解決策に飛びつくな。「HOW思考」の罠と、リクルート時代の失敗事例
さて、ここまで「現象」「問題」「課題」の3分類を紹介しましたが、戦略を考える上では、ここに「対策」も加えて階層構造で整理すると、筋が通っているかが分かりやすくなります。対策まで一貫して整理することで、「その課題は解けるのか?」が見えるからです。
言い換えると、「解決できないことを課題と捉えない」ことも重要です。解決できない課題を置いても、期限内に解決する戦略を実行できません。ビジネスには期限がある以上、対策の筋まで含めて整理するのが実務的です。私は次の4階層で整理します。
| 分類 | 内容 |
| 現象 | 目の前に起きている事象 |
| 問題 | 現象として起きているマイナスの事象 |
| 課題 | 時間軸が発生しており、構造的な再現性のある原因 |
| 対策 | 構造的な原因を生み出す課題を解消するための打ち手筋 |
ここでは「打ち手筋」としていますが、対策を詳細に詰める必要はありません。解像度を極めるべきはあくまで「課題」であり、対策は方向性(=筋)が見えれば十分だからです。
課題が定まる前に、すぐ対策を考えてしまうことを、私は「HOW思考」と呼んでいます。 マーケティングとは、市場に適応し価値を届けるための『一貫した取り組み』全体を指します。しかし、「マーケティング=プロモーション」と捉えていると、どうしても手っ取り早い手法(HOW)に目が行きがちです。重要なのは、徹底して課題に向き合うこと。HOWは最後の最後に考える癖をつけるよう強くお勧めします。
私はかつて、思考の癖がつくまでは「HOW禁止」というルールを設けて議論していました。それくらい意識的に是正しないと、つい戦略ではなく解決策(戦術)を語りたくなってしまうものだからです。
ここで、『ワニワニパニック』の例を4階層で置くと、こうなります。
| 分類 | 内容 |
| 現象 | 複数の穴からワニが素早く次々と出てくる |
| 問題 | ワニが出てきて引っ込むスピードが速く、叩けないこと |
| 課題 | ワニが穴から出てくるタイミングが読めないこと |
| 対策 | ワニが出てくるタイミング、パターン明らかにして読めるようにする |
課題が明確であれば、対策の解像度は現時点ではこの程度で十分です。大まかな対策筋を置き、「課題解決できそうな筋がある」と見立てられれば、解決できうる課題として課題設定できます。課題の構造化では、この4階層で整理した上で、課題設定を解像度高く言語化・数値化することが重要です。ぜひ実務でも試してみてください。
【実例】なぜ、広告予算が同じでもシェアを奪われ続けたのか?──リクルート時代の「敗北」と「逆転」
では、前述の構造を実際の事例に当てはめてみましょう。私がリクルートでHR領域のマーケティングを担当していた頃の、少し簡略化したケーススタディです。
担当していたのは、若年層向けアルバイト求人メディア。機能差がつきにくいコモディティ化した市場で、プロモーション投下量がシェアを左右する消耗戦に陥っていました。競合との投資額は拮抗しているにもかかわらず、トップシェアである自社の利用シェアは毎年2〜3%ずつ奪われている。これが最初に直面した「現象」であり「問題」でした。
この市場の勝負を分けるのは「第一想起」です。カスタマーは「条件の良い求人」を逃さないよう複数サービスを併用しますが、応募などのアクションは「最初に開いたアプリ」で起きる確率が高い。つまり、併用前提の中で「最初に指名検索(ブランドクエリ)される存在」であり続けることが重要KPIでしたが、ここが競合に負け始めていたのです。
そこで最初に立てた仮説は「投資配分のミス」です。競合はTVCMが目立っていたため、媒体費のアロケーションが違うのではと疑いました。しかし、調査の結果はシビアでした。予算配分はほぼ同額、むしろTVCM単体では自社の方が約5%多く投下していたのです。デジタル広告の効率にも差はありませんでした。
次に疑ったのが「クリエイティブの質」です。調査指標を見ると、確かに直近のTVCM広告認知率が競合より5〜10%低い。「同じ金額を投下しているのに認知が取れていないのは、クリエイティブ(素材)が劣っているからだ」。そう考え、ひとまずここを課題と設定しました。
この時点で整理すると、こうなります。
| 分類 | 内容 |
| 現象 | 2~3年の時系列で第一想起率とブランドクエリが毎年2~3ptずつ奪われている |
| 問題 | 広告投資額に拮抗し、自社が毎年2~3ptカスタマーの利用シェアを奪われていること |
| 課題 | 指名検索に影響するTVCMのクリエイティブで広告認知が5~10%劣後していること |
| 対策 | TVCMのクリエイティブをメインターゲットに最適化して広告認知を高める |
この整理に基づきCM素材を刷新しましたが、結果は「広告認知率は上がったが、肝心のKPIは改善しない」というものでした。「もっと素材を磨けば伸びるのでは」という声もありましたが、私は強い違和感を覚えました。カスタマーは直感でサービスを選んでいるはず。だとしたら、クリエイティブの良し悪しだけが決定打になるだろうか、と。
