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スマホを武器に、より深く生活者を知る 信頼できるネットリサーチのあり方

 マーケティングにおける意思決定の際に重要な役割を担うネットリサーチにも、今、スマホシフトの波が押し寄せている。結果の信頼性を担保するため、調査画面のレイアウトといった細かい部分への配慮が必要になる一方、アンケート回答とスマホで得られるログデータを組み合わせれば、一段深いレベルで考察することも可能になっているのだ。2010年からスマホでの調査画面最適化を進める、業界最大手・インテージの長崎貴裕執行役員に、スマホ時代のリサーチを使いこなすために押さえる点を聞いた。

ネットリサーチが広げた調査の裾野

インテージ 執行役員 MCA事業本部 本部長 長崎貴裕氏翔泳社 MarkeZine編集部 編集長 押久保 剛
写真左から、インテージ 執行役員 開発本部長 長崎貴裕氏
翔泳社 MarkeZine編集部 編集長 押久保 剛

押久保:デジタルの普及がマーケティングを大きく変えている中、生活者調査の部分も特に変化した領域の一つです。今回は、マーケターにはなじみの深いインテージの長崎貴裕さんに、広告主企業が関心を寄せるテーマや、リサーチの今後についてうかがいたいと思います。

長崎:確かに、リサーチはネット登場以前と以後でがらっと変わりましたね。訪問調査といっても、今の若いマーケターの方々はピンとこないでしょう。

押久保:本当ですね(笑)、企業の調査でも1軒1軒、一般の家庭を訪ねていたなんて。ネットリサーチはいつごろから有用性が高くなったのでしょうか?

長崎:日本で始まったのは97年ですが、しばらくはネットユーザー自体が先進層だったので、感度の高い人の意見を聞くといった偏りが前提でした。業界では、これまでの郵送や電話調査、訪問調査を本当にネットに置き換えていいのかという議論もありましたね。

 ごく普通の生活者の意見を聞く手法として広がり始めたのは、家庭のネット回線が安定してきた2003年ごろからです。

押久保:以前の調査とネットリサーチで、最も違うのはどういう点でしょうか?

長崎:やはり、コストですね。訪問だと1,000サンプルで2,000万円くらい普通にかかりますが、ネットリサーチだと5、60万円くらいでしょうか。それにともなって気軽に使えるようにもなったので、以前は大企業の調査部がクライアントでしたが、今では幅広い企業や部署で活用されるようになり、裾野が広がりました。

スマホで回答すると調査結果が変わる?

押久保:2,000万が5、60万になるなら、それは使える企業も増えますよね。1回で得られるサンプル数や、調査自体の頻度も多くできる。

長崎:ええ。そこから2013年ごろまでは先ほどの議論もなく、ネットリサーチがマーケティング手法として安定的に使われていた“幸せな10年”でした。今度はスマホの普及で、また転換期を迎えます。

 ある意味、アンケート調査はコミュニケーションそのものなので、世の中の人のスタンダードがスマホに移れば調査の場も移るのは自然なことです。ただ、そこでまた議論すべき問題が持ち上がってしまいました。

押久保:調査でもスマホシフトが起きているのですね。問題とはどういったことでしょうか?

長崎:調査画面のレイアウトがPCと違うので、結果が変わってきてしまうんです。

 まあ、PCで繰り返し調査をした場合も、好き嫌いや購入意向などの人の気持ちを聞く場合は、まったく同じ結果が得られることはありません。どうしても、変わってきてしまう。ただ、デバイスがスマホになったことで、これまでの揺れの範囲を大きく超えてしまうと、問題ですよね。

 そのあたりはかなり繊細ですが、当社では2010年から調査画面最適化の検証を重ねています。もちろんスマホシフト自体は、たとえば得られるデータ量の増加など、調査にすごくプラスの影響ももたらしているので、それらを味方につける研究も進めています。

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膨大に取得できるログデータを味方に

押久保:なるほど。確かに、生活者がスマホを持ち歩くことで、多種多様なデータの取得が可能になっています。

長崎:意識的に回答してもらうアンケートと違って、スマホで取れるのは、いわゆるログデータですね。ネットリサーチは狭義だとネットアンケートリサーチということになりますが、広く捉えれば、ネットで収集できる情報すべてを対象に調査することとも言えます。ネット上の行動履歴や、位置情報などもそうですし、他にもいろいろな情報の種類と収集方法があると思います。

 このバラエティを広げたという点で、スマホの役割はとても大きいですね。何せPCは持ち歩きができないですし、意識的なアンケートだけで人の心を推し量るには限界があります。

押久保:スマホの普及によって、ネットリサーチに新たな価値が生まれているんですね。ただ、その分、膨大な種類のデータを使いこなして読み解いていく、マーケターの技量も問われそうです。

長崎:まさに、そうですね。特に難しいのは、コミュニティの中で変わっていく反応をどう加味するかという点だと思います。昔は「この商品の味は好きですか? ラベルはどうですか?」と一対一の関係性の中で反応を得て、それを積み重ねて考えていました。

 今はソーシャルの登場によって生活者の間でも情報が回っているので、同じ「好き」という回答でも以前と同じには受け取れないというか。デジタル上で仮想集団を構築し、情報がどう回るかのシミュレーションを加味するといった方法も、この時代ならではです。

「生活者の本質を見たい」深まる企業のニーズ

押久保:そうなると、いわゆるアンケート調査とはかなり離れてきますね。実際に調査をマーケティングの判断に使っている企業サイドでは、こうした潮流をどう捉えているのでしょうか。ニーズの変化などはありますか?

