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全国コンテンツマーケティング探訪~現場の声からヒントを得る

「時間がかかっても本物のファンを作る」創業300年の酒造メーカー・沢の鶴によるデジタルコンテンツ戦略

 コンテンツマーケティングに取り組む全国の企業を取材し、現場で蓄積されたノウハウを学ぶ本連載。第2回は、1717年創業の老舗酒造メーカー「沢の鶴」(神戸市灘区)の事例を紹介する。同社はSNSの積極的な活用や、日本酒に関連した情報を発信するオウンドメディアの運営を通し、日本酒にあまり親しみのない層へのアプローチを実施。一方、既存顧客を裏切らない工夫も見られ、新規・既存ファン両方に考慮したコンテンツ戦略に取り組んでいる。

デジタルの利点を活かし「本物のファン」を作る

 歴史ある蔵元が集まる兵庫県神戸市、西宮市の沿岸部は、日本を代表する酒どころとして知られている。この地で300年以上酒造りを続けている沢の鶴だが、積み上げてきた歴史にあぐらをかくことはない。日本酒になじみの薄い層に向けた商品も開発し続けてきた。スタイリッシュなボトルデザインの「SHUSHU(シュシュ)」は、若者をターゲットに設定。日本酒独特のクセを押さえた。女性向けに開発した商品「たまには酔いたい夜もある」については、紅茶やジュースで割って飲むという新しい日本酒の飲み方を提案している。

「SHUSHU」のボトルは、和・洋・中のどんなテーブルにもマッチする配色・デザインを採用
SHUSHUのボトルは、和・洋・中のどんなテーブルにもマッチする配色・デザインを採用
「たまには酔いたい夜もある」
「たまには酔いたい夜もある」

 「沢の鶴のメインユーザーは50~60代。メインユーザーを大切にすることはもちろんだが、下の世代にもアプローチしていかなければ企業として先細りしてしまう」と話すのは、同社マーケティング室でSNSやECサイト、オウンドメディアなどの運営管理を担当している矢野麻己子さんだ。

 以前は営業担当だったという矢野さんは、もともとはデジタル分野の専門家というわけではない。コンテンツ戦略においては、「ユーザーが引いてしまうようなことがあってはいけない。『もし自分が商品のユーザーだったら』という視点を大切にしている」と説明する通り、ユーザーが同社に求めていることは何かを考えるよう心がけているという。

2012年から同社マーケティング室でデジタル分野を担当する矢野麻己子さん
2012年から同社マーケティング室でデジタル分野を担当する矢野麻己子さん

 矢野さんがマーケティング室に異動した2012年、最初に取り組んだのはコーポレートサイトとECサイトの改修だった。同時に、Facebookの公式アカウントの運用にも着手した。当時マーケティング室は広告予算を削減する必要に迫られており、マス広告以外の方法を模索していたのだという。しかし自身も早くからSNSやECを利用し、その特性を掴んでいた矢野さんは、この状況をチャンスと捉えていた。

 「マス広告の力は確かに強いですが、ユーザーとの接触は一瞬です。接触の機会をより多くもつことができるデジタルの良さを活かして、長い時間をかけてでも、沢の鶴の『本物のファン』を作っていこうと考えていました」(矢野さん)

 Facebookはコーポレートサイトよりもフランクな形での情報発信を目指して運用し、その後も世の中の状況を見ながら各種SNSアカウントを開設。SNSに力を入れ始めた2012年ごろから現在に至るまで、テレビコマーシャルなどのマス広告はほぼ出さず、一般ユーザーに対する宣伝手法は、SNSとオウンドメディアが中心となっている。

SNSごとにテイストをはっきりと分ける

 Facebookの運用に続き、2016年にはTwitterInstagramの公式アカウントも立ち上げた。同社のSNSアカウントの最大の特徴は、それぞれのSNSでテイストを明確に分けている点だ。

 Facebookでは、運用開始時からコーポレート情報を発信するという姿勢を貫いている。新商品の情報や、受賞のお知らせ、オウンドメディアの更新情報といったPR情報を中心にアップしていることがわかる。

 一方、Instagramのテイストはまったく異なっている。アップされているのは、同社の商品を添えた料理の写真だ。時には、商品が写っていない写真も投稿される。並べられた写真を眺めていると、まるで日本酒のおしゃれな商品カタログのように見えてくる。

 Twitterについても、方針がはっきりとしていることが伺える。最大の特徴は、ユーザーと積極的に交流している点だ。ユーザーがアップした同社の商品に関するツイートについて、メッセージを添えて引用リツイートしている。

SNSアカウントを見比べると、それぞれ運用方針が違うことが伺える(左から、Facebook、Twitter、Instagram)
SNSアカウントを見比べると、それぞれ運用方針が違うことが伺える
(左から、Facebook、Twitter、Instagram)

 Instagramの運用については一部アウトソーシングしているというが、TwitterとFacebookについては矢野さん自ら運用を続けている。長年に渡る地道な運用が実を結び、それぞれのフォロワー数はFacebookが約4.6万ユーザー、Twitterは約7.8万ユーザー、Instagramは1.1万ユーザーだ(執筆時点)。昨年まで効果測定の指標をフォロワー数に置いてきたというが、Instagramのフォロワー数が1万ユーザーを超えたこともあり、今後はECへの流入数を重視していく方針だという。

 EC情報についてはInstagramの一般投稿で発信するのではなく、あえてストーリーズで発信しており、Instagramアカウントのテイストを壊してしまわないよう配慮している。すべてのSNSアカウントで見られる共通の姿勢は、いきなり商品を売り込むのではなく、時間をかけてユーザーのエンゲージメントを高め、着実にファンを増やしていくという点にある。

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この記事の著者

山田 太一(ヤマダ タイチ)

エディター、コンテンツマーケティングコンサルタント。産経新聞記者、人材採用広告会社の営業を経て、クマベイスに入社。クライアントワークにあたるとともに、コンテンツマーケティングやコンテンツ戦略の海外事例を研究する。熊本県出身。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/05/24 09:00 https://markezine.jp/article/detail/36136

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