定量調査で「勝てる市場か」確認し、ソーシャルリスニングで勝ち筋を探す
──具体的に、どういった調査結果だったのでしょうか?
まず、世の中の文脈において自社・競合商品がどれくらい想起・着用されているのかに加え、その満足度を調査しました。
その結果、夏の暑さ対策として衣類を想起する人は8割で、中でもインナーの利用率は7割と高い傾向にあることがわかりました。しかし、市場にCOOLやDRYを謳う機能性インナーが多く存在するも、それらに対する生活者の満足度は約4割と低く、新たな機能性インナーに期待が寄せられていることが判明しました。
この調査から、「この市場には、まだ満たされていない『未充足ニーズ』があり、勝ち目がある」と判断できました。そこで次に、生活者が「何に満足していないのか」をソーシャルリスニングから探ることにしました。
──実際、どのように進めたのですか。
当初はテキストマイニングツールを導入したのですが、肝心の文脈までは読み取れず早々に断念し、目視でゴリゴリと分析しました(現在は「Grok」を活用)。見ているのは「自社レビューのポジティブな部分」と「他社レビューのネガティブな部分」の差分です。この差分にこそ、自社が解くべき余白が残っています。
──目視で行うのは、大変ではないですか?
競合プレイヤーが少ない領域なので、運用の型化さえできれば大変ではありませんでした。工数よりも課題だったのは、チーム内のマインドセットを変えることです。
ソーシャルリスニングの本質は、「生活者の言葉」から真のペインを見つけること。にもかかわらず、自社で長年使ってきた訴求文言、たとえば「フィット感」「爽やか」などに、どうしても目がいってしまうんですよ。キーワードの抽出ではなく、コンテキストの読み取りに集中する。この発想の切り替えこそが、真のペインを掘り当てる前提条件でした。
真のペインは「生々しい言葉」と「動⇒静/寒⇔暖」のモーメントに宿る
──具体的にどのようなペインを見つけ、それをどう訴求に落とし込んだのでしょうか。
実際に生活者自身の言葉で語られていたのは、「大汗で決壊」や「お尻、下半身のアセ」、そして何より「汗が残ってベタつく」という生々しい不快感でした。メーカーが長年訴求してきた「ドライ」「冷感」「速乾」とは、明らかに違う言葉だったのです。見つけたペインに対して、「汗のベタつきをなくす」価値を提供すると決め、それを生活者に直感的に伝わるよう表現に落とし込みました。
そして生まれたのが、汗が消え去る様子を表すネーミング「アセドロン」とロゴ、「ベタつき、瞬時にどこへやら」というストレートなキャッチコピーです。
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──このアプローチは、ブランド構造そのものにも独自性をもたらしているそうですね。
多くの機能性ブランドは、まず商品ジャンルがあって、そこに機能を複数後付けする構造です。アセドロンは逆で、機能を最上位に置いてブランド化し、瞬時に伝わるロゴと親しみがわくようなネーミングを行いました。統一された機能性のもとで多品種のアイテムが展開されているため、選びやすさ・機能認知・体験認知の浸透スピードが格段に向上したと思います。
──マーケティング施策はどういった工夫をしていますか?
まだ、今使っているインナーの不快感に気づいていない潜在層に対しては、医師の問診のように「その汗ドロンしない?」「その発熱インナー、アセで冷えません?」と問いかけることで、生活者に「確かにそうかも」という気づき(発火点)を与えています。
そして、モーメントの設計も重要です。発火点になるのが、夏の場合「動⇒静」の瞬間です。汗をかきながら歩いていた人が立ち止まったその瞬間、周囲が一気に無風になる。止めどなく流れ落ちる汗と、乾かずに体に張り付くインナー。アセドロンが解くべきペインは、まずこの瞬間にありました。
冬は「寒⇔暖」の切り替わりの瞬間。発熱インナーで暖かく家を出て、電車の暖房でじんわり汗をかき、乾かないまま降車する。外を歩き出した瞬間に、その汗が冷えて体温を奪う。「汗冷え」のペインに焦点を当てた「冬のアセドロン」が応えるのは、こうした瞬間です。「夏は暑い、冬は寒い」という当たり前の感覚に、「汗」というファクターを重ねることで、不快が立ち上がる瞬間を捉え直しました。
「2年目の壁」を越えた、賞レース戦略とUGC施策
──新ブランドの多くが、2年目に売上の伸び悩みや話題性の鈍化、競合企業の追従による「2年目のジンクス」に直面します。アセドロンは、その壁をどう乗り越えたのでしょうか?
1年目は新しさで注目を集められますが、2年目以降は同じやり方では勢いを維持できません。アセドロンの場合、クリエイティブ・コミュニケーション・商品開発の3つの軸で打ち手を仕込んでいきました。
クリエイティブ:賞レースのエンブレムで権威性・社会性を醸成
受賞したアワードのエンブレムを、積極的に活用。受賞実績は、権威性や社会性を生活者に伝える上で非常に効きます。実は1年目から、売上などの数値目標と並行し、「チームの熱量設計」を大切にしたいと考え、実数の露出によるヒット感を醸成し、賞レースの獲得を目指してきました。2年目は「メディアプロモート」を追加アクションに加え、ファクトブックやプロフィールシートを作成し、メディアリレーションにも力を入れています。
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コミュニケーション:問いかけのコピーで、潜在層に届ける
2年目の夏には、UGCを引き出す仕掛けとして「アセ、ドロンしたい瞬間教えてキャンペーン」を展開しました。1年目はメディア協力もあって、オーガニックな発話がたくさん得られました。2年目はこちらから投げかけることで「モーメント」に気づきを与えるような発話を促しました。集まったモーメントをクリエイティブに反映してアップデートし、次シーズンのコミュニケーション材料として循環させていく構造になっています。
商品展開:「大アセ」「足アセ」「ブラアセ」「寝アセ」
ソーシャルリスニングにより、商品要望に関する発話が多数得られたので、表面化した期待に応えていく判断をしました。「大アセ」「足アセ」「ブラアセ」「寝アセ」など、概ね「ドロン」で接続できるラインアップで整理・強化しています。シーズンごとにブランドミーティングを開いて、「こういう声が出ています」「これやらないとダメじゃないですか」と、商品企画開発チームに次の打ち手を共有しています。
