「パレートの法則」:20%の顧客が80%の利益を作る
西口:先ほどの「価値のダブルインパクト」は私のオリジナルのフレームワークですが、ほかに3つ、念頭に置いておくと役立つビジネスの経験則を紹介したいと思います。いずれも、違う観点で「ロイヤル顧客」の重要性を示しています。
まず一つ目は「パレートの法則」です。
MZ:「80:20の法則」として有名ですね。マーケティングではどう解釈できるのでしょうか?
西口:多くの事業において、全顧客の上位約20%にあたるロイヤル顧客が、売上や利益の約80%を生み出していると解釈できます。これは、すべての顧客を平等に扱うことが、必ずしも正解ではないことを示しています。
MZ:2割の人が8割を支えていると捉えると、その2割の方々を深く理解することがいかに大事かわかりますね。
西口:その通りです。全体の平均値で顧客を捉えるのではなく、この20%の方々が「なぜ、自社のプロダクトに高い価値を見出しているのか」を解き明かす。そのために、前述の顧客分類や私の書籍『ビジネスの結果が変わるN1分析』(日本実業出版社)などで解説している「N1分析」が役立ちます。そして、なぜ選ぶのか=便益と、なぜ他を選ばないのか=独自性を強化することが、事業を安定させる近道です。
MZ:逆に、残りの8割を無視していいわけではありませんよね?
西口:もちろんです。しかし、限られた予算や時間という資源をどこに集中させるべきかという判断基準として、この法則は非常に有効です。たとえば、幅広い層へのアンケート調査はときに有効ですが、利益に貢献しない80%の人の意見が多くなってしまうので、それに振り回されないようにすることもポイントです。
「1:5の法則」:新規獲得には、既存維持の5倍のコストがかかる
MZ:2つ目の法則は、何でしょうか?
西口:「1:5の法則」といって、新しく1人の顧客を連れてくるコスト(CAC)は、既に一度買ってくださった既存顧客に買い続けてもらうコストの5倍かかる、というものです。
MZ:5倍も違うのですか!
西口:業種によっては、それ以上の差が出ることもあります。新規顧客は、まだ商品理解が浅かったり、不信感を持っていたりします。それを払拭して購入に至ってもらうには、多額の広告費やキャンペーン、説明の手間が必要です。一方、既に価値を認めてくれている既存顧客には、そこまでのコストはかかりません。
MZ:そう考えると、既存顧客が1人離反することは、5人の新規獲得の失敗と同等の損失になってしまうのですね。
西口:まさにその通りです。マーケティングの成果を語るとき、どうしても「新規で何人取ったか」が華やかに見えます。しかし、裏側で既存顧客が同じ数だけ離反していたら、事業としての実質的な成長はゼロです。それどころか、高い獲得コストだけが積み上がり、利益率は悪化していきます。
MZ:新任マーケターが、上司から「もっと新規獲得を」と言われたときに持っておくべき視点ですね。
西口:そうですね。新規獲得とリテンション(既存顧客の維持/CRM)は、部署が分かれていることも多いので、情報共有や連携が難しい面もあるかもしれません。ですが、新規獲得だけでなく、離反防止の効率性もデータを添えて提示できれば、マーケターとしての視座が一段上がるでしょう。
