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『広告ビジネス次の10年』刊行記念コンテンツ

勘と経験だけに頼らない。本のタイトル&カバー&内容をA/Bテストした結果は?『広告ビジネス次の10年』制作秘話


 ネットの世界では当たり前に行われている「A/Bテスト」。そのエッセンスを書籍制作にも応用できないものか──。タイトル&カバーデザイン&内容に対して事前に想定購買層へ調査をかけ制作を進行した『広告ビジネス次の10年』の制作舞台裏を紹介します。

本作りにA/Bテストのエッセンスを組み込めないものか?

A/Bテストを通してネット広告のクリエイティブを評価・改善していくように、本のタイトル&カバーデザイン&内容も事前にテストを行い、評価・ブラッシュアップすることができないものだろうか──。

 みなさまこんにちは、MarkeZine編集部 編集長の押久保です。

 MarkeZineの立ち上げ以降、ウェブの仕事にどっぷりだった私。冒頭の一節は、7年ぶりに本作りに関わる機会を得た際にふと頭の中をよぎったアイデアです。

 最初はMarkeZineの会員データを活用して、リサーチのようなことをやってみようかと思いましたが、そもそもリサーチの経験・ノウハウがありませんし、MarkeZineの会員データ≒広告系の本を購入した方々のデータとはいえないので、それだったらあまりやる意味はないのかな、などと悶々としていました。

 そんな折、別件でやり取りをしていたCCC(TSUTAYA)さんが出版社向けに調査サービスを提供されていることを知り、相談したところご協力をいただけることに。本記事では、その過程とそこで得た気づき、結果について紹介していきます。まず進め方ですが、ざっくりいうと以下のような工程で制作を進めていきました。

 調査項目はざっくりわけると「内容」「タイトル」「カバーデザイン」の3つとなり回数は2回行いました。本の作り方は編集者の方々それぞれで千差万別だと思いますが、一般的には「内容」「タイトル」が固まってくる中で「カバーデザイン」の具体的なイメージが固まってくるという順番かと思いますので、1回目「内容」「タイトル」2回目「カバーデザイン」という順番で調査を行いました。それぞれの調査でどんなことをやったのか紹介していきましょう。

どんな内容、タイトルだったら読みたいのだろうか?

調査概要

 内容、タイトルの調査概要は以下のとおりです。

  • 調査目的:新書を企画するにあたって、どのような内容・タイトルが消費者に受け入れられるのかを把握し、新書の販売増加に資するデータを取得する。
  • 調査方法:Tアンケート(WEBアンケート) 13問
  • 調査対象者:調査範囲…全国、調査対象…18歳~89歳 男女(直近1年間で、TSUTAYAでビジネス関連の書籍を購入した方)
  • 調査期間:2014年1月22日~1月27日
  • サンプル数:364サンプル

 性別、年齢、職種は次の通りです。

結果&気づき

 内容・タイトルの調査では13の項目について調査を行いました。その中で私がまず目についた結果が、デジタルマーケティング業界界隈では頻繁に耳にするマーケティング用語やアルファベット3文字用語の認知率、理解度の低さでした。「業界の中」にいると当たり前のように使ってしまいますが、調査の結果からだとこれらの言葉は広告ビジネスに関わっていらっしゃるであろう方々にとっても、まだまだ遠い言葉(理解度が低い言葉)なのかなと感じました。

Q2.あなたは、以下のワードをご存じですか。
それぞれあてはまるものをお選びください(n=364)。
Q2.あなたは、以下のワードをご存じですか。それぞれあてはまるものをお選びください。

 一方、最も気になるのは当然タイトルへの評価です。調査にあたっては以下のようなタイトル案と書籍内容を要約したテキストを準備し調査をかけました。

調査用のタイトル案

『広告の未来』『広告産業のこれから』『ゲームチェンジ~広告ビジネス最前線』『広告ビジネス次の10年』、『広告ビジネス大再編』『デジタル時代の広告ビジネス』『電通、博報堂は生き残れるのか』『広告マンの8割はいらない』『競合はIBM』『生き残る広告マン』『ネットとテレビ~3兆円マーケットで戦う』『ネットで知りテレビで動かす~新しい広告ビジネス』『金脈はデータにあり~テレビ広告の次』『広告業界のシェア争いに勝ち残る為には』『広告業界の真実』『広告業界でリア充を得る為に』

調査用の要約テキスト

マスメディアの弱体化、ネット浸透による生活者の行動多様化、マーケティング領域へのデータ活用推進など、広告ビジネスを取り巻くビジネス環境が劇的に変化しています。このような状況が進む中、広告会社はどのような役割を担うことになり、広告主やメディア企業は広告会社とどのように付き合うべきなのか。本書では広告ビジネスの最前線を解説するとともに、広告会社の生き残り策について具体的に紹介します。

