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広告もサイトもメルマガもチラシ感覚が大切
旅行会社大手「H.I.S.」のメルマガ戦略

 航空券やツアーなど、インターネットを通じての旅行の申込みも一般的になっている。格安航空券やツアーなど海外・国内旅行の企画・販売を手がける株式会社エイチ・アイ・エスでは、テレビCMもさることながら、Webサイトやモバイルサイトも積極的に展開している。同社の情報システム本部の野村さやか氏に、Webサイトやメールマガジンなど、インターネットでの取り組みを聞いた。【メールマーケティング特集ページ、絶賛公開中!】

リアルとオンラインを横断する統合的マーケティング戦略

 国内に272の営業所を持ち、海外にも76都市100拠点をかまえる大手総合旅行会社エイチ・アイ・エス。格安航空券の販売からスタートした同社ではあるが、現在では航空券とパッケージツアーの売上がほぼ半々になっている。

 同社はリアル店舗だけでなく、海外ツアーや航空券の販売を行うメインサイトの「H.I.S.」のほか、旅行情報の「ワーナビ」や旅行情報ブログ「旅ブロ」、動画サイト「旅ドガ」、クチコミサイト「旅ナビ」と複数のWebサイトを展開。これに加えてモバイルサイトもあり、さまざまな顧客接点を考慮していることがうかがえる。

 現在、関東エリアだけで7000種を超える海外ツアーを取り扱っており、さらに滞在期間などのアレンジも可能なため、Webサイト上で扱うアイテム数は膨大だ。こうしたオンラインでの商品管理やサイト制作、申込み受付などを担当しているのが、野村氏の所属するeビジネスグループ。野村氏は、さらにこのグループのITプランニングチームで、Webサイトや店舗でのタッチパネルなど、ITを使った商品販売チャネルの企画提案を担当している。

株式会社エイチ・アイ・エス
本社システム本部 eビジネスグループ ITプランニングチーム
野村さやか氏
株式会社エイチ・アイ・エス本社システム本部eビジネスグループITプランニングチーム野村さやか氏

マスメディアとの相乗効果を狙ったオンライン施策

 メインサイトである「H.I.S.」は、ツアーや航空券の予約コーナーだけで月間3千万PV、オンライン予約会員数は約37万人に及ぶ。ユーザーは20代~40代が中心、男女比はほぼ同じで女性が少し多い。コールセンターとモバイル予約、オンライン予約の売上は、年々増加しているという。

「Webサイトの内容をプリントして店舗に来る方もいるので、Webの成果を厳密に計測するのは難しいですね。しかし、つい先日までは全体売上の15%程度とお答えしていましたが、徐々に増えていっているという感覚があります。ただ、弊社の扱う商品の特性上、新婚旅行などのように内容を吟味する必要があったり、比較的高額なツアーになると、店舗でしっかり説明を受けたいというお客様が多いようです」

 H.I.S.では行動ターゲティング情報を基にしたLPOツールをいち早く導入。トップページにある『おすすめコンテンツ』として表示するテキストのナビゲーションと、バナーの2カ所に、サイト内での閲覧履歴をもとにして、ユーザーに最適な内容を表示する仕組みになっている。集客にも力を入れており、純広告と検索連動型広告を中心に、アフェリエイト、SEOなどにも積極的に取り組んでいる。一方、テレビCMでも有名な同社ゆえ、広告予算の大半はマスメディアへの出稿。しかし、マスメディアで認知を高め、オンライン上で効率良くWebサイトへユーザーを迎えられるよう、手段を限定せずに相乗効果を狙っている。

「オンライン広告に関して言えば、弊社では『フェア』といったセールをよく展開しますが、こういった商品は純広告でお客様の目を引くため、フェアが重なる時期は純広告からの流入が多く、フェアが少ない時期は検索連動型広告からの流入が多い傾向にあります。また、テレビCMなどがオンエア中の期間は、自然検索でのサイト来訪が増加します。検索キーワードでは、ピンポイントに社名で検索していらっしゃる方が多いようです」

メールマガジンをチラシ的に活用し、間接効果を狙う

 認知媒体としてマスメディアなどを利用して広範囲に展開し、サイト内ではLPOを行ってユーザーが最も求めている情報を提供し、成長を続けるエイチ・アイ・エスのWebサイト。流入数では純広告や検索連動型広告の効果が高いが、最も高い費用対効果をあげているのは既存顧客を対象にしたメールマガジンで、現在、「東京」「札幌」といった発着地別の7種類と、「ビーチ」や「アジア」「スカイウォーカーカード会員向け」といったテーマ別の7種類、計14種類のメールマガジンを配信している。

「初回配信は2003年にさかのぼります。運用していくうちに、文章をしっかり読ませる完成度の高いコンテンツよりも、いわゆるチラシのような内容の方が、お客様の心をつかむことが分かってきました。サイトのトップページもチラシ風になっていますが、メールマガジンも現在では同じような体裁です。ツアーや航空券などは買い続ける商品ではないので、いざ旅行に行きたいときに思い出してもらって、メールマガジンやWebサイトをチェックしてもらうような使い方をしています」

