メディア投資の「成果」をどう測り、社内を通すか
サイバーセキュリティークラウドでマーケティングの立ち上げやBizOpsを担ってきた井田氏は「投資対効果などを踏まえて上申しないと承認されない」という経験を踏まえ、成果とKPIをどのように捉えているか尋ねた。
企業イメージを作るというコーポレートコミュニケーションは指標の設定も難しい。そう宮下氏は悩みを共有したうえで、「認知(社名認知)「興味(業容認知)」「理解(相談意向)」の3つに対し、施策前後でどれだけリフトしているかを追っていると語る。
2024年に大きく2回のキャンペーンを実施。社名認知率が10%以上向上するという着実な成果を示した。一方で、キャンペーンとキャンペーンの間には認知度の下降も確認。継続的な取り組みの重要性を強く感じたと宮下氏は振り返る。
一方、SPACECOOLの宝珠山氏は、「メディアに載ったという事実」そのものを成果と定義した。広告会社の経営を経験した宝珠山氏は「ここに使えば効果が出る」という勘所を理解しているが、スタートアップの予算は限られている。
まずテレビのタイアップで「面白い素材」としてアイコニックに取り上げられたことをきっかけに、パブリシティでのメディア露出を増やし、販売店や導入企業にとっての強力な信頼の証とした。2023年段階では20社だった販売店が約150社に広がり、導入も現在、国内外1万以上という事業成長を実現している。
井田氏がテレビへの投資という意思決定が実現できた背景を尋ねると、当時、宝珠山氏が社長兼宣伝部長を務めていたからできた判断との答えが返ってきた。出稿の打ち合わせから、審査の手続き、撮影時の配車など、準備はすべて宝珠山氏が行ったという。少数精鋭かつスピーディーな判断が可能なフェーズだからこそ採れる大胆な戦略だといえる。
信頼を積み上げる「チャネル選択」と素材ブランディング
SPACECOOLのテレビへの一点集中の投資と、キヤノンマーケティングジャパンの分散型の投資。それぞれ違いが明確だ。井田氏は各社にメディア選択の考え方を尋ねた。
キヤノンマーケティングジャパンは年代別に強いメディアをミックスさせ、接点を増やす戦略を採っている。たとえば、20~30代の若年層ならデジタルを中心に屋外広告を組み合わせながら、40~50代はテレビや新聞を中心に組み立てていく。
また、誰に届けるかも重要だ。採用活動の施策の場合、当事者である若年層だけを考えがちだ。しかし、親が知らない企業は内定をもらっても辞退するケースがある。いわゆる「オヤカク(親の確認)」対策として、親世代にリーチできるテレビや新聞の活用も必須だ。
加えて宮下氏は「KPIごとに貢献度の高い媒体を選び、効果を最大化させる組み合わせを意識」していると語る。たとえば、名称認知への貢献度が最も高いのはテレビCM、業容認知度は新聞広告、相談意向はデジタル広告と得意分野が異なるため、メディアの良し悪しではなく、それぞれの特性を鑑みながらリーチの幅を広げることが大切である。
「『テレビでも、タクシーでも見たな』という形で、何かを目にした時に頭の中で当社が繋がっていくような、重複接触を意識したマルチメディア展開を行っています」(宮下氏)
SPACECOOLは、エンドユーザーだけでなくメディア関係者をターゲットにした独自の戦略を展開している。情報を探している番組構成作家やライター、編集者といったメディア制作者に「ネタ」を届けるにはどうするか?という視点だ。
「日経の記事や番組を最も見ているのは、他でもないメディア関係者です。そこに情報を提供することで次々と取り上げてもらえる連鎖を狙いました」(宝珠山氏)
有力メディアに出たという実績を作って制作側にネタを提供し、タイアップからパブリシティへいかにつなげる。このメディアの広がりをPR担当とともに意識して展開しているという。
加えて、同社は大阪・関西万博への技術提供や、一般消費者に向けて、世界一の遮熱性能を誇る「日傘」の販売といったBtoC接点での取り組みも実施している。大規模な公的プロジェクトでの活用実績を目の当たりにしたり、ユーザーが実際に素材に触れて「冷たい」という驚きを直接体験したりできる場を作ることで、理屈ではなく直感的に技術を信頼してもらう工夫をしているのだ。
「BtoCでの素材ブランディングを通して社会に広げるとともに、『(日傘で)これだけ効くなら、うちのビジネスにも効くだろう』とBtoBでの拡大につなげていきたいと考えています」(宝珠山氏)
