしゃいますか。

緒方:「最新のテクノロジーは最高のサービスではない」というのはよく話していますね。特に各企業が抱えているお客様のリテラシーはそれぞれで異なるので、A社の顧客にとって最高なサービスがB社の顧客にとって最高とは言えないはずです。自社のお客様にとっては何が最適なのかということを真剣に考えなくてはなりません。

 弊社はリアル店舗を持つ小売業なので、当然接客をするなかで、お客様の日々のリテラシーや行動を抽出してまとめ上げていきます。提供サービスに消費者視点を組み込むために、外部からアドバイスを受けるなど、各社さんそれぞれのやり方があるかと思います。弊社ではその解決策の1つとして、店員だった社員をエンジニアにし、いまでは社内システムのほぼ100%を内製化しています。

上原:リアルな顧客行動を理解している店員が、エンジニアとしてサービスを作るわけですね。

緒方:はい。お客様と接点を持っていた、お客様視点を持ったエンジニアがコードを書くのです。先ほどの入口と出口の話でいうと、出口に立つプレイヤーが自社のお客様のリテラシーを考えることができないと、うまくいくわけがありません。その際に自社のお客様のリテラシーを調査する必要があり、これが流行っているからやろう、ほかの企業が成功していることだからやろうというスタンスが先行するのは基本的にはあまり良くありません。

上原:でも先月までモノを販売していた社員が翌月からはエンジニアになるって、なかなかできないことですよね。

緒方:実は小売業というのは、主に四則演算領域で動かす仕組みがほとんどなので、習熟する言語を絞って開発できるという背景があります。例えば「心斎橋店で在庫が1個売れました」となると、システムは「心斎橋店の在庫をマイナス1にします。すると30あった在庫が29になります。売上金には1000円を追加します」というような、関数を仕込んでおいたエクセルで求められるようなシンプルな動きがほとんどなのです。

 言語を絞ってなるべく習熟しやすいプログラミングにしていることもあり、お客様目線を持った社員を一からエンジニアとして育てたほうが、お客様にいいものを提供できるのではと思ったんですよね。ちなみにエンジニアを集めた部門は2013年の4月1日に子会社化して、いまのところは概ねうまくいっているという認識です。

上原:なるほど。社内の根幹を担う部分を自分たちで作っていると、社員としては事業を背負っている感覚を持ちやすく、社員も事業も育っていくものだと感じますね。

緒方:スピード感を持ってお客様にコンテンツを提供することも、内製化のもう1つの目的です。消費者視点とスピードを意識しながら、2009年に立ち上げたのがヒント・マーケットというコンセプトでした。実際に目的の商品を買った満足度にプラスして、お客様にいいモノを買った喜びを感じてもらったり、「あなたの場合はあの商品よりもこの商品のほうがいいですよ」と、よりいいモノをおすすめして満足してもらったりする体験を提供することを目指す発想です。商品購入にプラスして、ヒントを持ち帰ってもらおうという感覚。接客を元にした「体験」を提供して、お客様から愛してもらおうという東急ハンズの方針です。これを体現するためにも、内製化というのは必要なステップだったのではないかなと。

上原:内製化できることは、すばらしいことだと思います。僕自身も御社のような事業者様側がコミュニケーション領域を内製化して、現状では広告代理店側が担っている作業も巻き取っていかれるのが望ましいと感じています。その分、僕ら代理店側は、事業者様のビジネス構造の深部まで理解し、皆さんでも把握しづらいエンドユーザーのインサイトに基づいた上で、コンサルティング面でのご提案ができるような役目を担っていかなければと思っているんです。多くのお客様を支援してきたことから得られる、専門会社としての知見を使って、上流から支援していきたいと考えています。

顧客が自社に求めるものを徹底的に考えた

上原:お客様から愛してもらえるような接客を目指した「体験の提供」にはTwitterも含まれているのでしょうか。

緒方:そうですね。リアル店舗に商品のことを知り尽くした店員がいるのと同様に、Twitterでも「WEB上にも頼れる店員がいますよ」とお客様に伝えているつもりです。