 メールマガジンの目的は、フェアやキャンペーンの周知と、その時々のおすすめ商品の紹介。そのため、テレビCMや紙媒体とそろえた、価格や日程などの情報のみをダイレクトに伝えるチラシ風なデザインを採用している。商品の購入はECサイトだけでなく店舗や電話でも良いという、リアル店舗を各地に展開する同社ならではの間接効果を狙った取り組みだ。配信日程を決めていないのも、フェアの時など商品をおすすめしたいタイミングで配信するという、まさしくチラシと同じような形式でメールマガジンを活用しているためだ。

PC版(左)とモバイル版(右)のメールマガジン
PC版(左)とモバイル版(右)のメールマガジン

PCとモバイルで、性質が異なるメールマガジン会員

 PC版とモバイル版両方のメールマガジンを提供している同社だが、特にモバイル版の会員は、お得な商品に反応する傾向が強く、配信後即座に反応があり、成約にも結びつきやすいという。そのため、特典を用意するなど会員獲得も積極的に行っている。しかし反応が良い分、ユーザーの目はシビアでごまかしがきかず、苦心する一面もあるようだ。

 一方、PC版の場合は会員獲得の施策は特に実施していないが、濃いユーザーが集まっている。

「PC版の会員は旅行の流れをよく知っている方が多いようです。例えば、純広告を見てWebサイトに来訪するお客様よりも、PC版の会員の方が成約する時期が一か月程度早い傾向があります。人気の出発日などは特に、ギリギリになって申し込むと席がなくなることをよく理解されているようですね」

格安商品が気持ちを盛り上げ、併売商品の売上アップ

 現在、エイチ・アイ・エスでは、さらにメールマガジンの効果を高めるため様々なテストを実施しながら、効果検証を行っている。試行錯誤を続けるなか、 顕著に表れているのが、『野球の“優勝セール” 』など特別セール通知の号外メール内で、格安商品を掲載した際、併売商品の売上が大きく向上するという効果だ。

「開封率やクリック率はあまり変わりませんが、成約率で高い数値が出ています。通常のメールマガジンでは10~20個の商品を掲載していますが、号外メールでは3商品程度の掲載。しかも、すべて電話での受付のみの商品で、安価ですが出発日に制限があり、オンライン予約には結びつきづらいと考えられるものでした。

その商品自体も、かなりの数のお申込み頂きましたがそれだけではなく、号外メールを経由したお客様が、オンラインで予約できる通常の商品を購入するという効果がありました。お客様の旅行に行きたい気持ちを、号外メール内の3商品が盛り上げて、他の商品に流れていったのだと思います」

 格安のフェアでは出発日に制限のある商品もあり、ユーザーは自分が行けない日程の場合、自分の都合に合う他の商品を探して予約する傾向にある。メール内の目玉商品でユーザーの旅行に行きたい気持ちを盛り上げ、さらにランディングしたページでそのユーザーのニーズに合った他の商品を提案できるかが売上アップのポイントであり、より良いサービスという考えだ。

MailPublisherの導入で運用フローを改善

 同社では、PC版メールマガジンの配信システムとして、エイケア・システムズの『MailPublisher』を2007年の秋から採用している。導入のきっかけになったのは、当時利用していたシステムでは、すべての会員にメールが届かないという根本的な問題があったためだ。

 以前の配信システムには、エラーメールの解析機能が搭載されていなかったためスパムメール扱いされ、到達率が低くなっていた。それに加えて配信速度が遅く、1種類のメールマガジンの配信に24時間以上もかかり、会員の手元に届いたときには既に在庫がないということもあったという。

 エイチ・アイ・エスの場合、出発地毎のメールマガジンは各拠点都市にいる担当者が配信しているため、配信スピードが遅いと1つのメールマガジンを配信している間、他の地域のメールマガジンを送ることが出来ず、運用フローに時折問題が生じていた。

「MailPublisherの導入後は、エラーメールの解析機能によって到達率が改善されました。配信スピードも飛躍的に向上し、また、同時に複数のメルマガを配信できるようになった為、担当者が自分の担当するメールマガジンを送る際に、他のメールマガジンの配信時期の影響を受けずに済むようになりました。

また、権限管理機能があるので誤配信の危険性が低減し、最適な運用フローを構築することができました。なかでも、こうしたシステムに起因する制約がなくなったことで、急に決定したキャンペーンの告知や在庫数に限りがある商品の販売など、今まで実施できなかった施策が行 えるようになったのが大きいですね」

 短期的な売上を目指すのではなく、ユーザーに覚えてもらい『旅行に行こう』と考えたときに思い出してもらう中長期的な視点でメールマガジンを活用し、効果を上げるエイチ・アイ・エス。野村氏は「会員情報の一元化など難しい課題も残っています。そういった問題を少しずつ乗り越えていきたいと思います」と今後の展開へ意欲を示した。

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

 就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2010/11/29 13:00 https://markezine.jp/article/detail/8893