8月23日、日本の著作権保護期間の延長問題をテーマにした「著作権保護期間延長問題を考えるフォーラム 公開トークイベント vol.4」が慶應義塾大学三田キャンパスにて開催され、多くの来場者で会場が埋まった。
コーディネーターは、福井健策氏(弁護士・ニューヨーク州弁護士、世話人)、パネラーとして、中山信弘氏(東京大学教授)、久保田裕氏(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事、発起人)、ドミニク・チェン氏(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事、発起人)が登場した。
現在、日本国内の著作権の保護期間は、ベルヌ条約で定められている「著作者の生存期間および著作者の死後50年」(同条約7条1)を原則とし、著作権は著作物の創作と同時に発生し、著作者の死後50年(あるいはそれ以上)まで存続するものとしている。ただしEU諸国や米国は、日本よりも20年長い死後70年を適用しており、世界的に見てもとりわけ先進国は保護期間が長い傾向にある。
日本の著作権保護期間の延長論議も、2002年、米国からの外交要求を受ける形で高まっており、国内でも「先進諸国で日本だけ短いのはアンフェアだ」「保護延長が、創作者の新たな創造の意欲を高める」などの期間延長賛成派と、「保護延長で利益を得るのは、主に著作者の孫・ひ孫やごく一部の団体だけ」や「誰もが著作者であると共に利用者なのだから、延長により独占が長期化すれば新たな創造の芽をつぶすことになる」などと主張する反対派の意見が対立し、平行線をたどっている。
今回のフォーラムでも議論の的はこの期間延長だった。日本における知的財産法学の第一人者と評される中山信弘氏(東京大学教授)は、延長賛成派から「欧米と比べると期間延長問題において遅れていて恥ずかしい」という声が聞こえることについて、「何が恥ずかしいかわからない。ヨーロッパが70年に期間延長したのは、1990年代のこと。現代とはIT状況が全く異なる。インターネットがまだ発達していなかった頃の決定に対して、日本が真似をしないのが恥ずかしいとは私は思わない」と述べた。さらに、「欧米に倣うのではなく、日本のあるべき姿を追求すべきだ」として、欧米モデルとは一線を画して、日本モデルを探るべきと主張した。
同様に、コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事を務める久保田裕氏も、「著作権保護期間を50年から70年に延長したとして、きちんとエンフォースメント(権利保護情報の遵守方策)できるのか。エンフォースメントされなければ延長しても意味がない」と訴えた。現在、国内でも著作物の流用が勝手になされているケースが多いのが事実だ。また期間延長を実施し、国際的な調和をはからないと、コンテンツの国際的な流通が害されるという意見もあるが、これに対しても「私が現場で思うことは、いざ海外で日本の著作物の権利保護を行おうとしてもどこに著作権があるかわからない。ライセンス契約もずさんだ。このような中では期間延長しても、日本は著作権ビジネスで外貨は獲得できない」と指摘した。これらの前提をクリアしない限り、期間延長の価値が見出せないことを強調した。
この後、参加した来場者からの質疑応答なども行われ、活発な議論がなされたが、問題解決に向けて抜本的なアイデアが提示されることはなく、改めて著作権保護期間延長問題の根深さが露呈した。フォーラムの最後はコーディネーターを務めた弁護士の福井健策氏の「著作権保護に関しては、日本モデルを追及する方向に向かっているが、まだまだ2合目、3合目あたり。何が日本モデルか明確にするには、時間がかかり、とても地道な作業だ。だが大切なことなので時間をかけてでも解決していきたい」という言葉で締めくくられた。