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MarkeZine Day Premium 2010レポート

なぜiPhoneをつくれなかったのか? 日本企業が抱えるマーケティング上の問題とは【MarkeZine Day Premium 2010】

『定義無し・現場主導・属人的』日本企業の問題点

 まず1つ目の問題点。「マーケティング」と一口に言われるが、その定義が企業によってバラバラになっていることだ。ただ、多くの企業ではマーケティング部門には「事業部門を支援する」ことが求められている。よって、その役割は広告などの販売戦略に限定されがち。マーケティング部門が事業部門の下請けになってしまっているのだという。

 「今の企業は、市場・顧客に基づいてビジネスを考えないといけない。マーケティングがビジネスそのもの。根幹を担わないといけないのに、下請けになってしまっているのです」

 しかも、事業部門の側もマーケティング部門が下請けになっている現状を好ましく思っているわけではない。神岡教授がメーカーの現場でヒアリングしてみた結果、マーケティング部門から市場・顧客の情報を流してほしいのに、情報が届かず、どんな製品を作ればよいのだろうかと頭を抱えてしまっていることが明らかになったという。

 そんな課題を抱え、日本企業は自然と“現場マーケティング”というスタイルを生み出すことになった。

 「決して否定的な意味では無いので誤解しないでほしいのですが、日本の現場マーケティングが海外のトップクラスのマーケティングに負けているわけではありません。いろいろなマーケティングの施策を見ても、質的には劣っている気がしないのです」

 現場担当者が柔軟に市場・顧客の情報を収集し、自らの判断で必要な行動を取る。そのスタイルは国内の市場に限っては、日本企業の強みにもなってきたという。

 ただ、それぞれの現場では負けていなくても、現場マーケティングだけしか行われていない日本企業では、組織の中で横のつながりが育ちにくく、マネジメント層にも報告が上がりにくい。

 従って、現場マーケティングだけに頼っていると、固定された現場目線でしか市場・顧客が見えなくなってくる。そして、短期間でコロコロと変化する市場・顧客の声を真摯に受け止めすぎると、商品を次から次へと無闇に生み出してしまうことにつながりかねない。すると、何百~何千という商品が誕生することになり、ニッチなマーケットだけを相手にビジネスをすることになるという弊害が生まれてしまう。

 神岡教授が最後に挙げたのは、日本企業のマーケティングが属人的になってしまっているという問題。日本企業では組織的にマーケティングに取り組めていないため、個人のパフォーマンスに頼ってしまいがち。1人の有能なマーケッターが難局を打開してくれる可能性は否定できないものの、1人に頼ってしまっていては企業として一定水準以上のパフォーマンスを安定的に発揮しづらい。組織に蓄えられているノウハウに従って、良くも悪くも金太郎飴のようにパフォーマンスを発揮できる海外企業と比べると、どうしても波ができてしまうことになる。

マーケティングのマネジメントとフレームワークを浸透させ、次世代型の企業組織に

 日本企業が抱えるそうした問題を解決するためにはどうすれば良いのだろうか。神岡教授は「答えは1つではなく、厳密には個別の議論になる」と補足はしているものの、“マーケティング・マネジメント”“マーケティング・フレームワーク”の2つの概念がカギになるとした。

 “マーケティング・マネジメント”とは、個々のマーケティング活動に目を向けるのではなく、マーケティングの戦略立案と、戦略を実現するために行うマーケティング活動のマネジメントに力を注ぐこと。

 「社長など、上の肩書きであればあるほどマーケティング・マネジメントの要素が必要で、下に行けば行くほど現場マーケティングの要素が必要。ただ、現場マーケティングを企業として本当に機能させていくためには、マーケティング・マネジメントが機能していないとダメ」と神岡教授。

 しかも、マーケティング・マネジメントは個人レベルで行うものではなく、企業規模で取り組むべきもの。神岡教授は、この考え方を“エンタープライズ・マーケティングマネジメント”と呼んでいる。横串で事業部横断的に機能させ、トップのマネジメント層が率先して取り組むことで、初めて“小さな足し算”ではなく、“掛け算以上の構造変化”に対応できる企業へと変質できるのだという。

 そして、“マーケティング・フレームワーク”をつくり、システマチックに機能するように社内を整備すること。

 具体的には、責任・役割を明確にした上で最高マーケティング責任者(CMO)のような職務を設け、組織内でのレポートの流れ・意志決定権の所在を明確にするガバナンスを徹底させて、情報システムと一緒にプロセスや戦略を標準化し、基盤となるキャリアパスなどの仕組みを整える――。そうすることで企業経営者をはじめ、企業全体で「市場・顧客がどうなっているか」が初めて分かるようになり、「iPhoneやiPadが市場・顧客に必要とされているのか」と判断ができるようになるという。

 「アップルのように、潜在化しているのか、顕在化しているのか、分からないニーズをどうやってつかまえてくるのか。現場だけでは不十分なので、マーケティングをマネジメントする仕組みが必要になるのです」とまとめた神岡教授。

 グローバルに戦っていけるマーケティング組織を整えるには、本社はマネジメントに特化して、個々のマーケティングや意志決定はローカル単位で任せること。ただし、その体制に移行するのは、ローカルごとの対処を考える上での拠り所となるフレームワークを整えておいてからのことだ。

 それこそがパフォーマンスを発揮できる次世代型の企業組織なのだと神岡教授は講演を締めくくった。

MarkeZine Day Premium 2010でのSAS Institute Japanによるセッション『ソーシャル・メディア時代を勝ち抜く、ビジネス・アナリティクス - 分析を武器とするマーケティング』の講演資料を無料公開中。【ダウンロードはこちらからどうぞ】

本講演登壇者の神岡太郎教授にもインタビューを行った、MarkeZine編集部作成のスペシャルPDFコンテンツ『データ分析最前線』も無料公開中です。ぜひご一読ください。

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この記事の著者

中嶋 嘉祐(ナカジマ ヨシヒロ)

ベンチャー2社で事業責任者として上場に向けて貢献するも、ライブドアショック・リーマンショックで未遂に終わる。現在はフリーの事業立ち上げ屋。副業はライター。現在は、MONOistキャリアフォーラム、MONOist転職の編集業務などを手掛けている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2011/01/20 11:00 https://markezine.jp/article/detail/13012

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