マルチタスクのトレンドに合わせ、「聴く」だけではないプラットフォームに
MZ:続いては、音声広告市場のお話をうかがいます。市場の特徴や、注目のトピックスなどを紹介いただけますか。
ケルサル:広告の話に入る前に、日本のトレンドをお話します。まず、「耳を開けておきたくない」というトレンドです。特に若い世代は、音楽を聴きながら何かをする傾向があります。通勤・料理・掃除・運動など、マルチタスクで音楽を聴くのが近年のトレンドですね。
この潮流に合わせて、音声広告のニーズも変化しています。Spotifyは音楽アプリから始まりましたが、最近はミュージックビデオやビデオポッドキャストもコンテンツとして扱っているため、「聴く」だけではなく「見る」プラットフォームになりました。2025年は昨年と比べ、ユーザーの「見る」行為が37%増えています。
そのため、広告配信でも音声だけではなく、音声と動画などのコンテンツを組み合わせるマルチフォーマットのキャンペーンを推奨しています。私たちSpotify広告事業部のミッションは、リスナーの感情や「ながら聴き」の時間と、その瞬間に合わせた広告をつなげることです。
エリサ・ケルサル(Elisa Kelsall)氏
グローバルテック企業および広告分野で3ヵ国にわたり18年間成長を牽引。現在はSpotifyにおいて、日本およびアジア太平洋地域の広告事業を統括する。Spotify入社前は、グーグルで10年間新規事業カントリーマネージャーなどを歴任。その後、TikTokオーストラリア初のコマーシャルリードとして事業を推進し、IBMでは2年間パートナーエコシステムを率いた。
MZ:シーンに合った広告が出てくるイメージということですね。
ケルサル:そうです。プロダクト設計の面でも、動画広告は曲が終わった後に出るなど、ユーザビリティを意識しています。ユーザーが情報と接触している時は動画、バックグラウンド再生で聞いている時は音声広告が流れるなど、情報接触の態度を加味して広告コンテンツを出し分けています。
さらに、音声広告に動画広告やDOOH(デジタル屋外広告)などを組み合わせると、ブランド想起にもより効果的です。テレビのジングルをイメージするとわかりやすいですが、音声は長く記憶に残ります。テレビCMと同じ時期にSpotifyで音声広告を出すと、CMのみの時と比べブランド想起が3.6倍になり、3週間経っても68%ブランド想起が高くなるという調査データもあります。
アニメコラボから無料版のリニューアルまで、日本市場の拡大戦略
MZ:国内の潮流や市場動向を踏まえ、Spotifyとしての具体的な取り組みをお話しください。
エリソン:さらなる音楽人口拡大のため、直近で取り組んでいる代表的な施策の一つが、アニメフランチャイズとのパートナーシップです。アニメファンは音楽にアンテナを立てている人が多く、アニメと音楽は関係が深いという仮説のもと、施策を展開してきました。
たとえば2021年には映画『竜とそばかすの姫』のタイアップ施策を実施しました。公式プレイリストをSpotifyで配信したりステッカーを劇場で配ったりして、「映画の感動をもう一度、Spotifyで」というメッセージを示したことでよい反響が得られました。2025年は映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』や『果てしなきスカーレット』とのコラボレーションも展開。消費者がときめいている瞬間にメッセージを出すことが重要となり、アニメとの連動は新たなマーケティング戦略の大黒柱になり得るでしょう。
もう一つは、30代~40代に向けたマーケティング施策です。これはグローバルで、日本だけの取り組みです。音楽離れに対応すべく、特に地方におけるメディア展開では「音楽があると世代間の会話ができる」「音楽があると車中が楽しくなる」など、利用シーンの訴求で生活を豊かにするメッセージを発信しています。
プロダクト面では、映像コンテンツを拡大していきます。コンテンツを充実させることで、視聴時間やエンゲージメントも高まるでしょう。また、モバイル向け無料プランをリニューアルしました。これまではシャッフル再生が基本でしたが、ユーザーが好きな楽曲を検索して聴ける機能を実装。より使い心地のいいサービスを展開し、利用拡大を図ってまいります。
