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MAの目的は売上UPだけじゃない!「顧客体験」にこだわる三陽商会が設計するコミュニケーション戦略とは

 「いいものを作れば売れる」という時代が過ぎ去った今、ブランドが商品の価値を伝えるには、一方的にモノを押し付けるのではなく、レベルの高い顧客体験を提供することが重要になっている。4月25日に開催された、チーターデジタル主催のイベント「Marketing Forward 2017 Spring」にて、総合アパレル大手の三陽商会の安藤裕樹氏がMAツール「CCMP」を採用した背景と、導入後の取り組みについて語った。

2017年6月8日、エクスペリアンジャパン株式会社クロスチャネルマーケティング事業は、チーターデジタル株式会社に社名が変わりました。リリースもご覧ください。

「いいものを作れば売れる」が通用しない時代の売り方とは

 1943年に設立された三陽商会は、「真・善・美」という社是を掲げる総合アパレルメーカーで、「最高のものづくり」を長年にわたって追求してきた。2013年からは「世代を超えて永く愛される」というテーマを掲げ、"日本における匠の技にこだわったものづくり"を結集させた「100年コート」というブランドを展開し、日本ファッション産業協議会による「J∞QUALITY」認証の第1号にも輝いた。

株式会社三陽商会 IT戦略本部 ウェブビジネス部 オムニチャネル推進支援グループ長 ディレクター 安藤裕樹氏
株式会社三陽商会 IT戦略本部 ウェブビジネス部 オムニチャネル推進支援グループ長 ディレクター 安藤裕樹氏

 だが市場は大きく変化し、もはや「いいものを作れば売れる」時代ではない。三陽商会でIT戦略本部ウェブビジネス部オムニチャネル推進支援グループ長ディレクターを務める安藤裕樹氏は、「『いいもの』の価値を顧客体験として提供できないと、お客様は振り向いてくれません」と語る。

講演資料より(以下、同)
講演資料より(以下、同)

 安藤氏は1992年に三陽商会へ新卒として入社後、一度同社を退職。2005年からは大手通販会社でECサイトの立ち上げに携わりノウハウを積んだ後、2016年に三陽商会に再入社、現在はECを中心に同社のデジタルマーケティングを担当している。そんな安藤氏が重視しているのが「顧客体験の提供」だ。

 「弊社の場合、『いいものを作れば売れる』というメーカー気質が強かったため、一方通行で単発的なコミュニケーション施策を行いがちでした。顧客管理システムも、ECと店舗で別々に運用しており、顧客に対して会社として一貫したサービスを提供できていませんでした。ひとことでいえば、今の市場に対応できていなかったのです」と安藤氏は振り返る。

 こうした状況を打破するために安藤氏ら三陽商会のマーケティングチームが着手したのが、オムニチャネル戦略の推進だった。

店舗とECの顧客DBを統合し、満を持してMAツール導入へ

 「オムニチャネル戦略」とはいっても、「オムニチャネルを推進せよ」というトップダウン的な指示が最初にあったわけではなかった。最初は、自社のマーケティング活動に課題意識を持つ社員が集まり、終業後に酒を酌み交わしながら「こういうことをやっていったらどうか」とアイデアを持ち寄った。そこから社内でワーキンググループを立ち上げ、ボトムアップ式に社内の理解を集めていき、予算を獲得して数々の施策を実現したのだという。

 社員たちが自発的にオムニチャネル戦略を提唱した背景には、「多様化・複雑化したお客様の情報収集や購買行動に対応しなければならない」という危機感があった。こうした現状認識のもと、顧客行動に寄り添ったコミュニケーションを目指すために、「様々なメディアやチャネルを活用して『顧客体験の向上』を実現していくこと」を目標として定めた。

 具体的には、店舗とECをまたいだ在庫管理システムを充実させて「お取り寄せ購入」や「取り置き予約」に対応することや、店舗およびECの顧客データベースの統合、ロイヤルティプログラムである会員ステージサービスの導入といった取り組みを推進してきた。

 このように2016年までは、システムやデータベースの構築・一元化を中心とした「オムニチャネル基盤」の整備に取り組んできた三陽商会。今年から、この基盤を本格的に活用し、顧客体験向上に向けての取り組みを加速度的に推進するために、マーケティング・オートメーション(以下、MA)ツールを導入。選定したのは、メール・LINE・アプリなど様々なチャネルにおけるメッセージ配信に定評があるチーターデジタルの「Cross-Channel Marketing Platform」(以下、CCMP)だった。

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MAツールでコミュニケーション工数の負荷を大幅に削減

 三陽商会は、ライセンスブランドから自社ブランドまで数多くのブランドを抱えており、販売チャネルも「百貨店」「直営店」「EC」など様々だ。そしてブランドターゲットごとにあらゆる年代の顧客がいるため、従来はどうしても「最大公約数的なコミュニケーションになりがち」だったという。

 画一的なコミュニケーションから脱却するためにパーソナライズしたコミュニケーションに取り組んだが、実施は容易ではなかった。セグメントを細かく分けて配信回数を増やすと、運用工数は増加し担当者は疲弊する。結果として本来やるべき分析や戦略立案に手が回らなくなる。配信先となるメールアドレスのリストアップも手作業で行っていたので、タイムリーに情報提供を行うのは不可能だった。

 「そこでCCMPを導入し、メール運用を効率化してタイムリーな情報発信を目指しました」と安藤氏は語る。

短期的な受注やCVRではなく長期的視点で効果を捉える

 メール運用の効率化に向け、三陽商会が最初に取り組んだのは、以下に挙げる10種類のメール送付の自動化だった。

 これらのメール施策は、いずれもMAツールにおいて“鉄板施策”と呼ばれるほどポピュラーで手堅い取り組みだ。特にインセンティブを付けることで、短期的に売上や受注・コンバージョンが上がることは珍しくなく、ツール導入の効果を得られやすい施策だといえる。