長崎:狭義のネットアンケートリサーチに求めるものは、以前とそう変わりませんが、広く「顧客の心を知るための調査」という意味合いでいうと、生活者の本質を見たいというニーズは非常に高くなっていると感じます。それは、スマホの普及で調査の可能性が広がっている流れと、表裏一体ですね。

 いろいろな言葉が使われますが、“カスタマージャーニー”が代表的です。一人の顧客がどういう気持ちの変遷をたどり、どう行動するか。インサイトを知りたいとか、その瞬間に感じていることを把握したいといった話も、同じニーズだと思います。

押久保:御社が提供しているシングルソースパネル「i-SSP」は、まさに一人の人がどういう行動をしているかを追って見ていけるものですよね?

長崎:そうですね。ただ、メディア接触に焦点が当たっているので、それ以上に生活者を多角的に捉えたいニーズが高まっているなと。ソーシャルでの接触などはもはや企業側でもコントロールできないので、そこまで加味してリサーチがどう貢献するかは、我々の課題でもあります。

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調査の安定性と普遍性は欠かせない価値

押久保:先ほど、スマホに最適化したレイアウトが重要というお話がありました。スマホで豊富にデータが取得でき、より生活者の本質に迫れるようになっているというのも、レイアウトのような細かい点が整備されているのが大前提になるんですね。

長崎:そうですね。スマホによるリサーチの発展性に比べたら、本当に地味な話に聞こえてしまいますが、人の気持ちは本当に繊細で、回答を求める行為はそもそも不安定なんです。そこはきちんと検証を重ね、やり方を定めないと安定した結果が取れません。

 数年にわたって検証した結果、結局スマホの画面だけを調整したのではPCでの結果との整合性が取れず、PC画面のほうも少しスマホに寄せる形でチューニングしたのが現在の「i-タイル」と呼んでいる調査形式です。PCでもスマホでも、回答の分布ができるだけ変わらないようなレイアウト、そして聞き方をすることで、安定性と普遍性のある結果を出していくのは我々調査会社の使命です。

押久保:聞き方も、確かに大事ですね。

長崎:ええ。単純に長いだけでも、スマホだとストレスになってしまいますし。

 また、安定性と普遍性という点で付け加えるなら、調査会社もなるべく変えないほうがいいです。前述のような取り組みは会社によって異なりますし、設定が変わると同じ点数でも意味合いが変わり、結果が比較できなくなります。新たなヒントを得るならいいですが、何らかのマーケティング判断の基準にするための調査なら、信頼性が揺らがないように、というのが我々の根幹となる考えです。

多種多様な調査を通して生活者像を捉える

押久保:では、生活者の本質に迫りたいというニーズに応える場合、御社1社で完結されるイメージでしょうか? それとも、他社と組んでクライアントの課題を解決することもあり得ますか?

長崎:場合によっては、他社との連携や助けが必要になってくると思います。シングルソースパネルは7,000ほど集めていますが、ではそれを増やせば生活者の本質が見えるのかというと、それは方向性が少し違う。やはり別の形でもっと大きなデータを取ることが求められます。

 当社の取り組みだと、全国4,000店から収集する販売データ「SRI(全国小売店パネル調査)」と、全国15歳~69歳の男女5万人から収集する購買の記録「SCI(全国消費者パネル調査)」が大規模なものですね。他には、家電メーカーからスマートテレビのログデータを30万台分ほど集めていて、シングルソースパネルと掛け合わせたり。これらを複合的に使って、生活者の全体像を描こうとしています。

押久保:なるほど。そうなるとますます、読み解きが肝心になりますね。

長崎:そうですね、データはあふれんばかりにあるので、そこから何を読み取るのかはいちばん重要です。最近、リサーチ領域のAIの活用も探られていますが、大量のデータを分析して予測したり、アラートを上げたりするのは任せられるとしても、まだ調査結果から大きな課題を見出すといったことは難しいですね。そこは人間ががんばるところであり、我々が今後も調査会社として企業のマーケティングに役立つために、欠かせない価値だと思っています。

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この記事の著者

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア部門 メディア編集...

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高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

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MarkeZine(マーケジン)
2017/04/21 11:00 https://markezine.jp/article/detail/26323