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「ネットの表現」を探る ~『ネットで「効く」コピー』刊行特別企画~

【おおつね×けんすう対談】ネットウォッチは紳士の楽しみ。むきだしの世界となめらかなコミュニケーション


いまは機械の力で80点取れる

Bot説とも近いんですが、Gunosyが出てきたときに「おおつねさんをフォローしていれば、Gunosyはなくてもいい」みたいな話もありました。

おおつね でも、SmartNewsとかGunosyみたいな、話を集めてカスタマイズして、みんなに見せるっていうのはコンピュータの使い方としては非常に正しいと僕は思うんです。要は80点を機械の力で取るっていうのは非常に正しい使い方だなと思うから。

もちろんネットウォッチャーがチャットとかで情報交換をしてるときに何を交換するかっていうと、80点のやつは、もうみんな見てるから要らないんです。今日のアクセスランキング1位から100位のやつも見ない。何を見るかっていうと、たぶんその人以外に日本でアクセスしていないだろうけど面白そうなやつっていうのが見たい。それはGunosy、SmartNews系ではピックアップされないし、ランキングにも絶対出てこないから、人力で掘って、たぐって、「こういうのを見つけたよ」ってネットウォッチ好きな人にしか需要がないチャットとかで流通するしかない。

「PeerCast」という映像配信サービスの掲示版を見てると、ほとんど社会的にダメな感じの人が、すごい愚痴ったり弟とけんかしたりしてるのが面白いというのがキャッチできたりする。語弊がすごいあるけど、ほとんどやらせがない『電波少年』とか『DASH島』を見てるような気分になれる。あれはいろいろ演出があってみんなが見やすいように作られてると思うんですけど、あれがもっとむき出しな感じで見られるわけですよ。

コミュニケーションから生まれる2つのコンテンツ

古川さんがコミュニティサービスを作るときは、楽しい場所を作りたいという気持ちが強いのでしょうか?

古川 ものによりますね。「nanapi」も投稿できるサイトなんですけど、これは読み手に重きを置いてます。コミュニティサービスって、書き手に重きを置くか、読み手に重きを置くかで結構違う。nanapiはどちらかというと実用的な情報で、ただ使えればいいという感じなので無機質に近いですね。

「アンサー」というコミュニケーションアプリでは、自分たちが書き手であり、内容の重要度については極端に下げている。コミュニケーションで生まれるコンテンツはふたつあると思っていて、ひとつは「パケット型」、内容が重要なものですね。おおつねさんが話していたように1行で済むわけですよ、「おまえの言ってることは間違ってる」って言うのは。だから装飾したりするのは無駄と言えば無駄ですと。

もうひとつは「グルーミング型」って言うんですけど、内容はどうでもいい。あなたの言ってることが間違ってるとか正しいよりも、「あなたのブログを見ました。すごいステキな文体ですね」みたいなところから始まる、そのコミュニケーションのなめらかさが重要な人たちっていうのも結構いて、いまやってるアプリだとこっちにフォーカスしてますね。

中身はかなりどうでもよくて、お互いに何となくなめらかにつながってる感じを得られればいい。なので、普通の人が読んでも全然面白くないという感じの設計にしてたりする。そういう違いはあるとは思いますね。

おおつね 「ミケネコかわいい!」と言ってるところに、「いや、クロネコのほうがかわいいだろ」ってやり出したら、おかしくなっちゃうもんね。

古川 そうですね。「統計だと『クロネコのほうがかわいい』っていう人が42%です。間違ってます」って言われてもびっくりしちゃう。多分、そこは全然重要じゃないんですよね。「ミケネコかわいいね」という発言を見たときに、かわいくないと思っても、「かわいいね、そうだね」って言うのがコミュニケーションのスタイルで。

公園の真ん中にブランコを置いたら

古川 以前、おおつねさんの投稿でなるほどなと思ったのが、性欲っていう人間の三大欲求のひとつは、性の欲求というより人間どうしのつながりの欲求みたいな、もうちょっと広いものだという話。感覚的にそれは結構近くて生存本能に近いんじゃないかなと。

お互いに敵じゃないよっていうコミュニケーションで、何となく安心感を得るっていうのは求められている気がしている。モヒカン族的なところでは、中身や正論が重要なコミュニケーションなんですけれども、そこではないものが、いわゆるインターネットにあんまりハマらない人たちの中で重要なので、こっちのほうが最近のコミュニティとしては興味がありますね。

おおつね 正論を言う人とそうでない人って分け方だとすると、正論を言う人の重要なルールで、「公平さ」っていうのがあるんです。要は「あなたと私は対等な立場である」というルールが非常に重要視されるんだけど、そうでない人たちって公平さは割とどうでもいいんですよね。

