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MarkeZine Day 2014 Autumn(AD)

「分析」で得た知見を「顧客対応」へ、ブレインパッドが語るOne to Oneマーケティング成功の秘訣

 めまぐるしく変わり続けるマーケティングの中で、今なお取り上げられるOne to Oneマーケティング。「MarkeZine Day 2014 Autumn」では、データ分析をコアコンピタンスとして、創業以来一貫してOne to Oneマーケティングに取り組んできたブレインパッドが、事例とともに成功のポイントを紹介した。

One to Oneマーケティングは顧客への「おもてなし」

株式会社ブレインパッド ソリューション本部 営業部 プロダクトマネージャー 林 隆司氏
株式会社ブレインパッド
ソリューション本部 営業部
プロダクトマネージャー 林 隆司氏

 分析テクノロジーの進化やSNSなど新しいネットワークサービスの発展に伴い、マーケティングの技術・手法は近年めまぐるしく変化している。ところがこうした中でも、20年前から提唱されてきたのに、今なお色褪せていないマーケティング概念がある。それがOne to Oneマーケティングだ。

 「データ分析」をコアコンピタンスに事業を営むブレインパッドは、10年前の企業設立以来、国内トップクラスのデータサイエンティストの分析力を背景にOne to Oneマーケティングに取り組んできた。それでも、同社プロダクトマネージャーの林隆司氏は「長年やってきても、『One to Oneマーケティングは難しい』と常に感じています」と語る。

 理由は何か。「顧客ニーズの多様化と変化の早さ、増え続ける情報量に、企業は翻弄されています。情報の中には、役立つものもあるけれど不要なものもあり、『どのデータを使って何をしたらいいか分からない』という状態に疲弊しているのです」林氏は説明する。

 そもそも、One to Oneマーケティングとは何かを定義できていない企業も多い。ブレインパッドでは、One to Oneマーケティングの基本を、「個々の顧客に合わせたアプローチをする『おもてなし』」だと考えている。心地よいおもてなしを提供するには、顧客を知ることから始めなくてはならない。その上で、その顧客に対して最適なコミュニケーション=パーソナライズドコミュニケーションを取る必要がある。これにより顧客ロイヤルティを向上し、ひいては顧客ライフタイムバリュー(LTV)を上げていく。これがOne to Oneマーケティングだ。

顧客を知るために必要な2種類のデータ

 では、顧客を知るにはどのようなデータが必要なのか。林氏は、顧客の購買データやWebの行動ログ、メルマガの反応などの「行動と動機」に関するデータ、そして性別や年齢、居住地、企業側のセグメンテーション情報といった「生活と態度」に関するデータの2種類を挙げる。顧客の行動パターンや過去の履歴を基に、「何を欲しているか」「なぜそれが必要なのか」を分析し、さらに性別や年齢などのデモグラフィック情報によって顧客についての理解を深めていくわけだ。

 だが、顧客への理解を深めただけではOne to Oneマーケティングは完成しない。大切なのは、この分析結果を踏まえて顧客とコミュニケーションを図ること。これによって、初めて自社の付加価値が高まる。林氏は「ファストフードや食券制の飲食店と、一流の料亭の違いはここにあります」と説明する。「顧客の指示に応えるだけではなく、そのニーズを踏まえて適切にコミュニケーションを取れることが、高い付加価値を生み出しているのです」

 適切なコミュニケーションの実現に向けては、大きく2つの軸で考えることができる。1つは「コンタクトを取るタイミング」、もう1つは「オファーの内容」だ。タイミングが良くても提案がニーズに合わなければ意味はないし、その逆もしかり。さらにきめ細かく考えるなら、「量(頻度)」もポイントになるだろう。つまり、分析とコミュニケーションの両方があって初めてOne to Oneマーケティングが実現できるのだ。以上を踏まえるとOne to Oneマーケティングを実現するためのIT要素は、次の2つに落とし込める。

  • 顧客を知るための「アナリティカルCRM」
  • 顧客とのコミュニケーションを実行する「オペレーショナルCRM」

 前者はBIや統計解析ソフト、データマイニングツールなどが挙げられる。後者は、SFAやメール配信システム、キャンペーンマネジメントツールなどがある。

 この2つのIT要素を連動させることでOne to Oneマーケティングを実行していく。では、具体的にどうすればいいのだろうか。次のページから、ブレインパッドで実際に取り組んだ実例などを基に、One to Oneマーケティング実行のポイントを説明していく。

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分析は「目的を達成するため」に行うべし

株式会社ブレインパッド マーケティングオートメーションサービス部 部長 東 一成氏
株式会社ブレインパッド
マーケティングオートメーションサービス部
部長 東 一成氏

