情報技術で明らかになる店舗内行動
DXの波は、店舗内行動の把握にも押し寄せています。動線の把握はその良い例でしょう。動線とは、店舗内のショッパーの移動経路のことです。動線調査は、以前、調査員がショッパーの後をつける形で行われていましたが、高コストで混雑時の調査が大変でした。しかし、近年、携帯GPS、カメラによる顔認証などの情報技術を用いて、ショッパーの行動を、低コストで正確に把握することが可能になってきました。
慶應義塾大学の清水聰教授の論文「動線調査研究の新しい視点(PDF)」は、最新の情報技術を活用し、来店頻度の高いロイヤルユーザーの行動を明らかにしています。清水教授は、Quuppaという精密な位置情報測定技術で、スーパーマーケット内での動線を調査し、購買データなどと統合しました。分析の結果、補充目的の買物を除いた場合でも、ロイヤルユーザーほど動線が短く、効率的な買物を行っていることが明らかになりました。情報技術の発展により、これまでわからなかった詳細な消費者の店舗内行動と購買の関係が把握できるようになってきました。このような情報は、小売企業、メーカーがマーケティング施策を考える上で重要な情報となっていくと考えられます。
eクチコミと実店舗内行動の相互作用
インターネットは実店舗の敵であると思われがちですが、実店舗とインターネットの関係は、おもしろいものになってきています。たとえば、ショールーミングという行動があります。これは、実店舗では商品を見るだけで、購買はインターネットで行うという行動です。逆に、インターネットで商品をよく調べ、実店舗で実物を確認して購買するというウェブルーミングという行動もあります。インターネットと実店舗は確かに敵対する面があるかもしれませんが、両者の相互作用を通じて買物が生じているという認識が重要です。
インターネット上の企業や商品情報に関するクチコミをeクチコミといいますが、eクチコミと実店舗行動の関係に着目したのが、横浜国立大学の寺本高教授と流通経済研究所の三坂昇司氏の論文「“コスパの良い”は消費者の口コミと購買を促すのか?―小売店舗の価格イメージが口コミ行動と購買行動に与える影響(PDF)」です。
寺本高教授らは、ネットコミュニティ上で、スーパーに関する「コスパの良さ」に関するeクチコミに接した消費者は、「安い」に関するクチコミに接した消費者に比べて、交流終了後に、スーパーでの購買単価が高くなることを明らかにしています。この研究結果は、特定のeクチコミが、リアル店舗での行動に影響を及ぼすという、興味深い現象が生じている可能性を示しています。

変わる「所有」意識と購買行動
モノを買ったら、それはずっと私だけのモノ。このような所有意識は少し前までは当たり前のものだったと思います。しかし、近年、商品使用後にフリマアプリなどでの売却を前提に、商品を購入するリキッド消費と呼ばれる消費スタイルが注目を集めています。
慶應義塾大学大学院の山本晶准教授による論文「二次流通市場が一次流通市場の購買に及ぼす影響(PDF)」は、このリキッド消費に関する、興味深い実験結果を示しています。山本准教授は、実験の分析結果から、フリマアプリの使用者は、商品使用後に高値で売れることがわかっている商品なら、最初に購入するときにある程度高くても購入することを明らかにしています。つまり、インターネット上の転売市場の動向が、商品の最初の購入に影響を与えるという現象が生じている可能性が高く、情報技術を活用したフリマアプリの登場が、消費者の所有の意識や購買スタイルに大きな影響を及ぼしている可能性を示しています。