よく炎上したときに「おまえの言ってることってブーメランじゃん」ってことがあるけど、炎上する人にとってそんなことはどうでもいい。私は馬鹿にされたくないが、自分は(他人を)批判するブログを書くんだって公言しちゃう。それは非常に重要な差としてありますね。

「なめらかなコミュニケーション」に持っていくやり方というのはあるんでしょうか。

古川 アーキテクチャの話になるんですけど、公園の真ん中にブランコを置いたら子どもが遊ぶかもね、みたいな感じでやるんです。でもそのブランコはブランコとして使われずに、鬼ごっこの場所として使われてもいい。ある程度「こう動くかもな」と考えて設置するけれど、そこまで持っていったりはしない。それやるとすっごいつまんなくなるんですよ。なので、ユーザーさんが好きなように遊べるようにするっていうのは結構重要かなと思ってます。

それは古川さん自身のコミュニケーションの好みとは違う場合もあると。

古川 違くなるときもあります。Twitterとかで「放射能は危なくないよ」って正論をぶつけたときに、「でも子どもかわいそうじゃん」というふうに内容ですれ違う場合がよくある。その片方のこっち側だけで構成したら面白いかもと考えて、そうなるようなアーキテクチャにすることはありますね。単純な例を挙げると、「スマホでしか投稿できないようにする」→「長文での論理立った文章が減る」といった工夫をしたり。

「ブーメラン」

他人を批判しているとき、その批判の対象となることを批判している本人がやっていること。投げた武器がブーメランのように返ってきて刺さっている、というイメージ。(おおつね氏)

異なるコミュニティで同じことが繰り返されていく

最後に、おおつねさんがハマっている「Ingress」というゲームについてお聞きしたいです。

おおつね これ、いままでの話とちょっと関係があるんですけど、IngressってGoogleのゲームなので、主にGoogle+やGoogleハングアウトで情報交換をするんですよ。あるとき、ゲームの攻略について非常に煽った書き方と非常に優しくした書き方の、はてな匿名ダイアリーがあった。僕はこんな面白いのがあるよってGoogle+のIngressのコミュニティに投げたら、「空気を読んでやめてください」って言い出す人がいたんです。

TwitterやFacebookで同じことをやっても、またおおつねがやってる、あいつに説教しても無駄だからと、こういう言われ方をすることってなかった。だから新鮮な気がした。違うコミュニティ、過去情報が参照されない場所で、2000年ぐらいに起こった出来事と同じことがいま起こってる。この間、東京から高知県に移住したブロガーの人を知らないから、大学生は情弱だと言い出してる人がいましたけど、知らない人のほうが圧倒的に多いだろって思う。あれと同じ現象がある。

古川 YouTuberとかニコ生主のほうが有名だけど、ネット業界の人はあまり知らないとも言いますよね。

おおつね YouTuberの有名人でも、ジェット☆ダイスケは知ってるけど中学生YouTuberは知らないとか。

古川 彼らのフォロワー数は僕の5倍とか10倍いる。知名度で言うと全然そっちなんだけど、観測範囲が違うんでしょうね。

ネットウォッチの話は尽きませんが、今日はこのへんで。おふたりともありがとうございました。

終わりに

昨年、「ウェブ時代の文章読本2013」というイベントに参加しました。ウェブ時代の”読まれる文章”の書き方を実際のブログ記事を取り上げながら考えるそのイベントは、歴代の文学者が記した「文章読本」の話からスタートし、文学の世界とネットの文章をつなげるかたちで議論を展開。それに耳を傾けながら、日本文学史につながることもなく、日々生み出される膨大なネットの文章のことを考えていた私は、違う切り口でネットの表現についての話を聞きたいと考え、今回の対談でようやく実現しました。

最後に、ネットの表現のエピソードをひとつ。よく、ある特定の嗜好をもつ人々の集団を指すときに「○○クラスタ」という言葉が使われますが、これは2007年ごろにおおつね氏がTwitterのコミュニケーションを分析した際に統計解析やグラフ理論の用語「クラスタ」を使ったのがきっかけと言われています。この言葉は、その後ちょっと違う意味合いで広がっていきました。

現在、おおつね氏はIngressのために海外や沖縄へ出かけ、水を得た魚のようなエージェント活動を展開中。古川氏は、海外展開を目指して、英語で日本の情報を発信するメディア「IGNITION」をスタート。これからもどんな活動を展開するのか興味は尽きません。

初顔合わせにもかかわらず、対談を快く引き受けてくださったおふたりに感謝します。
(MarkeZine編集部 井浦薫)

※編集部注:記事公開当初、クラスタの本来の意味とは違う意味でおおつねさんが使ったように記述していましたが、上記のように修正しました。(2014.9.11)

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2015/05/12 16:59 https://markezine.jp/article/detail/20777

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