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MarkeZine Day 2017 Spring レポート(AD)

2017年度、ブランディングに求められるのは「回帰と変革」 antenna*が示す5つの新潮流

 2017年、マーケターはどのようなブランディングの潮流に注目すべきか? 全体を貫くキーワードとして、グライダーアソシエイツの荒川徹氏は「回帰と変革」を掲げる。3月1日(水)から3日(金)の3日間にわたって開催されたMarkeZine Day 2017 Springでは、新年度を目前に控え、キュレーションメディア「antenna*」が蓄積するユーザーデータや知見、また広告主の志向変化を踏まえた2017年度の傾向が5つ紹介された。

7つのチャンネルへリニューアル、厳選した情報を提供

 2017年5月に5周年を迎える、グライダーアソシエイツのキュレーションメディア「antenna*」では、2月に大きなリニューアルを実施した。1次取材を行う出版社やラジオ局、Webメディアを中心に300ほどの媒体と契約し、ユーザーを各媒体への送客にも注力する姿勢はそのままに、見せ方を大きく変更。「プレミアム」「woman」「man」「暮らし」「おでかけ」「エンタテインメント」 「コラム」の7つのチャンネルを置き、それぞれチャンネルオーナーを立てて編成する体制とした。

 antenna*ではサービスを運営する上で、「Qualia」という概念を重要視している。質、とりわけ主体的な体験がともなう質感を意味する言葉だ。antenna*で表現されるユニークコンテンツを配信し、デジタルデバイス上での五感を刺激するような伝え方を模索しながら、最近では提携メディア・広告主とのイベント共催などにも積極的だ。

 また、閲覧データをはじめとするユーザーデータの分析を通して、昨年末から提携メディアや広告主である企業に知見を提供するサービスも開始。こうした独自の事業展開は早くからナショナルクライアントを中心に評価され、多数のブランドのパートナーとして支援を行っている。

 antenna*は今年4月に、ブランディングの潮流として10のキーワードの発表を予定している。2017年、全体を集約するキーワードは「回帰と変革」。「ユーザーも情報の本質的な価値を見極めるようになり、同時に企業も、コミュニケーション施策において何が重要なのかを見直す動きがあります。たとえば変化し続けるラジオの良さが改めて注目され、広告出稿量が増えていることなども、回帰と変革という流れを感じさせます」と荒川氏。講演では、以下の5つが紹介された。

  1. 加速する借脳社会
  2. コンテンツ流通構造のさらなる変化
  3. ブランド経験マネジメント
  4. Relevancy 再認識とエンゲージメント
  5. Trans-Fusion

求められる借脳社会への対応

 荒川氏が1つ目のキーワードに挙げたのは「加速する借脳社会」。ここでいう借脳とは、かつては自分で覚えたり調べたりする必要があった情報も、今やネットで検索すればすぐにわかるため、まるでネットに脳の一部を借りているような状態を意味している。それは人間の能力を拡張する一方で、スマートフォンを長時間使っている人は記憶力の低下や、物事への関心が薄れるといった調査も報告されている。

 良し悪しはあれど、この借脳社会の加速はもはや止められない。この傾向が、広告主や広告会社にとってネガティブに表れている点として、荒川氏は昨今取りざたされているアドブロックを挙げる。

 「日本はまだアドブロックの利用率がどの年代においても低いのですが、他の先進国を見ると、若年層では半数以上という国もあります(※)。これまでのように、表示された広告をスキップするのと違い、アドブロックが浸透すると広告の流通自体が止まり、広告主にも広告事業者にも大きな影響が及びます。今後導入率がどう推移していくか、注目しておく必要があります」(荒川氏)

Reuters Institute DIGITAL NEWS REPORT 2016内
「Proportion within each age group that currently use Ad-Blocking」より参照
※出典:Reuters Institute DIGITAL NEWS REPORT 2016内「Proportion within each age group that currently use Ad-Blocking」http://digitalnewsreport.org/survey/2016/overview-key-findings-2016

 一方で、借脳社会だからこそ生まれているサービスもある。たとえば、スタイリストが好みの服を選んで送ってくれる、月額制のファッションレンタルサービス「airCloset」は、都市部の女性を中心に人気だという。「考えることからも解放する、こうしたサービスは、他の業種や業態でもビジネスチャンスがあると思います」と荒川氏。

分散型アプローチは企業のオウンドメディアにも

 2つ目は「コンテンツ流通構造のさらなる変化」。以前は、マスメディアを通じて広告主からの情報がパッケージとして生活者に届いていた。だが、生活者がWebを含めた様々な情報源に接し、SNSなどを使って発信者にもなっている今では、情報が届く矢印は一方向ではなくなっている。

 その矢印に乗って流通するコンテンツも、非常に断片化しているのが現状だ。昨年大ヒットとなったドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」、通称“逃げ恥”を例に挙げると、話題の大きさの割にTBSで放映されていたことはあまり知られていないのでは、と荒川氏は指摘する。

 「コンテンツだけが一人歩きするようになった結果、生活者にとってどの媒体社が制作したのかということは、あまり気にされなくなっています。それでは良質なコンテンツを生み出しても恩恵を受けられないので、今までよりも一層“自社含め誰が手掛けているんだ”と声高にいう必要が出てきています」(荒川氏)

 一方で、この断片化を味方につけた動きが、近年起こっている「分散型アプローチ」だ。これが今、オウンドメディアを運営する広告主にも広がりつつある。荒川氏によると、とある自動車メーカーではオウンドメディアで制作したコンテンツを積極的に流通させ、そこで得られたデジタルの知見やデータを販社の店舗運営に活かそうとしているという。

