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ミツカンの新ブランド「ZENB」に学ぶ、パーパスドリブンな事業の立ち上げ方

 普段捨てている植物の皮や芯まで、まるごと全部おいしく食べて、人と地球の健康に貢献できないだろうか——こうして2019年3月に誕生したミツカンの新ブランド「ZENB」。酢/ぽん酢を中心に調味料の製造・販売を手がける同社が、未来志向のビジョンの下に立ち上げた新ブランドは、これまでのブランドイメージとまったく異なる新しい食の提案だった。創業217年の老舗企業で、ビジョンを具現化するための新しい事業をどう立ち上げたのか。Mizkan Holdings N.Project マーケティングチーム 兼 ZENB JAPANの長岡雅彦氏に、『マーケター理子の成長記~パーパスドリブン・マーケティングを学ぶ~』の原作者であるひろもり氏、上智大学 経済学部経営学科 教授 新井範子氏が切り込んだ。

ミツカンが提供する新ブランド「ZENB」とは

MarkeZine編集部(以下、MZ):今MarkeZineで連載中の漫画『マーケター理子の成長記~パーパスドリブン・マーケティングを学ぶ~』ではフードロスを解決するような新商品をチームメンバーと開発していくストーリーを展開しています。実はこのストーリーの参考事例の1つが、ミツカンが2019年にスタートした「ZENB」なんです。

 そこで今回は、ZENBの事業を統括している長岡さんに、「社会課題解決に貢献する事業」を実際に進めるに当たり、どのような難しさや課題を乗り越えていったのか、事業開発・マーケティングの観点から伺っていきたいと思います。まず、このZENBはどのような商品・価値を提供しているのか教えてください。

長岡:ZENBとは、動物性原料や、香料・着色料などの添加物に頼らず、植物を普段食べていない部分まで可能な限りまるごと使った食品により人と社会と地球の健康に貢献する、ウエルビーイングな新しい食のライフスタイルを提案するブランドです。100%豆だけで作ったヌードル、まるごと野菜を使ったスティックやペースト、バイツのほか、ヌードルに使える野菜ソースも提供しています。

MZ:ZENB事業は、2018年に発表した「ミツカン未来ビジョン宣言」に基づいてはじまったものだと思うのですが、この事業とビジョンはそもそもどのような問題意識からスタートし、どのように形作られたのでしょうか。

長岡:未来ビジョン宣言は、10年先の未来へ向けた約束として、「人と社会と地球の健康」「新しいおいしさで変えていく社会」「未来を支えるガバナンス」を掲げています。あの宣言を出すに当たっては、確か2年前の2016年から議論を始めたのですが、その時はまだZENBのコンセプトはありませんでした。

 ZENBが始まったきっかけは、実は新しい食品開発技術なんです。わかりやすく一例を挙げると、野菜ペーストを作る技術ですね。こうした新しい技術が見えてきた段階で、「これを元に何かできないか」というところから実はスタートしているんです。

MZ:コンセプトありきというより、技術ありきで始まったのでしょうか?

長岡:本当のスタートはそうですね。ただ、技術ありきとはいっても、やはりこれから10年先、20年先の食生活を考え、「そこにミツカンがどのように貢献できるだろうか」という議論も当然進めていました。

 たとえば10年後であれば、日本では高齢化や少子化が進む一方、世界的に人口は増加し、地球環境温暖化やエネルギー、水の問題も進んでいるかもしれません。そして食の世界では、動物性食品よりも植物性食品のほうが効率がいいといわれており、食に対する意識も大きく変化していると考えられます。こうした変化を背景に、社会や地球や環境も踏まえて「健康」というものを考えていく必要があると思い、それが未来ビジョン宣言となりました。

 そして、そういうことを具現化していくに当たり、やはり「おいしさと健康の一致」が必要だと思ったんです。いくら健康のためとはいっても、おいしくなければ続けられません。健康でおいしいものでなければ、やはり本当の意味で食生活に貢献できていないのではないか、かつ、これをグローバルな事業として展開できないかと構想しました。

 そうして議論を重ねていくうちに、出てきたのが、「植物を可能な限りまるごと使う」というアイデアです。植物は、皮や芯など、食べていない部分がかなりあるんです。普通なら廃棄される部分までおいしく食べることができれば、効率的な食料の需給にもつながるし、そこにある豊富な栄養素も摂ることができます。

 そこで、先ほど話した技術をうまく活用することで、「こういう商品なら作れるかもしれない」となり、ヌードルやスティックやペーストの食品を開発したという流れです。

MZ:ありがとうございます。ZENBを始めるに当たっては、社内からの協力もあり、スムーズに進めてこられたのですか?

