「バケツリレー型」から、共感と自走を生む「スクラム型組織」へ
作り上げた戦略を絵に描いた餅にしないための決定打となったのが、組織の変革である。従来の組織は、研究が開発したものを事業部が受け取り、それを販売部門が売るという、典型的な「バケツリレー型」であった。しかし、この方法では部門間に分断が生じ、スピードも熱量も削がれてしまう。
そこで花王が導入したのが、全部門が初期段階から肩を組んで並走する「スクラム型」の組織体制だ。
スクラム型の核となるのは、「共感・自走・学習」という3つのエンジンである。メンバー一人ひとりがビジョンに共感し、自発的に、成功も失敗も共有して次に活かすサイクルを回す。

この体制への移行により、開発スピードが劇的に向上しただけでなく、メンバーの意識に変化が生まれたという。
「自分の担当領域のことだけを考えるのではなく、『ブランドを成功させるために自分が何をすべきか』を全員が考えるようになったのです」(山岡氏)
「自分事化」を加速させる、解像度の高いゴール設定とフラットな関係
スクラムを機能させるための具体的なステップとして、山岡氏はまず「解像度の高いゴール設定」を挙げる。スクラムチームには研究から販売まで多様なメンバーが集うため、放置すれば価値観やモチベーションはバラバラになりがちである。
「まず、解像度高く、顧客にどうなってほしいかのゴールを自ら設定します。ゴールのディテールをみんなでとことん議論し、想いを一つに強くすることで、他人事が自分事になります」(山岡氏)

ブランド設計の初期段階から、「世界観」や「人格」を議論し尽くす。育成期においても、どのようなイメージを獲得すれば「ゴール」と言えるのか、その目線を徹底的に合わせる。この「共感」のプロセスこそが、チームが一丸となって取り組むための拠り所となるのだという。
次に重要なのが、「全員がフラットな関係でのチーム組成」である。従来の事業部と他部門の「受発注関係」を打破し、社内のみならず社外の代理店やインフルエンサーまでもが一つのチームとして並走する体制を構築した。

さらに、相互理解を深めるためのユニークな試みも行われた。クリエイティブメンバーが研究所を訪れ、研究の裏側にある苦労や想いに触れる。逆に研究メンバーが広告の撮影現場に立ち会い、どのような思いでメッセージが作られているかを肌で感じる、という体験だ。
このように、各所で情報の分断が起きないよう、物理的・心理的な距離を縮める工夫を凝らすことで、チーム全体に強い一体感が醸成されていったという。
「お互いの情報の理解レベルを合わせていくことが、質の高い自走に繋がっていきました」(山岡氏)