 書籍内容への興味・関心に対して調査をかけた後に、興味関心が高いタイトルはどれか、また書籍内容に合致したタイトルはどれかという順番で回答を促しました。

 原稿の内容からすると、まずつけないだろうというタイトル案をいれているのは、CCCさんからなるべく幅広い案をテストした方がどのテイスト・トーンのタイトルがよいのか、ざっくりとした方向感がつかみやすくなる、とアドバイスをいただいたためです。さて、その結果は以下のとおりです。

書籍内容への興味【Q6.あなたはこの書籍に興味がありますか。n=364】
書籍内容への興味【Q6.あなたはこの書籍に興味がありますか。】
タイトル案への興味・購入意向
【Q7/8.以下のタイトルの書籍が販売されていた場合、
興味がある/手にとってみたいと思うタイトルがあれば教えてください。n=364 】
タイトル案への興味・購入意向【Q7/8.以下のタイトルの書籍が販売されていた場合、興味がある/手にとってみたいと思うタイトルがあれば教えてください。】
タイトル案の書籍内容との合致性
【Q8/9.以下のタイトルの書籍が販売されていた場合、
手にとってみたい/書籍内容にふさわしいと思うタイトルがあれば教えてください。n=364】
タイトル案の書籍内容との合致性【Q8/9.以下のタイトルの書籍が販売されていた場合、手にとってみたい/書籍内容にふさわしいと思うタイトルがあれば教えてください。】
タイトル評価(n=364)
タイトル評価

 調査結果を見た時の率直な印象は「ああ、やっぱりな」という感じでした。

 「広告マンの8割はいらない」というような刺激的なキャッチコピーをつければ恐らく「お!」と思う方々(手にとる方々)は増えるでしょうし、調査用の要約テキストからの印象だと、未来をイメージさせるような言葉がついているものがふさわしいと思う方が多いのでは? と思っていました。

 ただ『広告の未来』や『広告産業のこれから』では、あまりにも漠然としているので「次の10年」など具体的な数字を入れた方が、より「しっくりくる」方が増えるだろうなと予想していました。

 ということで、タイトル調査からの新しい気づきはそれほどありませんでしたが、この結果を見て何がよかったのかというと「方向感は間違ってないっぽいな」という安心感を得られたことだと思います。

 本を作る過程では何度も原稿を見直すため「やっぱりタイトルはこっちに変更した方がいいのではないか」と思い直すケースがあると思います。特に、私のように本作りの経験が少ない場合はなおさらです。

 そういう際に変更すべきかどうかの判断は、まさに「勘と経験だけにもとづいた」判断となってしまいます。仮にガラっと変更した場合にそれが良いのか悪いのかを事前に判断する客観的な材料は少なく、正直、発売後の結果を待つしかありません。加えて、私の場合は絶対にこれだ! と確信できるだけの豊富な経験もありませんので、この安心感を得たことは本書籍に関する編集方針を固める材料となりました。

対策

 著者の横山さん、榮枝さんとも相談し、タイトルは『広告ビジネス次の10年』、帯のメインコピーを『広告マンの8割はいらない』にする方向でわりとすんなりと固まりました。加えて認知率・理解度の低いアルファベット3文字用語は、なるべく少なくしたい意向も伝えました。

 具体的には、仮に本屋さんでぱっと本を開いた瞬間に3文字用語が多いような印象(難しそうな印象)を持っていただきたくなかったのです。

 デジタルマーケティング業界では当たり前のように使われている「DSP」「DMP」「CMO」といった言葉をカタカナで統一したり、なるべくわかりやすい言葉に置き換えましたが、伝えたいメッセージや書き手の個性、特徴を考えるとまったく専門用語を使わないというわけにはいきませんので、目次・見出しと各章の初出のみ三文字用語を使うようにするという方針で落ち着きました。

 例えばDMPであればデータマネジメントプラットフォーム(DMP)という表記にしています。また、それでも難しいと感じる方へのフォローとして巻末に用語集をつけることにしました。

 実は「難しそうな印象をもたせたくない」は、横山さんから送られてきた本書の企画メモを最初に読んだ時から思ってました。デジタルマーケティングという領域にだけ関連した話ではなく、広告ビジネス全般を取り巻く環境に大きな変化が起きている、今はまさにその転換期なのだなということがメモから痛烈に伝わってきたからです。

 データ保有がビジネスを発展させるための重要なファクターとなりつつある中で、どのようにビジネスモデルを転換・再構築すれば持続的な成長を実現できるのか、広告ビジネスに関わる企業にとっては思案のしどころです。それは同時に、その領域で働く方々にとっても「次のスキル」を身につけるべきタイミングだと言えるでしょう。

 そういった思いから、これまで横山さんが執筆されてきたような、デジタルマーケティングに関連する専門書のような印象の内容、タイトル、カバーデザインではなく「広告ビジネス」というくくりの中で、最大公約数の方々に手にしていただけるような方向感で本作りを進めていきたいと考えていました。それを端的に表現すれば、いかに「デジタルマーケティング以外の方々」に本書を届けられるのかが、今回の本作りにおけるポイントだったのです。

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この記事の著者

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア部門 メディア編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2014/09/14 01:17 https://markezine.jp/article/detail/20241

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