店舗現場の不安を解消してスタッフを主役に変えた取り組み
OMO推進にあたって避けて通れないのが、店舗スタッフを巻き込む難しさだ。アプリ導入の打ち出しに対して、現場からは当初戸惑いや不安の声が上がった。対面接客の中にアプリ案内という新たなステップが加わることへの抵抗感は、多くの企業が直面する「OMOの壁あるある」といえる。
山地氏はその解消策として、一方的なチャットや資料送付ではなく直接店舗に足を運ぶことを徹底したという。
「アプリのローンチ前は本部では拾える購入履歴が拾えないといった店舗側での課題もありました。そのため、アプリをローンチすることでお客様とのタッチポイントがどう増えていくか、それによって店舗にどんなメリットがあるのかをわかりやすく資料にまとめたり、接客で実際に使っていただけるフローチャートを作成したりして共有しました」(山地氏)
事前にトラブルや疑問点を解消したことで、最終的には店舗スタッフ側から「今後アプリでこんなことをしてみたい」という前向きな要望が出るようになった。スタッフが得意とする写真撮影を活かして、コーディネートや商品情報をアプリから定期的に発信する取り組みも始まっている。
「アプリでは、キャンペーンやセール情報よりも、店舗スタッフが傘を用いたコーデ提案を発信するコンテンツのほうがユーザーの興味関心が高いという結果が出ました。アプリユーザーは傘をファッションアイテムと捉える感度の高い方が多いからこそ、こういった取り組みが店舗フォロー率の70%アップという結果につながったと考えています」(山地氏)
店舗フォロー率の向上は、アプリが“会員証の代替”にとどまらず、スタッフとお客様をつなぐ“メディア”へと進化した証左である。
さらにダッシュボード分析を通じ、駅直結の店舗では「雨の日に傘を持っていない来店客がそのまま購入する確率が高い」という行動パターンも発見。今後は気象データと連動したプッシュ通知で潜在的な購買需要にタイムリーにリーチする施策も検討しているという。
アプリ限定コンテンツで予想外の気づきを得る
アプリユーザーとのつながりを強化した施策はこれだけではない。ロイヤリティ向上施策として2025年7月に公開したのが、アプリ限定の「相棒傘診断」コンテンツだ。設問に直感的に回答していくとユーザーにぴったりの傘が提案され、そのままECで購入できる導線が設計されている。
Webサイトには置かず「アプリ内でしか診断できない」設計にしたことで、「診断したいからアプリを入れる」という強いダウンロード動機を生み出す狙いもあった。
相棒傘診断を通じたアプリ内ストアへの遷移数は実施期間中900件以上にのぼり、通常1分未満だったアプリ内の平均滞在時間が5分以上へと大幅に延びた。1万ダウンロード突破を記念した「ポイント山分けガチャ」も好評を博し、当初想定されていた予定日よりも早くにキャンペーンにおける当たり条件を満たして終了したほどだ。
さらに、診断データから得られた顧客インサイトも興味深い。若年層向けのコンテンツとして設計していたにもかかわらず、実際の利用が多かったのは40代や50代。カラーの好みについても「若年層にはカラフルな傘が響くはず」という想定に反し、選ばれたのはオフホワイトやベージュなど落ち着きのあるカラーが多数を占めていたという。
この取り組みについて鯨岡氏はこう評価する。
「これらのことは普通にアンケートをお願いしてもなかなか得づらい情報だと思います。『診断コンテンツ』という形でユーザーにも楽しんでもらいながら、貴重な顧客インサイトを取得できた今回の取り組みは、非常に興味深いです」(鯨岡氏)
このデータをもとに、オンラインストアのカラー絞り込み機能の強化に即座に着手。コンテンツが滞在時間を延ばすだけでなく、次のUX改善の設計図にもなった事例といえる。

