「安い業態」へのシフトが起きる中、なぜ総売上を伸ばしたのか?
次に、ブランドごとに前年同期間の売上の差を業態別に確認しました(図3)。成功ブランドは、スーパーとドラッグストアで販売が伸び、コンビニは維持または微減。一方、苦戦ブランドは全業態で減少し、特にスーパーでの落ち込みが顕著でした。
出典:CODE 買いログデータ
期間:上表:2023年4月~2025年10月
※値上げ時期に応じてブランドごとに期間を変更(値上げが、2025年10月=1ヵ月、2025年9月=2ヵ月、その他=3ヵ月で集計)
下表:2024年10月~2025年10月
※ブランドごとの値上げ月1ヵ月で集計
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背景には業態別の価格差と、それに伴う購買場所の変化があります。即時消費型ブランドは1点単位での購入が中心であるため、値上げ後は「より安い業態」へ購入場所を移しやすい特徴があります。実際、平均単価はスーパーが最も安く、コンビニが高い傾向にあります。この価格差により、コンビニでの購買頻度が下がる一方で、スーパーやドラッグストアへの「業態シフト」が起きました。このシフト先でまとめ買い需要などをうまく取り込んだブランドもあり、結果として総売上を伸ばしたと考えられます。
また、同カテゴリー内の他ブランドからの流入も一部で見られています。こうした動きによって売上全体はコンビニ減少分を上回る伸びとなった可能性があります。一方、ストック購買型ブランドは大容量パックを軸にしており、スーパー依存度が高く、他業態への移行が難しいため、値上げ後に購買が大きく減少しました。
まとめ買いの心理的負担が高まり、購買行動を抑制した可能性があります。現状打開にはコンビニ向けの小容量商品など、大容量でない商品の展開が必要になりそうです。
「誰に売れているか」が勝敗を分ける:ヘビー層の重要性
次に、消費のされ方以外で成否に影響した要因を確認するため、ブランドごとの顧客構造の違いに着目しました。お茶ブランドA(以下、お茶A)とお茶ブランドB(以下、お茶B)はいずれも即時消費型ブランドですが、値上げ後の結果は成功と苦戦に分かれており、対照的でした。
この2つのブランドを例に、購入者をライト層(低頻度)、ミドル層(中頻度)、ヘビー層(高頻度)の3つの利用頻度層に分けて比較します。結果を見ると、苦戦したお茶Bはライト層の売上構成比が高く、購買頻度の低いユーザーが中心でした(図4)。ライト層は「代替ブランドへの移行が容易」という特徴を持つため、値上げ後は購入者数が減少したと考えられます。
一方、成功したお茶Aはヘビー層の構成比が高く、習慣的に購入するファンに支えられていました。ヘビー層はブランド選択が「習慣化」し、「ブランドロイヤルティが高い」ため、値上げ後も購買を継続する傾向があります。これが値上げ後も購入者数を維持できた理由だと考えられます。
出典:CODE 買いログデータ
期間:値上げ前半年(2024年4月~2025年9月)
※両ブランド平均で購入回数の割合がH:M:L=30:15:55 程度になるよう回数を定義し、月平均購入回数が1回以下をライト・1回より多く2回以下をミドル・2回より多いユーザーをヘビーとする。
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値上げ成功の条件
これまでの分析から、値上げ成功の条件は、複数の要素が重なり合うことが明らかになりました。第一に、ブランド特性として即時消費型であること。即時消費型ブランドは、購買の場面で「その場で選ばれる」特性を持ち、値上げ後も比較的安価な業態へ購買が移行しやすい構造を備えています。この柔軟性が、売上と購入者数の維持に寄与する要因となります。
第二に、ヘビー層を基盤に持つことです。購買頻度の高いユーザーは、価格改定による心理的負担を受けにくく、ブランド選択が習慣化されているため、離脱率が低いことが確認されました。逆にライト層の構成が高いブランドは、値上げ時に大量離脱のリスクを抱えるため、事前の育成施策が不可欠といえます。これらを踏まえると、値上げを成功させるには、単発の販促や広告だけでなく、日常的にヘビー層を育成する施策を継続することも重要であると分かります。
