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副都心線、開業即大混乱の隠れた原因とそこから学べること

2008年6月16日23時 小竹向原駅にて

 東京メトロ小竹向原駅3番ホームに「和光市」と方向表示幕をつけて、東武東上線方面に帰途の乗客を満載した西武鉄道の車両が入ってくる。2008年6月16日月曜日、終電もほど近い23時ごろの風景である。14日に鳴り物入りで開業した東京メトロ副都心線にとって16日ははじめての平日運行だったが、朝のラッシュアワーで発生したダイヤの乱れが終日収束しないまま夜を迎えていた。

大幅にダイヤが乱れ、ホームで待ちぼうけするサラリーマンたち

 ところで、副都心線は西武池袋線と東武東上線の2つの私鉄線に乗り入れていることが特徴の1つであり、小竹向原駅はその接続乗換駅となっている。3番ホームからは主に西武池袋線方面の電車が発着するホームなのだが、そこに到着した和光市行きの電車は果たして方向表示幕がくるくると回って清瀬行きとなり、和光市まで行く乗客は降ろされてしまう。

 この電車で和光市まで行けるものだと思っていたほとんどの乗客が降りてきて、向かいの4番ホームに集まる。降りるや否や駅員に罵声を浴びせる数人の乗客。「お前らなんか全員やめちまえ!」。それを遠巻きに苦笑しながら見つめる疲れた足どりのサラリーマン。明らかにこの駅に到着するまでにも紆余曲折があったことがうかがえる。

 そこに到着した本当の和光市行き。しかしタイミングの悪いことは重なるもので、こういうときに限ってやってきたのは短い8両編成の電車【注1】。先に来ていたのは10両編成。先頭の2両分の乗客が慌てて後ろの乗降口に走る。かくして10両分の乗客を乗せた8両編成の東京メトロ7000系(テレビによく映る丸っこい先頭車両の10000系ではないほう)は、和光市に向けて出発していった。

 

 【注1】8両編成の電車が混じっているのは、4年後に副都心線に乗り入れる予定の東急東横線の各駅停車が8両編成のためだ。つまり今回の乗り入れだけでなく将来の乗り入れにも不安を残している

 

日記やブログで不満をあらわにする利用者たち

 16日の副都心線およびそれに乗り入れて運行している路線は終日このような状態だったようで、新聞やテレビなどマスコミが大きく取り上げただけでなく、ネットでもブログや日記で利用者が怒りと呆れた声をあげていた。mixiニュースの「副都心線 操作に不慣れで遅れ(毎日新聞)」という16日14時に公開されたニュース記事には、翌17日朝の時点で270件を超える「このニュースに関する日記」が付き、16日のキーワードランキングでも「副都心線」337ポイントで4位に入っている。

 そこで見られる公開日記では、ある人はホームで30分以上電車を待ったといい、ようやく乗れた電車は5分で着くはずのところを何度も停車して30分以上かかり、ようやく着いた駅では乗り換えの電車がいつ来るのかわからない。そして次に来る電車が西武線乗り入れなのか東武線方面なのかわからないと不満を述べている。電車が遅れることそのものより、次に来る電車が何なのかそして自分はいつ帰れるのか、その予測すら立たないことにいら立っている姿がうかがえた。

 そして怒りの日記を書いている人のほとんどが副都心線の利用者ではなく、同じく西武池袋線と東武東上線が乗り入れている東京メトロ有楽町線を利用する通勤客だということが、今回の事件では注目しなければならないポイントだ。あるmixi日記に紹介されていた駅伝言板には、「新木場増やせ」「副都心線いらない」「マジ消えろ」「副都心線廃止」といった言葉が躍っている。これはいったいどういうことなのか。

2私鉄×2地下鉄がそれぞれ相互乗り入れする複雑さ

 副都心線開通にあたっては、埼玉方面の2私鉄から新宿や渋谷に直通することが大きく取り上げられ、集客アップを狙う新宿の百貨店と通過駅化を恐れる池袋という対比ばかりが事前の報道で強調されすぎていたきらいがある。そういう報道だけを見ていると、まったく新しい乗り入れ路線のように思ってしまいそうだ。

 しかし東武東上線と池袋線への直通乗り入れは、東京メトロ有楽町線がすでに何年も前から実施しており、池袋から郊外へ3駅目にある先ほども紹介した小竹向原駅が分岐駅となって、Yの字型に乗り入れが行われていた。そこに新たに副都心線が加わって、小竹向原を交点とするXの字型に接続するようになったというのが実際の形なのだ。