 続いて会場では、同社マーケティングオートメーションサービス部の東一成氏が登壇。まずはアナリティカルCRMを使ったOne to Oneマーケティングの取り組みについて、実例を基にポイントを述べた。その肝となるのは、「データ分析を目的とするのではなく、目的を達成するために分析する」ということだ。

 東氏によると、昨今のビッグデータの流行をきっかけに、「データ分析をしたい」という企業が増えているという。だが、データ分析をすれば、問題点ややるべきことが弾き出されるわけではない。これについて東氏は「『データ分析をすれば、目的が見えるのでは』という期待は理解できますが、まず必要なのは『ミッション』です」と忠告する。そのミッションを実現するためには、戦略目標を設定する必要がある。これは、目標の進捗を具体的に数値で落とせるKPIが設定できるものほど良いという。

 例えば「顧客ロイヤルティを向上したい」「売上を上げたい」というだけでは漠然としている。しかし、例えばカード会社であれば「ゴールドカード保有者の比率を上げたい」、ネットショップなら「一人当たりの購入単価を◯%上げたい」といった数字に落とし込める。これがより具体的な戦略目標とKPIとなる。この目標を達成するために、「半年後までに比率をどこまで上げるべきか」といったKPIのしきい値を決めることができる。設定したKPIをクリアしていけば、最終的に目標達成につながる。そしてKPIをコントロールするのがマーケティング施策であり、そこで必要なのがアナリティカルCRMを用いた予測分析というわけだ。

アナリティカルCRMで顧客ニーズを引き出すには?

 ここでいう予測分析とは、分かりやすくいえば確率予測のこと。具体的には、「購入確率の高い顧客をセグメント化する」「将来発生する顧客のニーズを予測する」ということだ。

 従来こうした取り組みを実行するには、悪くいえば「勘」に頼るしかなかった。例え顧客データや購買データがあったとしても、誰がどの商品を購入するかを算出するには、膨大なデータの組み合わせが必要になる。その大量の組み合わせから確率を算出するのは至難の業だ。そこで一般的には「購買ニーズの高いF1層に限定し、単純な購入割合を計算して、高ければDMを送ろう」といった施策が取られることが多い。

 だがこれだと、潜在ニーズを抱える顧客層を見逃してしまうリスクがある。これを解決するのがデータマイニングや機械学習のアルゴリズムだ。これらの技術を活用すれば、膨大な組み合わせの中からルールを見つけ出し、確率計算の数式が立てられる。それを大量のデータに適用すれば、購買確率の高い顧客リストが生成されるという仕組みだ。

 「そのため、分析の前にまずデータを整備する必要があります」と東氏は語る。技術的にいえば、顧客を軸にして過去の購入明細やWebのアクセスログなどを1行のデータにまとめ、商品購入可能性について「0」「1」のフラグを立ててデータを整えるといったものだ。この過去データにアルゴリズムを適用すると、確率が算出されるという。

誰に何が必要? 過去データから予測する

 続いて東氏は、アナリティカルCRMおよびOne to Oneマーケティングの実例として4社の事例を紹介した。米国の資材流通大手のグレンジャー社の100%子会社でMRO(Maintenance, Repair and Overhaul)事業を営むMonotaRO社は、60万顧客・2,500項目・1,200万件以上(数値は本事例の公開当時)の購入履歴データを基に予測分析を行い、ほぼ毎日キャンペーンを実施。キャンペーン商品については、過去の履歴から購入確率の高い顧客にメール/FAXを配布してアピールすることで売上増を実現している。

 また米小売大手のSears社も、7,500万人超の顧客データを基にカタログ送付対象者を高精度で自動抽出、年間数千万円のコスト削減のほか、購買確率の高い顧客に適切にアプローチしてクロスセル/アップセルを実行し、同じく数千万円の利益増加を達成しているという。

 この2例に対し、レコメンデーションによってOne to Oneマーケティングを実現している企業もある。月額固定料金で様々な音楽を配信するRhapsody社は、顧客満足度向上に向け、一人ひとりに最適な音楽をレコメンドする必要があった。そこで、過去の再生履歴データを基に同じ趣味・思考のユーザーをセグメント化し、パーソナライズ機能の向上を実現したそうだ。また、映画紹介サービスの仏Allocine社は、登録ユーザーへの映画レコメンドの精度を上げるため、監督・俳優・ジャンルなどの共通属性を持つ作品同士を重み付けしてリンクし、公開前の新作映画や旧作を含めてレコメンドの品質を向上したという。これによりサイトのPV数が伸び、広告収入も9~15%に向上した。

