メーカーとしてのリテールメディア活用:サントリーの事例
続いてサントリーの中村氏が、福岡エリアでのリテールメディアマーケティングの実施例を紹介した。
サントリーは、同社の目玉商品「サントリー生ビール」の福岡エリアでのプロモーションにおいて、リテールメディアを活用している。また、別エリアにおいて先述の東急ストアとのID連携を活用し、ターゲット型のレシートクーポンを発行したり、店内のサイネージ広告に出稿したりしているという。
結論から言えば「新規獲得には、カート広告とカートクーポンが最も効果的だった」と中村氏。これは、タブレット付きショッピングカートに、商品が投入されたタイミングで広告やクーポンが表示される仕組みだ。中村氏は「顧客の購買行動の動線に寄り添えるため、高い効果が得られたのではないか」という仮説を話した。
また、店頭のメディアを活用する場合「売場での商品の露出との連動が重要」と指摘。チェーン別のプロモーション効果を比べると、大きい売場でしっかり露出できた店舗では、リテールメディアとの相乗効果で売上が大きく伸長したという。
さらに、九州エリアの福岡・佐賀を除く5県でのプロモーションでは、地方局のアナウンサーといったローカルタレントをアンバサダーとして起用。その結果、新規顧客を増やすことに成功した。媒体別では、特に紙チラシとサイネージ広告が効果的だった。
中村氏は「地方エリアでお客様とどう距離を縮めるかが課題だった。地元で知名度のある方々を起用することによって、その人を応援するためにサントリー生ビールも応援する、という流れができた」と分析する。
中村氏は、今回のリテールメディア活用を振り返って、以下の気づきを得たという。
「リテールメディアは、売上への即効性を高めるなら売場との連動が不可欠です。また、誰に、何を認知してもらいたいのかといった目的に合わせて、予算配分を最適化する必要があります」(中村氏)
小売とメーカーの社内の“壁” リテールメディアの課題
続いて「リテールメディアの課題」と「リテールメディアの可能性」について、3名によるディスカッションが行われた。
従来からある課題としては、メーカー・小売それぞれの社内の分断が挙げられる。メーカー企業においては、広告を扱う宣伝部と、小売との商談を行う営業部の役割分担が存在してきた。そのため、「リテールメディアの導入時に双方の役割や責任をどうするかうまく連携できない」といった課題があると、郡司氏は指摘した。
一方で、小売企業にも社内の課題がある。メーカーとやりとりする商品部と、店舗運営の部門の間に溝があることが多いのだ。
リテールメディアへの出稿の営業をかける際、店舗運営から商品部を通し、メーカーの営業にアタックして、そこから宣伝部へ話を通すとなるとかなりの時間を要する。山口氏は「東急ストアの場合、メーカーと小売の間の卸とパートナー契約をすることで、この時間を短縮している」と説明した。
また、中村氏は「売上までコミットできるリテールメディアが少ない。先行事例がないので、どれだけ費用を投資してよいのか、石橋をたたいて渡る状態」という問題を挙げた。
郡司氏も、「メーカーにとってリテールメディアを活用することによる価値がわかりにくく、効果検証しても実際の売上効果が少ないことが多い。特に、売場と連動していないデジタルサイネージは効果が出ない」という問題を指摘。
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この背景には、小売企業がリテールメディアビジネスを積極的に展開しているのではなく、リテールメディアプラットフォームの運営者(ITベンダー)などから話を持ちかけられて受け身的にやっているパターンが多いという要因がある。
こうした課題に対して、中村氏は以下の見方を示した。
「売上に直結するかだけで判断すると『やらないほうがいい』という判断になる。しかし、リテールメディアを通して得られるのは、メーカーにとってはお客様理解を深めるにあたって貴重なデータ資産です。小売さんと協力してリテールメディアを発展させていくという観点が必要なのです」(中村氏)