 流通構造を考える上では、たとえばタクシーの車内サイネージや、飛行機の機内Wi-Fi利用画面など、新しい配信先も増えている。こうした新媒体の特徴を捉えることも欠かせない。

ブランド経験をマネジメントする発想が不可欠に

 3つ目の「ブランド経験マネジメント」が、最も重要だと荒川氏は強調する。様々なクリエイターや研究者の指摘を加味し、荒川氏は「モノやサービスが過剰になっている中で選ばれるためには、ブランドがますます重要になっている」と語る。ブランドとの接点を重ねて、選択の瞬間にいかに好意的なイメージを浮かべてもらうかがカギになる。

 くわえて、荒川氏は「企業がなぜブランディングに取り組むのか」についても解説。顧客接点をデジタル含め構築して顧客育成を行い、顧客にたくさんの伝えるべきストーリーを届けるためだという。各企業は顧客の中に生きるブランドをより良くするために努力し続けているのだ。

 「ブランドとは、顧客の中に存在するものです。モノがあふれ、生活者が自由に選べる時代だからこそ、様々なことをイメージしてもらうことの重要度が高まっています」(荒川氏)

 ブランドの重要性が増している背景には、多くのメーカーが陥っているコモディティ化も関係している。機能訴求が効きにくくなった今、差別化のために各社が注目しているのが、リアルな体験だ。

 「イメージ訴求で選んでもらうのには限界があります。たとえ非効率でも、商品やサービスをリアルな場で体験し、その良さを五感で感じ取ってほしいと考える広告主が目立ってきています。実際に2017年度の予算配分に関しても、デジタルよりイベントなどリアルな施策を重視すると語る広告主もいます。体験を通して本質を伝えようというアプローチは、全体のキーワードに掲げた“回帰”に通じると思います」(荒川氏)

 さらに荒川氏は、Web購読をきっかけに紙の新聞購読が見直されていることや、モノよりコト消費の加速を指摘した。

「情報を見る、聞くだけに対し、リアルに体験するほうが記憶に残りやすいという話もあります。デジタルの一方で体験も重視しながら、生活者の中にブランド経験を積み重ねていくという発想が、今年はさらに有効になると考えています」(荒川氏)

媒体の先にいる人をしっかり把握

 4つ目は「Relevancy 再認識とエンゲージメント」。関係性の深さといった意味合いで使われるRelevancyは、近年注目されている概念の1つ。ただ多数の人にリーチすればいいといった発想は、既に過去のものだ。関係を深く築くことを重視して、つながりを作ることが求められている。

株式会社グライダーアソシエイツ 取締役副社長 荒川徹氏

 では、具体的にはどう動けばいいのだろうか。荒川氏は「まず媒体の特長を改めて理解することが必要」だと語る。マスやWeb、SNSなどメディアと呼ばれるものが多数存在する中で、活用するメディアを見極めるには、各媒体の先にどういう人がいるのかをしっかり把握することが欠かせない。

長期的なブランディングでも個別のプロジェクトでも、自社のメッセージを最大限に拡張してくれるメディアを選ぶ視点がますます大事になると思います」(荒川氏)

 また、荒川氏は「企業は改めてプロジェクトごとの目的を明確にする必要がある」と語る。単にPV増加や顧客獲得を目指すのか、それともブランド好感度の向上や長期の顧客育成を目指すのか。そのバランスを考えながら、媒体の使い分けや予算配分を検討することがさらに重要になる。

移り変わるメディアやデバイスの融合に注目

 5つ目は「Trans-Fusion」。メディアやデバイス、ソフトウェアがTrans――変容し、Fusion――融合していく動きを表している。

 流行し、定着したと思われるものも、テクノロジーの発展やニーズの変化によって形を変えていく。たとえば、スマートフォンが浸透してそれぞれ多様な機能を備えたアプリが多数登場したが、「最近ではあまり新しいものをダウンロードしなくなったのではないでしょうか。メインで使っているのは5つほどで、1ヵ月に使うアプリも限られているという人が多いと思います」と荒川氏。

 アプリに替わる機能を担うものとして、hearableなどは最たるものだ。たとえばソニーモバイルコミュニケーションズが手掛ける「Xperia Ear」は、耳に装着して音声認識で様々な会話、コミュニケーションを行う。常にスマートフォンを開くことはなく、音声の会話のやりとりの中で、補助的にスマホを見る。「静止画、テキストコンテンツに音声データを加えると、こういった新たな時代ではまた異なった文脈をもたらしてくれるかもしれません。

 時代に応じて、適切なコンテンツの届け方も変化する。ブラジルの航空会社がプロモーションに活用した、個人によって掲載されているコンテンツが違う“パーソナル機内誌”は、予約時にFacebookでログインすることで好みを踏まえて準備することを可能にした。アナログな機内誌にパーソナルデータを融合させた、新しい取り組みだ。

「今後、国内の航空会社においても、そうした”回帰と変革”で、様々なソリューションが生活者に提案されてくるでしょう」(荒川氏)

 最後に荒川氏は、改めて全体を集約するキーワード「回帰と変革」を提示し、展望を語った。

これだけコンテンツもメディアもたくさんある中で、何かひとつ切り口を変えれば、何かと化学反応を起こすことで、一歩先を行く変革を起こすことができるのではと考えています。業界の異なるプレイヤー同士の連携、広告主とメディア、ユーザーそれぞれのコミュニケーションの変化、ブランディングの在り方の変化にますます注目すべきですし楽しみですね」(荒川氏)

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2017/04/05 09:00 https://markezine.jp/article/detail/26223