長岡:「未来ビジョン宣言を象徴するブランドを作ろう」という議論のなかで進めてきたので、そういう意味ではビジョンありきで進んできた面がありますね。

(左)『マーケター理子の成長記~パーパスドリブン・マーケティングを学ぶ~』原作者 ひろもり氏
(中央)Mizkan Holdings N.Project マーケティングチーム 兼 ZENB JAPAN 長岡雅彦氏
(右)上智大学 経済学部経営学科 教授 新井範子氏

なぜ、あえてゼロベースからのスタートだったのか?

ひろもり:「ビジョンがあったから、ZENBがスタートできた」というのは非常におもしろいですね。メーカーが本来あるべき理想的な形だと思います。というのも多くの場合、「こんな技術ができたから、これで新しい製品を作ってみよう」という、典型的なプロダクトアウトの形で商品化されることが多いと思いますが、そこに「ビジョン」が加わったことで、まったく新しい、自社の未来を象徴するようなブランドを立ち上げることができたという点が非常に興味深いです。

 ミツカンさんなら、お酢の開発技術があるので、「10年先の未来を考えて、高齢者に適したお酢を開発しました」となると思うのですが、ビジョンがあって、技術があって、ゼロベースで新しいブランドを立ち上げたという点が非常に興味深いです。

新井:私が授業で「ブランド拡張」を講義する場合、やはり元々のブランドから拡張していくと思います。ミツカンさんなら、既に確固とした企業ブランドのイメージがあるので、なぜそこで酢ではなく、植物・野菜の商品という発想を得たのでしょうか。

長岡:そこが最初にお話しした「技術」になるんですよね。ZENBの商品は、一例として挙げたペーストを作る技術のほかにも、様々な技術を組み合わせて商品を開発しているのですが、元々はミツカンの別の商品を作るための技術として使われていたものです。それを使って、「野菜でも豆でも、穀物でも果物でも、いろんな植物の素材の力を活かしていこう」というアイデアが出ました。

 また、やはり「健康」という大きなテーマも影響しています。健康意識の高まりから、野菜へのニーズも高まっているので、「野菜を活用しよう」という入り口から入った面もあります。

MZ:ミツカンだと、ブランドイメージはもちろん、販路も強いので、そうした強みを軸に拡張していく方法もあったと思いますが、ZENBは店舗ではなく、ECを中心にDtoCで直販売されていますよね。これまで培ってきた強みやノウハウをあえて使わず、事業をスタートした意図を教えてください。

長岡:元々プロジェクトの立ち上げから共感する人とのネットワークを大事にしてきたという背景もありますが、もう1つ大きな理由があります。それは、量販店を通して、こうしたブランドの思いを伝えた上で販売していくのはやはり難しいのではないかという懸念です。

 確かに、既存の販売力を駆使してテレビCMで商品の価値をコミュニケーションすることはできます。ただ、それだけではブランドの背景にあるビジョンや思いまでは伝えることはできないのではないか。ZENBは食生活全般を提案するブランドを目指しているので、ZENBを理解し、共感してもらえないと、継続的に購入してもらえないのではないかという議論が出てきたんですね。

 そこで、単なる一つの商品としてではなく、ブランドの背景にあるビジョンや価値を直接伝え、生活者とコミュニケーションしながらブランドを育てていく、そういう思いから、DtoCという形になりました。

 実は最初はクラウドファンディングから始めたんです。これはお金を集めるというより、このコンセプトを生活者の方に聞いてみて、共感してもらえるのかを確認したいと思って挑戦してみました。

MZ:クラウドファンディングをマーケティングリサーチのような形で活用するのもおもしろい発想ですね。

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この記事の著者

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/05/14 09:00 https://markezine.jp/article/detail/36171

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