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SaaS事業の全体最適を導く「新・組織論」

SaaS事業のLTVを悪化させる部分最適は、なぜ「構造的に」起きるのか

 多くのSaaS事業で採用される、「マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセス」から成る機能別組織。この組織体制によって事業の急成長が可能になる一方、部門間の軋轢につながるケースも多く存在する。そういった軋轢や部分最適を防ぎ、部門間の協業を生む仕組みを作るにはどうすればよいのか。本連載では、SaaS事業のマーケティング・組織構築を支援するFringe81の横山直紀氏が、SaaS事業の全体最適を実現するための考え方について、全4回の連載で解説。第1回となる今回は、SaaS事業で部分最適がもたらす問題、部分最適の根本的な原因を明らかにする。

SaaSの機能別組織で起こる、「あるある」な問題

 まず、SaaS事業においてどのような状態を「部分最適」と呼んでいるのか、整理することから始めよう。

 下の図は、多くのSaaS事業者が採用している『THE MODEL』(翔泳社)に則った組織図だ。この機能別組織により、それぞれの活動を短期間で効率化し事業成長に導くことができるわけだが、成長につれてチームとチームの「間」に問題を引き起こす可能性を孕んでいる。(以下、各チームをマーケ・IS・FS・CSで略称)

 まず挙げられるのが、マーケ⇔IS⇔FSの間で発生する「数と質のトレードオフ」という問題。つまり、各チームがKPI達成のために数を追うと質が落ち、質を追うと今度は数が足りなくなるということだ。

 具体的には、ISの「マーケから大量のリードが送られてくるけど、全然商談につながらない……」という悩みや、FSの「良い商談って聞いてたのに、行ってみるとまったく受注できそうになかった……」という声などは、この「数と質のトレードオフ」に当てはまる問題だ。

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 2つ目は、FSとCSの間で発生する「顧客への期待値設定ミス」という問題。

 これは、FSが受注したいがあまり、顧客に対して「あれもできます、これもできます」と言って受注してしまった結果、顧客からの期待が過剰になりCSやプロダクトがその期待に応えられなくなることを指す。優秀な人材がセールスを担当したり、あるいは社長自身がセールスの際に強権を発動したりするが故に発生するケースもあるので、中々厄介だ。

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部分最適の先に待ち受けるのは、LTV低下という脅威

 そして、SaaS事業にとっての本当の脅威は、これらの事象の先に待ち受けている。これらの問題を放置することで自浄作用が働かず、最終的にはLTVが低下する悪循環に陥ってしまうのだ。

 なぜ自浄作用が働かず、LTVの低下を招くのだろうか。2つの問題それぞれの先に起こることを考えてみるとよくわかる。

 まず、1つ目の「数と質のトレードオフ」の先に起こるのは、組織内の摩擦だ。具体的に、摩擦が起こるときの現場でのコミュニケーション例を、少し大げさに表してみよう。

 FS「こないだの商談、申し送りのときの話と違って全然質が低かったんだけど。」

 IS「……そうか、了解。でも、それをなんとかするのがFSの仕事なんじゃないの? こっちのKPIは商談数なわけだし……」

 FS「にしても、もっといい商談を送ってきてくれないと……」

 IS「今回、商談化基準を満たしていると判断して送ってたと思うんだけど、いい商談って何?」

 FS「……」

 特に、「それはそっちのチームの仕事でしょ?」「ウチのチームはKPI達成しているのに……」といった声は各メンバーが思っているだけで表面化しづらく、各チームマネージャーが問題を把握しづらい場合も多いだろう。

 そして2つ目の「顧客への期待値設定ミス」の先には、当然顧客との摩擦(つまりチャーン)が起こる。意図していようがいまいが、最終的には顧客の期待を裏切ってしまったわけだから当然だ。そして言うまでもなく、LTVの低下はこのことを指している。

 さらには「組織内の摩擦」と「顧客との摩擦」は、下記のようにお互いがお互いを引き起こす関係にあるため、自浄作用も働かない。

・ 組織内の摩擦が起こる

・ 社内に非協力的な姿勢が生まれる

・ 社内の姿勢のズレは、いずれ顧客に伝わる

・ 顧客との摩擦(チャーン)につながる=LTV低下

・ チャーンしたことを他のチームにネガティブフィードバックする(せざるを得ない)

・ 非協力的な姿勢の中でネガティブフィードバックしても、さらに組織の摩擦を生む(最初に戻る)

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 こうなると、放置すればするほど事態は悪化するばかり。もちろん、実際には各メンバーが「大人の対応」を取るので、1つ問題が起こったからすぐにこの悪循環に陥るわけではないだろう。

 しかし、前述のような現場で発生する「負の声」は表に出づらいため、その声に気づいたときには現場の関係が悪化しきったあとで、テコ入れのためにマネージャーのリソースが相当割かれてしまった……ということが起こり得る。

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この記事の著者

横山 直紀(ヨコヤマ ナオキ)

 Fringe81株式会社 SaaS-Growth局長。東京大学経済学部卒業後、Fringeに入社。入社後は一貫して、消費財メーカーにおけるIMC設計支援~メディアバイイングに従事。2018年からは1年間株式会社エフアイシーシーに出向。『パーセプションフロー®・モデル』(※)を習得し、BtoB向けの本モデル構築サービスを開発後、Fringeに帰任。 帰任後は、グループ会社が運営するSaaS事業『Unipos』におけるパーセプションフロー・モデルの構築と組...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/03/25 08:00 https://markezine.jp/article/detail/33044

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