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Googleが火をつけた自動運転競争、自動運転とビッグデータ×AIの深い関係とは?

 マーケター向けに、人工知能(AI)の活用について解説する本連載。第7回となる今回は、Googleによる参入の発表から急速に競争が激化している自動運転について解説し、また、マーケティングへの影響を考えていく。

Googleの狙いと、自動運転が及ぼす産業界への影響

 突然だが、「ナイトライダー」をご存じだろうか。

 1980年代に大ヒットした海外ドラマで、主人公のマイケル・ナイトがAI搭載の自動運転車「ナイト2000」とともに様々な事件を解決していく物語である。40代の男性であれば、ほとんどの方がご存知ではないだろうか。ナイト2000に搭載されていたAIは主人公マイケルから「キット」と呼ばれ、キットはマイケルにとって大事な相棒のような存在だ。

ちなみに、「ナイトライダー」シーズン1はFOXクラシック 名作ドラマにて毎週土曜あさ10時に放送中だ
ちなみに、「ナイトライダー」シーズン1はFOXクラシック 名作ドラマにて毎週土曜あさ10時に放送中だ

 特撮もののドラマであり、当時はあくまで「TVの中のおはなし」として観ていたものだが、時代は進み、ナイト2000に近い存在が実現されつつある。現時点で考え得る構成としては、今回のテーマである「自動運転車」+前回紹介した「AIアシスタント」 ということになるだろう(もちろん、武装など特殊な装置や、トレードマークの赤い光――ナイトフラッシャー、あの印象的な効果音から通称「フォンフォン」とも呼ぶらしい――などはここでは考慮しない)。

 そのナイトライダーを語るうえでも極めて重要な要素である「自動運転」だが、2010年にGoogleが参入を表明してから、自動車メーカー各社が急速に自動運転の実用化に向けて動いている。なぜGoogleが自動運転を手掛けるのか。理由として次の2点が挙げられる。

 理由の1点目、実現可能性の面では、ビッグデータを持つ・あるいは集める能力と、深層学習をはじめとする解析技術・AI技術によって自動運転が実現可能であるとの見立てがあったと想定される。この点は後述する。

 もう1点、彼らの目的という視点で考えると、Google検索やAndroidの提供に見られるのと同様に、ソフトウェアレベルでのプラットフォームをおさえたいという意図が見えてくる。スマートデバイス向けにAndroidというOSを提供するのと同様に、自動車というハードウェア向けに「自動運転」というソフトウェアを提供するという意味だ。Googleは検索やAndroidを提供することによって、Webやスマートフォンでのサービス提供事業者や広告会社に対する強固な力を得ている。つまり、プラットフォームをおさえることでその領域のルールを決める力を持つことになる。完全な自動運転車が実現すれば、Googleにとって自動車は大きな通信端末であり、スマートフォンと並ぶレベルの重要性を持つIoTデバイスとなり得るだろう。

Googleが開発を進める自動運転カー(https://www.google.com/selfdrivingcar/より)ルーフに搭載された、カメラを含むセンサーが捉えられる情報を最大化するために丸みを帯びた形状となっている。また、車内空間も「運転(Driving)ではなく、乗る(Riding)ためにデザインされている」とGoogleは強調する。
Googleが開発を進める自動運転カー(https://www.google.com/selfdrivingcar/より)ルーフに搭載された、カメラを含むセンサーが捉えられる情報を最大化するために丸みを帯びた形状となっている。また、車内空間も「運転(Driving)ではなく、乗る(Riding)ためにデザインされている」とGoogleは強調する。

Googleが自動運転事業を方向転換か?

 本稿執筆中に、Waymo設立の報道があった(その直前に「自動運転事業から撤退か」という報道もあったが、Googleの本当の意図は現時点では不明だ)。Googleはこれまで「Google X」というプロジェクト名で自動運転技術を研究してきたが、これを継承する形で2016年12月、親会社であるAlphabet傘下にWaymoという企業を設立した。つまり、今後は1つの独立した企業として収益化も含めて本格的に進めていくと考えられる。このWaymoは「自動運転技術企業(self-driving technology company)」であるといい、すなわち自動車メーカーではないという主張だろう。Waymoとして、先に述べた「プラットフォームとしての自動運転」という方向性を加速していくのか、それともこれまでの成果を収益化することに重点を置くのか。いずれにしても、Googleの自動運転は新たなフェーズに入ったと見ていいだろう。

 さて、自動運転が実現した世界では、ドライバー(という表現は適切ではないが)はこれまでの連続的かつ排他的なタスク(=運転)から解放され、移動中の車内空間はコミュニケーションやエンタメ、ゲーム等に興じる時間に変容するだろう。

 国土交通省によると、日本で乗用車の保有台数は6000万台あり、年間平均10,000km走行している。走行中の平均時速30kmと仮定すると、ドライバーは年間330時間、つまり1日1時間程度を運転に費やしている計算になる。これがメディア接触時間になれば大きい。メディア環境研究所「メディア定点調査2016」によれば、パソコンが1日60分、あるいはラジオ・新聞・雑誌の合計でも約60分であり、これに匹敵する時間が車内空間で新たにメディア空間となり得るのだ※1。

 ※1 参考資料:以下をもとにそれぞれ推計
 ・日本自動車工業会「自動車保有台数」
 http://www.jama.or.jp/industry/four_wheeled/four_wheeled_3t1.html
 ・国土交通省「自動車の使用実態」
 http://www.mlit.go.jp/jidosha/iinkai/seibi/5th/5-2.pdf
 ・国土交通省「三大都市の旅行速度の推移」
 http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-data/data/107.pdf
 ・メディア環境研究所「メディア定点調査2016」
 http://www.media-kankyo.jp/wordpress/wp-content/uploads/HDYmpnews20160620.pdf

 さらに、現在の自動車はドライバーがいる前提で全員前方に向かって座席が配置されているのが一般的だが、ドライバーが不在となれば前方を向いている理由もない。同乗者がドライバーに気を使う必要もない。また、ドライバー1人が運転という重大なタスクを担っている中で他の同乗者のメンタリティはドライバーを中心に構成されがちだろうし、ドライバーは運転にある程度集中を要する。つまり、1対多での関係でありながら主である1のほうは運転に集中するから、各人の独立性が高くなる。それが純粋なN人のコミュニケーション空間に変貌することは、大きな転換だろう。

1対多から、純粋なN人に
1対多から、純粋なN人に

 また、自動運転が実現すれば、例えば地方の高齢者の足として機能することが期待される。結果、消費の活性化に繋がるため、高齢化の進む日本ではこれによって生まれる経済価値もかなりの規模となりそうだ。さらに、事故の激減や渋滞の解消による経済損失の減少など、多くの経済的価値が見込まれている。業種の単位で考えても、流通各社のロジスティクス、輸送や運輸・宅配サービスなど、自動運転によって一変する産業も多いだろう。


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