上原:東急ハンズさんのTwitterを見ていると、以前と比べて運用方針が変わったような気がします。始められた2009年当時は、他の企業での事例もあまりなく、先駆けだったと思います。

緒方:海外の先進事例を参考にして試行錯誤しました。最初は商品情報を含めた、企業として「お伝えしたい」情報を「発信すること」を軸にしていましたが、徐々にTwitterの在り方を変えていきました。

 お客様が自社に求めるものを徹底的に考えた結果、Twitterにカスタマーサポートの役割を持たせるように育てました。お客様が質問したいとき、リアル店舗であれば近くの店員に声をかけてもらいますが、家でスマートフォンを使っていればTwitterで話しかけてもらいたいと思っています。「ソーシャルメディア接客」という表現がぴったりかもしれません。

上原:Twitterはお知らせを配信するメディアという印象が強く、そういう意識で運用している事例は少ないように感じます。何をきっかけに運用方針が変わったのでしょうか。

緒方:「コレカモ.net」(編集注:ツイートから商品の在庫状況を確認できるTwitter連動型のWEBサービス)を開発する背景でもあったのですが、一定期間運用を続け、一定量、東急ハンズのファン=フォロワーがついた頃から、twitterを通じて質問を頂くことがジリジリ増えてきてからです。そこで質問ですが、東急ハンズに限らず、小売店の実店舗にメールや電話で在庫状況を問い合わせたことってありますか?おそらく、多くの方が経験ないと思うんですよね。

上原:確かに。とくに若い人だと小売店に対して問い合わせの電話をかけることはあまりないかもしれませんね。Twitterで気軽にリプライやダイレクトメッセージをすることは抵抗なくても、電話だと面倒くさいと感じる人は少なくないでしょう。

緒方:店舗にあまり電話しないという事実は、購買意欲がそれほど高くないか、「小売の実店舗に電話やメールをして問い合わせる」ことのハードルが高いかのどちらかですが、僕は後者が主な理由だと考えています。一方、ソーシャルメディアは、メールや電話とは違って気軽にコミュニケーションできるツール。さらにスマートフォンはあらゆるものを気軽にしたデバイス。その2つが掛け合わさっていることもあって、Twitterに気軽な質問がたくさん寄せられるようになったんです。

上原:例えばどんな感じで質問が来るのでしょうか。

緒方:「(商品名)ある?」と質問が来ます。おそらく移動中でしょう。「あります」とリプライすると「じゃあこれから行きます」といったやりとりは以前からありました。それならオンライン上で在庫を確認できるようにしたらいいのでは、ということでコレカモ.netを作ろうと思い立ったのです。

「Twitterで遊んでいるのでは?」と思われることもあったソーシャルメディア運用

上原:新しい施策実施に際して、社内の理解をどう得たでしょうか。緒方さんはTwitter運用を始めた当初、社内の一部から「お前は給料をもらってTwitterで遊んでるのか」と言われたことがある、というのをどこかで読んだことがあります。

緒方:昔は言われたこともありましたね(笑)。しかし、基本的には何か新しい施策を始めるときは、チームのボスが役員勢を説得してくれます。また、社長も新しい取り組みに寛容で勉強熱心なので、僕らが提案したことが実現しやすい土壌は整っていると感じます。

上原:上層部の理解は必要な要素ですね。一方、代理店としては、トップダウンでないことを言い訳にしないようにすべきとも思っています。OtoOでは、マスメディアの施策からデジタルプロモーション、店頭施策まで、事業者様のマーケティング戦略と首尾一貫した施策が必要だと考えていますが、言うはたやすく、実施は難しいのが現実だと思います。代理店はあるべき姿を提示するだけでなく、事業者様の懐に飛び込み、担当者と一緒に汗をかいて社内認知を図ることが必要だと考えています。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2014/03/25 14:00 https://markezine.jp/article/detail/19493

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