 路線図を見ると地下鉄の有楽町線と副都心線は小竹向原から池袋まで複々線の並行運転をしているので、一見すると池袋が中心の乗換駅のように思うかもしれないが、池袋駅の有楽町線と副都心線のホームは離れており、改札を出ないと乗り換えることができない(むしろ副都心線には丸ノ内線への乗り換え階段はある)。有楽町線と副都心線が、また西武池袋線と東武東上線が向かい合わせのホームで乗り換えられるのは、小竹向原だけなのである。

副都心線の路線図(東京メトロのHPより転載)

 しかも小竹向原を中心として、北へ向かう2私鉄【注2】と、南へ向かう地下鉄×2路線が、それぞれ相互に乗り入れを行っている。これが問題を複雑にしている。

 通常、路線がXの字型になっているなら、乗り換え駅では単に交差しているか並行しているかだろう。しかし小竹向原駅では、東武東上線和光市方面から有楽町線で新木場に行く電車もあれば、同じ和光市方面から副都心線を経由して渋谷に行く電車もある。同様に西武池袋線から渋谷に乗り入れる電車もあれば、西武池袋線から新木場に向かう電車もある。つまり交差もしてるし並行もしている。

 そういう路線で今回のようにダイヤがいったん乱れてしまうと、次に渋谷から来る電車が東武線方面に行くのか西武線に乗り入れるのかは、来てみないとわからない。ネットを通して見られる利用者の声には、「次に来る電車がどこ行きかわからない」ことからくる不安感が少なからず見られた。

 鉄道ダイヤが混乱しているときに足かせになるのは、車両のやりくりである。渋谷駅のような折り返し駅では、次の電車が到着しなければ、反対方面行きを発車させることはできない。逆に到着した電車があれば、発車させなければ次の電車を受け入れることができない。では東武方面と西武乗り入れ、どちらを先に発車させればよいのか。また和光市行きとして走らせていた電車が西武線乗り入れに変更されて、乗客が途中で降ろされるという冒頭のようなことだっておきる。ただでさえ慣れていない副都心線を含めて、2私鉄×2地下鉄の合計4パターンの乗り入れ運用があるため問題を複雑にしているのではないだろうか。

 

 【注2】正確には小竹向原から和光市までは東京メトロ線なのだが、ここでは便宜上その先の乗り入れを行っている東武鉄道と同一に考えることにする

 

複雑な開業事情と設定ターゲット

 そういったことを考えると、運用パターンをもっと単純にしてしまったほうが、よかったのではないかという気もする。本数的にみても、東武東上線方面から有楽町線へ乗り入れる通勤通学の利用客が多く、交通の動脈として機能している。だからまずこの東武線+有楽町を固定させ、歴史的にもあとから追加された西武線+副都心線と完全に分離して運用するということが考えられる。

 しかし単純に「東武線+有楽町線」と「西武線+副都心線」に完全分離できない、歴史的な経緯も存在する。副都心線が建設期間中は「東京13号線」と呼ばれていたことを覚えている方もいるだろうが、有楽町線も計画時点では「東京8号線」という名前だった。【注3】

 ここで複雑なのは、東京8号線は練馬方面からの西武線乗り入れを前提に小竹向原を起点として新木場までであり、東京13号線は東武方面から小竹向原を経由して新宿渋谷へ向かう路線として計画されている。つまり和光市~小竹向原は有楽町線ではなく、そもそも新都心線の一部だったはずなのだ。しかし建設の都合で、この部分だけが21年も早く1987年に開通。すでに開業していた有楽町線の一部として運用され、東武線東上線沿線から都心部への乗り入れ線として活躍してきた。

 この路線を利用する既存ユーザーの大半はおそらく東武東上線から都心部への通勤通学客だろう。彼らにとって、今回の新線開通はサービス低下にほかならない。副都心線開通では、新宿渋谷への乗り入れという話題ばかりが先行し、どの町も消費者を引き寄せようとしていたが、その一方で通勤通学客という既存の巨大な顧客が見えにくくなっていた面はなかっただろうか。

 事業の拡大によって新たな顧客やイメージを狙うことはよくあることだろう。しかしそのために既存顧客へのサービスが低下してしまうことはないか。そういった視点から、今回の新線開業騒動をとらえることもまたできるのではないだろうか。

 

 【注3】ちなみに東京の地下鉄で副都心線のひとつ前に開通した「大江戸線」は建設時には「東京12号線」と呼ばれていた

 

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MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

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MarkeZine(マーケジン)
2008/07/14 18:23 https://markezine.jp/article/detail/4124

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