海外で広がる水ソムリエの事例
「水ソムリエ」という存在を象徴的に示すのが、実際にレストランやイベントで展開されている水メニューやテイスティングの事例である。
英国:La Popote の水メニュー
英国チェシャーにあるフレンチレストラン「La Popote」は、同国で初めて「水メニュー」を導入したことで話題になった。そこには三種類のスティルウォーター、四種類のスパークリングウォーター、さらにはタップウォーターまでが並び、それぞれの産地や特徴が記載されている。ワインリストさながらに「口当たりが柔らかく、和食に合う」「ミネラル感が強く、肉料理を引き立てる」といった解説が添えられ、ゲストは食事に合わせて水を選ぶことができる。水という“当たり前の存在”を選択肢として提示するだけで、体験が一段階豊かになる好例である。
米国:The Inn at Little Washingtonの氷河水
アメリカでも大胆な試みがなされている。バージニア州の三つ星レストラン「The Inn at Little Washington」では、カナダ産の氷河水を750ミリリットルで95ドルという高額で提供し、ニュースとなった。氷河の悠久の時間を経た純度の高い水を「特別な一杯」として味わう体験は、単なる水分補給ではなく“物語”を購入する行為に近い。このような価格設定が成立するのは、ゲストが「水を飲む」という行為に文化的・感性的な価値を見出しているからにほかならない。
Fine Watersのテイスティングイベント
さらに世界的なプレミアムウォータープラットフォーム「Fine Waters」は、水をテロワールのある自然産物と位置づけ、テイスティングイベントを開催している。参加者は火山岩から湧き出た水、深海から汲み上げられた水、森林に育まれた湧水などをグラスで味わい、違いを比較する。そこでは水のミネラルバランスや口当たりの硬軟が語られ、ワインテイスティングさながらの体験が提供される。こうしたイベントは「水を味わう」という新しい文化を創出し、消費者に体験型消費の新たな選択肢を与えている。
日本の水への示唆
興味深いのは、こうした国際的な潮流の中で、日本の水も潜在的な可能性を秘めている点である。ヨーロッパでは硬水が主流だが、日本の水は軟水が多く、口当たりの柔らかさが特長とされる。これは和食や茶文化と深く結びついており、海外の消費者にとってはむしろ新鮮な体験となり得る。実際、日本の天然水が国際的な場に出品される事例もあり、今後「日本の水」がプレミアムな文脈で語られる可能性は十分にある。
