OOHが「実体のあるWeb広告」として存在感を示す
電通グループが2024年12月に公表した「Global Ad Spend Forecasts 2025」によれば、2025年の世界総広告費に占めるデジタル広告比率は62.7%まで伸長する見通しです。同レポートでは、データとAIに支えられたアルゴリズム主導の広告費が2024年時点で59.5%、2027年には79.0%へ達すると予測し、運用型広告のさらなる拡大を見込んでいます。
こうした世界的なデジタルシフトの中でも、屋外広告の売上は堅調です。電通は2025年のOOH成長率を+3.9%と見込み、OAAA発表の最新データでは米国Q1のOOH売上が過去最高の19.8億ドルに到達したと示されています。
特に、単純な認知媒体としてではなく、SNS拡散を前提にした3Dビジョンやキャンペーン施策の台頭によって、屋外広告は「実体のあるWeb広告」として再評価されつつあるようにも感じます。表現の幅が広がることで、屋外広告は2025年後半以降も着実に価値を高めていくでしょう。
本稿では、2025年上半期(2025年1月〜6月)に私が撮影した広告の中から、特に注目すべき事例をピックアップ。デジタルとリアルの境界を超えた新しい広告表現の可能性について、現地での体験を基に考察していきます。
広告に「遭遇した」という特別感が熱源に
そもそも「広告」の目的は、商品やサービスの認知を広げること。ならば、より多くの人の目に触れる目立つ場所を選ぶのは当然と言えます。人通りが多いエリアで大型広告を展開するのが王道ですが、ここ数年はむしろひっそりと仕掛けられた広告が注目を集めるケースが続いています。
たとえば、5月に掲載された、星野源さんのニューアルバム『Gen』の広告はSNS上で大きな話題となりました。

戸越銀座商店街に出現したレトロ調の広告は、まるで昭和の時代からそこに存在していたかのような佇まいで、錆びた風合いも超リアル。私も現地で通り過ぎてしまうくらい、景色に馴染んでいるので、何も言われなければ気づくことすら難しい広告です。
おもしろいのは、誰か一人でも広告に気づいて写真を撮り始めると、次々と列ができて“撮影待ち”が始まった点。その様子を見て広告に気が付き、新たに列ができる……そんなことを繰り返しながら、現地で盛り上がりを見せた事例でした。

6月に渋谷109近くで実施された、スマホ向けストラテジーゲーム『シヴィライゼーション: 時代と盟友』の広告では、なんと渋谷に「スフィンクス」が登場。「渋谷にスフィンクスを建てるわ。」という大型広告の隣に設置されました。

現地で通行人の声を聞いていると、「なんだこれ」「なんか建っている」といった驚きのリアクションが多数見られました。こちらも「Gen」の事例同様、一人が気づくことで周辺の通行人に連鎖していった様子が印象的でした。
6月に渋谷で遭遇した、Aぇ! groupの3rd Single『Chameleon』の広告も印象的でした。シングル名の“カメレオン”にちなんで、街で擬態するメンバーが映し出されたビジュアルで、景色に馴染むように展開。

「景色に馴染む」というと聞こえは良いですが、広告として効果を出すという観点では別問題です。ただ、この事例では、ファンが広告を見つけてSNSでシェア→拡散の輪が広がっていく様子が印象的でした。「#Aぇ擬態中」など企画ハッシュタグからご覧いただけると思います。
各事例とも、通行量はあっても決して目立つとは言いづらい立地ばかり。だからこそ、見つけた人だけが得られる、ちょっとした「特別感」が現地での熱量やSNSシェアへとつながっていたように感じます。今の広告に求められているのは、“見られること”以上に、“見に行きたくなること”なのかもしれません。