KDDIは統合コミュニケーションと投資対効果の最適化にどう挑んだのか?5つの取り組みを紹介
(1)MMMの導入
まず、コミュニケーションの効果やブランドへの貢献度を可視化するため、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)を導入した。事業目標であるスマートフォンの新規契約数(ID数の増加)を最終ゴールとした際、新規契約につながる最も有効な「意識指標」を特定し、その向上には具体的にどのコミュニケーション施策が有効なのか分析していく。
KDDIの取り組みの特徴は、一般的なMMMモデルにこの意識指標を組み込んでいる点だ。新規契約を最終ゴールとした際に、顧客の行動と意識を8ステップに分けて分析。途中のステップに「ブランドイメージ」や「好意度」といった意識指標を盛り込むことで、施策が意識に与えた影響が事業成果へどう貢献するかを明確化している。
分析により、新規契約に至るための最も強い影響パスを特定し、そのパスに対してコストをより配分している。意識指標の調査は週次で行い、キャンペーン期間中でもコストのアロケーションを柔軟に調整しながらPDCAを回し、効果の可視化を通じて社内理解の浸透にも注力する。
(2)A‐UR指標によるテレビデバイスの運用
テレビ広告の運用においても、KDDIはデータに基づく最適化を進めた。2018年頃までは視聴率ベースのGRP(Gross Rating Point)でプランニングしていたが、全体的な視聴率低下や、視聴者がテレビを「ながら見」する傾向から、「CMが見られていないのではないか」と課題意識が生まれた。
そこで、2019年からテレビ広告の指標を「A‐UR(アテンション・ユニーク・リーチ)」に切り替えた。A‐URは、「テレビデバイスの前にユーザーがおり、視線がテレビに向いているか」すなわち注視されている割合を測る指標であり、GRPと比較してCM認知との相関が高いというデータもある。さらに、地上波だけでなくコネクテッドTV(CTV)の視聴にも適用可能だ。

KDDIでは、「テレビデバイスでどう広告を見ていただくか」という考えのもと、地上波とCTVを組み合わせたプランニングとコストアロケーションを実施した。CTV活用により、2024年の実績ではA‐URを約12%改善する成果を上げたと馬場氏。データを蓄積することで、コストアロケーションのシミュレーション精度を継続的に向上させている。
(3)AIによるクリエイティブ制作
続いて馬場氏は、クリエイティブ制作の効率化と内製化を目的とした、AIによるクリエイティブ生成の仕組みについて紹介。仕組みの導入にあたり、馬場氏が最も意識したのは「ブランドを守る」ことだ。単に大量生産するのではなく、auのビジュアルアイデンティティを学習させ、「ブランドらしさ」を保ったクリエイティブを生成することに重点を置いた。
制作プロセスでは、一般的な画像生成AIツールで生成された複数のクリエイティブ案に対し、過去の実績からAIがCTR予測を行う。予測結果の良いものを選択して活用することで、クリエイティブの効果を高めるとともに、施策結果を反映させることでAIの精度も向上する形でPDCAを回している。
この仕組みにより、コストと制作期間がかかっていた課題を解消し、内製化を推進。クリエイティブ領域の知識が少なくても、コミュニケーションの目的を理解していれば誰でもクリエイティブ生成ができる仕組みを目指している。
「現在はバナー広告が中心ですが、今後はオウンドメディアやホームページのクリエイティブ、ビジネスの提案資料など、全社的な活用へと拡大を進めています」(馬場氏)