 こうした分析結果を実行するのがオペレーショナルCRMだ。本講演では、オペレーショナルCRMの取り組みについて実例を交えて解説された。

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なぜ、オペレーショナルCRMによる自動化が必要なのか

 壇上では、東氏に代わって林氏が再登場。オペレーショナルCRMの役割について説明をした。オペレーショナルCRMの役割とは「アナリティカルCRMで算出された予測確率を基に、具体的に取るべき施策を自動化することにあります」と林氏。

 なぜ自動化が必要なのか。それは適切なコミュニケーションを実現するには、顧客の「カスタマーステージ」と「顧客行動」の2つに基づく適切なタイミングが肝心だからだ。

 一般的に顧客中心のアプローチでは、顧客のLTVの最大化を目標とし、カスタマーステージに合わせて必要なオファーを提示し、新規顧客から通常顧客へ、そして優良顧客へと育成していく。例えばECサイトでは顧客を育成するために、それぞれのカスタマーステージに合わせてキャンペーンを打つことが多い。そしてそのまま「優良顧客」に育つケースもあれば、カートに品物を入れたまま放置する顧客もいる。カート放置の場合は、レコメンドメールなどで購入を促すこともあるが、それでも購入に結びつかず、そのまま休眠顧客に入ってしまうこともある。

 林氏は、「これらのステージや行動に合わせて、1つひとつ手動でコミュニケーションすることは不可能です。そこでオペレーショナルCRMによる施策の自動化が必要なのです」と説明する。

「分析と実行のバランス」が成功のポイント

 オペレーショナルCRMに関し、ブレインパッドではキャンペーンマネジメントシステム「Probance Hyper Marketing」を提供している。実際にこのシステムを導入した、あるEC事業者では大きな成果を挙げているという。その事業者は顧客育成を目的に様々なキャンペーンを展開しているが、今回はメインとなる次の3つのキャンペーンが紹介された。

  • カート放置キャンペーン
  • Web閲覧後フォローキャンペーン
  • クロスセルキャンペーン

 カート放置キャンペーンとは、カートに品物を入れたままの顧客に対し、カート投入製品のオファーメールを顧客に送付するというもの。メールのコンバージョン率は翌日に送った場合だと10%ほどになる。通常のメルマガの場合は0.5%ほどだったので約20倍の効果だ。カートを放置する顧客は毎日全体の0.9%ほど発生するので、50万人の顧客がいる場合は1日450人がカートを放置する計算だ。だが翌日に10%の顧客がキャンペーンメールに反応するのであれば、45人が購入することになる。放っておけば生まれなかった売上だ。

 さらに効果が高いのは、Web閲覧フォローキャンペーンだ。これはカートへの品物投入や購買がなく、Webを閲覧して離脱してしまった顧客が対象。閲覧した商品や関連のある商品をメールでオファーするというもの。この人数はカート放置に比べると多く、全体の3%ほどだ。コンバージョン率こそ翌日に送った場合だと2%だが、対象人数が多い分その効果は大きいという。

 前出の2つに対し、クロスセルキャンペーンの対象者は購入した顧客。クロスセルのオファーメールは購入の翌日とその後一定間隔で送られる。コンバージョン率は翌日が4%ほどとなる。

 この企業は、3つのキャンペーンによる効果を売上の10%強と見ているそうだ。もちろん、その他のキャンペーンと競合していることも考えられるが、半分以上は「このキャンペーンの効果だと考えられます」と林氏は語る。

 なぜここまで高い効果が出たのか。林氏はその理由について「A/Bテストで、メールを送るタイミングを決定したからです」と説明する。例えばカート放置では、ある一定期間を過ぎた場合、急激に反応が落ちた。Web閲覧後フォローでも同様だ。タイミングを間違えるとオプトアウトにつながるリスクもある。「自動化の前のA/Bテストは非常に重要です」と林氏。

 しかし最も大切なポイントは、One to Oneマーケティングは分析だけ、もしくは戦略なき施策実行だけでも機能しないということだ。東氏は「One to Oneマーケティングを実施するには、分析と実行のバランスが重要です」と述べる。理想としては、基となるデータがあり、そのデータを活用してアナリティカルCRMで適切な予測を立て、その科学的なアウトプットに基づいたオペレーションを自動化するサイクルを回すこと。東氏は「顧客とのコミュニケーションを実行するオペレーション部分に、アナリティカルな数学的知見に基づく分析を反映することで、お客様とのリレーションシップを維持できます」と語り、講演を締めくくった。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2014/11/11 10:20 https://markezine.jp/article/detail/21081