 「ただし、長期的な視点に立ってみると、インセンティブを付けた顧客の場合アクティブ率やLTVが低めになることもあります。たとえば、クーポンや割引を付けたことで短期的に受注やコンバージョンが上がるものの、その後も定常的にウォッチを続けると、クーポンで来たお客様の返品率が高いということがわかることもあります」(安藤氏)

 インセンティブによってキャンセルや返品が増えては元も子もない。だからこそ、目先の売上やCVRの向上ではなくアクティブ率やLTVの向上を大切にして、メールを配信するタイミングや内容をチューニングしていく考え方を取っていきたい、と安藤氏は考えている。

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データベース連携で、きめ細やかでタイムリーなメールを自動送信

 まだ導入して日が浅いので、顧客行動の中長期的な観察にまでは至っていないが、CCMPの導入により確かな効果が出始めていると安藤氏は語る。

 まず、連携されるデータベースが増えたことで、それまで使っていた単純なメール配信システムより実現できることが増えた。たとえばデータ作成の場合、以前のメール配信システムでは、会員情報とECでの購買履歴を基に、手動で作成を行っていた。

 CCMPでは、「会員マスタ」「ECと実店舗両方の購買履歴」「商品データ」「お気に入りブランド」「お気に入り商品」「カート投入商品」など、様々なデータを日次でインポートしている。各データテーブル同士を、一元化されたIDをもとに連携させているため、複雑なセグメントであっても、管理画面上で自由に切ることが可能だ。それだけでなく、そのセグメントされた対象者に送るコンテンツさえ決めておけば、データ抽出から配信まで自動化ができる。

 こうして、手動でのデータ抽出や加工、そして配信などの作業にかけていた工数を大幅に削減でき、顧客のアクションに対してタイムリーにコンテンツを配信することが可能になった。

 「CCMPの導入前は、システムベンダーからカート放棄した顧客のデータをもらい、それと会員マスタを紐付けしてからメールを作成し、配信テストを経て本送信していました。CCMP導入後はカート放棄のデータを日次で連携したため、あらかじめ配信ロジックさえ組んでおけば、カート放棄のお客様に対して時間を空けずにリマインドメールを配信できます」(安藤氏)

 また、新作紹介メールに関しても、顧客ごとにパーソナライズした内容をタイミングよく自動的に送信できるようになった。

 以前のシステムでは、メールで紹介したい商品を一つ一つ手動で選択し、メルマガに挿入していた。配信準備には大変な手間がかかり、週1~2回の配信が限界だった。当然パーソナライズまで手が回らず、全会員に同じクリエイティブのメールを送っていた。

 「現在は、顧客データベースに格納されている『お気に入りブランド』のデータを取り込んでメールを自動送信できるようになりました。自動化による工数削減のおかげで、配信頻度も増やすことができ、新作入荷の度に送れるようになりました。こうしてタイミングを逃さず、かつお客様のニーズに合わせた情報を送ることで、メールの効果が向上したと考えられます」(安藤氏)

 タイムリーな配信により、メールの効果は飛躍的に向上した。たとえば、カートに品物を入れたまま離脱してしまった顧客に「カートに品物が入っています」とカート放棄された商品をリマインドするメールでは、従来に比べ開封率が1.3倍になり、コンバージョンは3倍になった。また、新作紹介のメルマガでは、開封率が1.5倍、コンバージョンは1.4倍にまで伸びた。

MAツール最大の効果は「担当者の気づきの時間」が得られたこと

 そしてCCMP導入の最大の効果は、「実際に業務を回している担当者が、『気づきの時間』を確保できたことです」(安藤氏)という。

 「コミュニケーション戦略を考えていく際、『現状の問題点』や『本来やるべきこと、やりたいこと』の分析は欠かせないのですが、目の前の業務に追われているとつい後回しにしてしまいがちです。データはあっても本来やるべき戦略立案の時間が取れなければ、イノベーションは起こせないのです。通常作業の負荷を軽減でき、コミュニケーション全体に対する気づきの時間を確保できたことが、三陽商会がCCMPを導入して得た最大の効果だと考えています」(安藤氏)

 今後、三陽商会はメールやアプリ、SNS、ECサイト、実店舗など各種メディアやチャネルでパーソナライズ化を推進していく。また、現状ではMAをECでのメール施策中心に使っているが、今後はMAで蓄積した様々なインタラクションデータから得られた気づきを、CS(顧客満足)対策・商品企画・生産計画・店舗在庫の配分などにも活用して、顧客体験の向上につなげていく予定だ。

 

 MAの活用をパーソナライズしたメールを適切なタイミングで送信する「コミュニケーションツール」にとどめず、全社的に優れた顧客体験を提供するための「プラットフォーム」として活用していくのが三陽商会の戦略だといえる。

 「『モノづくり=商品力』は、三陽商会の強みの1つではありますが、それだけでは顧客の心をつかむことはできません。今や、競争優位性の源泉は、『商品力の差』ではなく、『優れた顧客体験を提供すること』にあります。『商品を買ってもらう』のではなく『体験を買ってもらう』、つまり、お客様に使っていただくのは、『お金』ではなく『時間』だという視点に立って、これからのコミュニケーション戦略を進めていきたいと思っています」(安藤氏)

 こうした戦略を構築する上でも、CCMPがもたらした気づきの時間は役立つに違いない。「コミュニケーションを通じて顧客一人ひとりの『特別感」を演出し、ロイヤルティ向上を実現していきたい」と安藤氏は語り講演を締めくくった。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2017/07/06 18:03 https://markezine.jp/article/detail/26602