「トレンド皆無の時代」に突入? Z世代の消費行動の変化
セッション冒頭、今瀧氏は、マーケティングの前提が大きく変化していることを指摘する。「これまでのマーケティングは、トレンドを追うことで成立していました。しかし、現在は“トレンド皆無の時代”に突入しています」(今瀧氏)

SNSネイティブ世代への企画・マーケティングを専門とするZ世代のヒットメーカー。ハッピーな共感をフックに購買行動につなげる「エモマーケティング」を展開する。著書に『エモ消費』(クロスメディア・パブリッシング)、『Z世代マーケティング見るだけノート』(宝島社)などがある。
かつてのトレンドは、テレビや雑誌などのマスメディアが一方的に流行を作り出していた。しかし、SNSの普及により、トレンドの形成と消費のスピードが劇的に加速し、従来のように長期間にわたって流行が続くことが難しくなった。短期間で急速に拡散し、瞬く間に消えてしまう“花火トレンド”が主流となっている。
今瀧氏によると、この“花火トレンド”には、以下のような特徴がある。
- 寿命が短い:かつては数年単位で続いた流行が、数週間、場合によっては数日で終わる
- 断片的な拡散:従来のトレンドのように、全国的に波及せず、特定のコミュニティーやプラットフォームで局所的に盛り上がる
- 個の影響力が強まる:メディアが発信するのではなく、インフルエンサーや一般ユーザーの投稿がトレンドを生む
- 記憶に残りづらい:様々な媒体と時間帯において同時多発
「Z世代にとって“トレンド”という概念そのものが変化しています。これまでは、企業が作り出したトレンドに乗る形でしたが、今はZ世代自身が流行を作り、消費しています」(今瀧氏)
この変化により、企業のマーケティング手法も見直しが求められている。これまでのように「流行に乗る」だけでは不十分であり、ブランドがコアファンを作り、継続的に関係を構築することが重要になっているのだ。
広告< 口コミ。高まるUGCの影響力
SNSが普及した現代では、ユーザーのリアルな体験が可視化され、それが消費行動に大きな影響を与えるようになった。今瀧氏は「広告は嫌われるもの。しかし、リアルな口コミは信頼されます」と、広告よりもユーザーが作成したコンテンツ(UGC:User Generated Content)の影響が強まっていると強調する。
特にZ世代は広告が自分の時間を邪魔するものだと感じやすい。たとえば、動画の視聴中に挟まれる長い広告は敬遠される傾向が強い。彼らが信用するのは、友人やインフルエンサーが自然に紹介するメッセージである。
「マーケティングの役割は“流行を作る”のではなく、Z世代が自然にシェアしたくなる環境を作ることに変わってきています」と今瀧氏。ただし、Z世代向けのブランドメッセージを発信する際には、「いかにもZ世代向け」とわかる表現を使いすぎると、逆に敬遠されてしまうリスクもあるという。
「たとえば、海外の日本食レストランが“本場の日本の味”を掲げていたとしても、日本人から見ると違和感を覚えることがあります。それと同じように、Z世代に向けたメッセージでも、ターゲットにこびすぎると『本当に理解しているの?』と疑問を持たれることがあるため注意が必要です」(今瀧氏)
このため、企業はZ世代に向けたマーケティングを行う際、「価値観を押し付ける」のではなく、「Z世代が自然と共感できる形でブランドストーリーを伝える」ことが重要になる。