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戦略的な失策はどんなにいい実行でも挽回できない――資生堂・音部大輔氏が語る戦略の本質

 戦略と一口に言っても、それがどんなことを意味しているのか正しく理解できている人は案外少ない。MarkeZine編集部では、7月11日に定期誌『MarkeZine』読者限定イベント vol.3「マーケティングの未来予想~戦略とテクノロジー」を開催し、『なぜ「戦略」で差がつくのか。』を執筆された資生堂ジャパンの音部大輔氏に同書のエッセンスについて講演をお願いした。

 戦略の意味・定義を訊かれたら、どんな説明をするだろうか。目的や計画といった言葉を思い浮かべる人も多いかもしれない。しかし、音部氏はそれでは戦略という概念を理解できているとは言えないと指摘する。

 音部氏は新卒でP&Gジャパンのマーケティング本部に入社後、17年間ブランドマネジメントを手がけてきた。そしてダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車を経て、資生堂に入社。2017年3月に『なぜ「戦略」で差がつくのか。―戦略思考でマーケティングは強くなる』(宣伝会議)を上梓した。

音部大輔氏
音部大輔氏:資生堂ジャパン株式会社 執行役員

 本書は音部氏の経験と理論を余すところなく書いた良書で、プロジェクトや企画を立ち上げ進めていくうえで最も重要でありながら曖昧な理解をされがちな「戦略」について深く解説されている。

「戦略を作る」というとき、どんなことを示すことができれば、いい戦略を作ったことになるのか。改めて意識してみると、意外と難しい。まさに戦略の意味をきちんと理解できているか否かで差がついてしまうのだ。

 定期誌『MarkeZine』の読者限定イベントでは、音部氏に「『なぜ「戦略」で差がつくのか。』から紐解く「戦略」の正しい使い方」と題して、戦略とは何で、どうすればいい戦略を作れるのかを解説していただいた。

Thought-starter questionといい目的

「戦略とは何か」といった漠然とした概念について考えるとき、まず「Thought-starter question」という手法を使うといいと言う。これは「戦略とは何か」と考えるのではなく、「なぜ戦略が必要か」あるいは「どういうときにそれが必要でないか」を考える思考の方法論だ。戦略が必要ではない状況を考えることで、対偶として戦略が必要な状況がわかるのである。

 では、どういうときに戦略が必要ないのか。端的に言えば、目的がないときには戦略が必要ない。つまり、目的があるときには戦略が必要になる

 音部氏は「雨の日のバイク乗り」という例え話で目的を正しく捉えることを説明する。雨の日にバイクに乗るのは快適ではない。体が濡れないように対策しなければならないからだ。ヘルメットはそのまま使える。ライディングウェアの上にレインウェアを着る。グローブもレイングローブを重ねる必要がある。ならばブーツにはブーツカバーの出番だ。

 が、音部氏は経験上、ブーツカバーは破れてしまうことが多いと話す。バイクは足での操作が多く、エンジンにも近いせいだ。とすると、もっといいブーツカバーが必要になる……と考えてしまうと、目的を見失っているかもしれない。

 そもそも目的は何だったろうか。ブーツを濡らさないこと? 足を濡らさないこと? それとも靴下を濡らさないこと? できればブーツを濡らしたくない人もいるかもしれないが、多くのバイクブーツは濡れても大きな問題ではない。足自体が濡れていても大して気持ち悪いものではない。問題は、靴下がぐっしょり濡れることだ。動くたびに気持ち悪いし、靴を脱ぐ店にはランチにも入れない。

 本来の目的は、靴下を濡らさないようにすることだ。それには高価なブーツカバーを買わずとも、コンビニ袋2枚で事足りる。コンビニ袋を靴下の上に履き、それからブーツを履けばいい。目的をきちんと捉えれば、より少ない資源でよい解決策が見つかるという例である。

 しかし、目的は目的でも、いい目的を設定することが大切だ。音部氏が示す「いい目的のためのチェックリスト」を紹介しよう。

勝利の条件を明確に定義づけられているか

 どういう状態になれば勝利となるのか、明確に定義されていない目的に邁進すると、行動が自己目的化していく。行動そのものへの達成感は大きいかもしれないが、目的は達成されない。これを防ぐためには、勝利したと言える条件を定義しておくといい。

解釈の余地がないか

 定めた目的が人や文脈によって様々に解釈可能だとしたら、適切な手段を用いるのが難しくなる。仕事はチームで行うものなのだから、目的を共有する際に解釈の余地があっては困る。解釈の余地が大きく、解釈自体を楽しむ文章のことを我々は「ポエム(詩)」と呼ぶ。ビジネス文書では、こうしたポエムは禁止にしたほうがいい。感じのいい響きを持つだけで解釈の広い表現では、何も書いていないのとほとんど同じになってしまうからだ。

ポエム禁止

正しい問題に対峙しているか

 正しい問題を見つけることが重要だとはよく言われる。音部氏もそのことを強調する。解決すべき正しい問題に対峙したうえでの目的でなければ、それを達成してもたいした結果は得られないだろう。

SMACか

 SMACとはSpecific(具体性)、Measurable(測定可能)、Achievable(実現可能)、Consistent(上位概念との一貫性)の頭文字を取った言葉。具体的で測定可能でも、実現可能でないならばいい目的ではない(これまでの最高売上が3億円なのに10億円を目指すなど)。また、たとえば自社の理念と一致しない目的もいい結果を生まない。ここにTime-bound(時間軸の設定)を入れる場合もある。

十分な資源がないからこそ戦略が必要

 次に音部氏は資源の重要性を説いた。音部氏はゲームアプリ『ゲーム・オブ・ウォー』のキャッチコピー「戦力か戦略か」に共感したという。もし資源が十分すぎるほどあるなら戦略は必要なく、力押しが通用する。しかし、我々には十分な資源などないからこそ戦略が必要なのだ。

 ここで音部氏のユニリーバ・ジャパンでの経験が語られた。紅茶ブランドのリプトンはよく見る封筒型のティーバッグではなく、三角錐型のティーバッグを採用している。その違いは、封筒型が紐をホチキスで止めているのに対して、三角錐型だとホチキスが必要ないことにある。

リプトンのティーバッグ

 それで一体どんないいことがあるのだろうか。たしかにコスト削減になる。電子レンジでティーバッグごと紅茶を温められるようになる。それ以上のことがあるだろうか。だが、音部氏のチームは「ホチキスの針がないこと」を資源と捉えた

 どういうことか。ロイヤルミルクティーを作る工程を考えてほしい。ミルクパンで牛乳を温め、別で淹れた紅茶をそのミルクパンに注いで沸騰させないように混ぜながら温める。おいしいけれど、非常に手間がかかる。できれば、もっと手軽に作りたい。

 そこで、リプトンのティーバッグなら電子レンジに入れても大丈夫だということが活きてくる。マグカップに水と牛乳とティーバッグをまとめて入れて、電子レンジで温めるだけ(レシピは水3分の1、ミルク3分の2、イエローラベルのティーバッグ2袋)。これでおいしいロイヤルミルクティーができる。実際、この作り方は大人気となり、ホチキスの針がないことがティーバッグの売上を向上させるための資源となった

 このように、資源に見えないものが資源になりうる。視点と発想を変えて物事を見ることがいかに重要か、よくわかるエピソードだ。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/06/07 11:08 https://markezine.jp/article/detail/26799

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