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『広告ビジネス次の10年』刊行記念コンテンツ

【横山×戸井対談】メディアの価値を深く理解したプランニングを/『広告ビジネス次の10年』立ち読みコンテンツ

 メディアと広告代理店は今後どのような協力関係を築いていけばよいのだろうか。日経電子版の広告セールスプランニングと日本経済新聞社のデジタル事業推進を担当する、日本経済新聞社 デジタルビジネス局 プロデューサー(対談収録時)戸井 精一郎氏に横山隆治氏が聞いた(この記事は『広告ビジネス次の10年』からの転載記事です)。

わかりやすい「売り方」から抜け落ちたメディアの価値

横山:『広告ビジネス次の10年』では、かなり厳しい言い方ですが、広告代理店で昔流の仕事のやり方をしている8割の人が職を失うのではないか、と提示しています。その中には、戸井さんがメディア側の人として接してこられたメディアマンも含まれますが、メディアの情報や顧客データなど、かつて広告代理店が情報優位に立っていられた環境が変わりつつありますよね。特に顧客データに関しては、テクノロジーの発展によってメディア側も広告主側も膨大な情報を入手できるようになっています。

 だから広告代理店のメディアマンもそれを加味して、リーチできるユーザーの「質」に注目した思考を持ってプランニングしないといけないのではないか。そう変わるべきときにきているのでは、と考えているのですが、特に付加価値の高いユーザー(読者)をお持ちの日経でのご経験を踏まえて、戸井さんは現状に対していまどのような見解をお持ちですか?

戸井:おっしゃる通り、ユーザーの質は当社でも非常に重視しており、それが競合メディアに対しての大きな差異化要因になると考えています。

 もっとも象徴的な取り組みが、現在300万件にのぼる日経IDの発行によるユーザーデータベースの一元管理です。日経電子版の取り組みに端を発する部分が大きいですが、取得できるユーザープロフィールやログデータを活かして、単なるインプレッションやクリック数ではない指標を持って当社のメディアの価値を広告主に提供できないか、模索しているところです。

 日経IDの取り組みについては後ほどまた触れさせていただくとして、現状をどう見ているか、という点からお話しすると、まずは多くのメディアにおいて、デジタルの発展の一方で残念ながら既存の紙メディア市場は縮小傾向です。とはいえ、デジタル領域の売上が紙の分を補完しているかというとそうではなく、全体としても何とか持ちこたえているという状況です。

 広告代理店の方もメディアの方も皆さん痛感しているかと思いますが、効果測定が容易になったことで、既存の広告に対する広告主の目が非常に厳しくなりました。加えて従来型メディアは、ネットを中心に次々と登場する新しいメディアとも戦っていかなければいけない。ですが、これもかなり押され気味です。

 これらは言ってみれば、既存メディア側がきちんと対応してこなかったことが原因だと考えています。いま、広告主の方がどんどん勉強し進化して、たくさんのデータを持つようになっています。交渉相手の方が詳しい領域では、当然ながら不利になりますよね。

横山:その点では、間に入っている広告代理店にも問題があったのでしょうね。

戸井:そうかもしれません。端的な例が、クリック単価での評価です。もちろんクリック単価で売るのが適した刈り取り型のメディアもあるでしょうが、それと需要創造型のメディアを一緒くたにしてやってきたのが問題だったと思います。

 メディア側は、もっと自分たちの付加価値を明確にする努力をすべきでした。デジタルの拡大についていけないメディアと、マーケティング知識の浅いネット広告代理店の悪い相乗効果で、クリック単価やインプレッション単価といったわかりやすい売り方に流れてしまったのです。

デジタルインテリジェンス 代表取締役 横山隆治氏(写真右)
日本経済新聞社 デジタルビジネス局 プロデューサー(対談収録時)戸井 精一郎氏(写真左)
デジタルインテリジェンス 代表取締役 横山隆治氏(写真右) 日本経済新聞社 デジタルビジネス局 プロデューサー(対談収録時) 戸井 精一郎氏(写真左)

「コスト・パー・認知」でメディアの価値を評価する

横山:でも、それだけではメディアの価値は測れないのは明らかですよね。

戸井:ええ。日経グループでは昔から「ページバリュー」という考え方を提唱し、ウェブサイトの価値は規模だけでなく、表示コンテンツと閲覧しているユーザーの質を合わせた三つの軸で考えています。そのため、日本の他のメディアに比べれば広告単価は高い方だと思いますが、海外のビジネス系メディアはもっと高いです。

横山:クリック単価やインプレッション単価で売るべきではないという議論と同時に、それでは売れなくなってきた、という現状もあると思っています。その背景にあるのが、動画の活用です。いま、一部の広告主は「コスト・パー・認知」とも言える認知の獲得に注目し、ネット動画によるブランド認知や態度変容を調査しはじめていますが、それが実はクリックと相関しないことがわかってきたのです。

 WPPが、動画でどうやって認知などが取れるのかをこの2、3年かけてじっくり実験したところ、メディア価値を相対的に高くつけているプレミアムな広告枠と、そうでない広告枠では大きな差があるとはっきりわかったそうです。それでプレミアムな広告枠の購買に躊躇しなくなった。

戸井:動画広告が出てきたことが影響しているというお話は、よくわかります。動画の登場によって、広告主がクリックではなくリーチで選ぶ価値観を持ちはじめました。よく考えれば、これはきわめてまっとうな広告の価値観なのですが。

横山:言われてみれば、確かにネット広告は独自の発展をしてきましたが、ここへきて揺り戻しが起きている印象があります。例えば米国では既に、テレビ広告を補完するものとしてネット動画が定義づけられ、メディアプランニングがされています。もちろん、テレビ広告を放映するような企業にとってネット動画の割合は大きくはないのですが、仮に10%でもテレビではリーチできない層に確実にアプローチできる手段として、使われているのです。

 デバイスを横断してさまざまなユーザーにアプローチするという統合的な視点は、これから日本にも必要になると思います。その全体設計が広告代理店の仕事になっていくのでしょうが、現状では現場レベルだとなかなか難しい。マーケティング責任者となら、上質な顧客の開拓によって需要を創造していくというマーケティング目標にもとづいて話を進められるのに、担当者同士になるとやはり獲得単価の話になってしまうんですね。

戸井:クリック単価や獲得単価で考えるべきメディアと、ブランド認知に活用するメディアの両方を意識してポートフォリオを組んでもらえるといいですね。動画広告でリーチが取れる、テレビ広告を補完するという話になってはじめて、広告の本流の傘の中でデジタルをどう使うか、という思考で考えられるようになってきたと思います。

 ただ、我々だけが「リーチ保証」というような概念を打ち出しても、他社が皆インプレッション保証のままだと広告代理店に扱ってもらえません。そこは、市場と対話しながら進めるべきなのでしょう。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2014/05/01 10:00 https://markezine.jp/article/detail/19858

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