ブランド・リレーションシップとは?
「ブランド・リレーションシップ」という言葉を耳にする機会が増えているのではないだろうか。ファンマーケティングやブランドコミュニティとも重なる概念だが、ブランド・リレーションシップは、それよりもさらに深い消費者との結びつきを指す。
セッション冒頭、久保田教授はこの概念について解説した。ブランド・リレーションシップとは、「ブランドと自己との結びつき」だと教授は説明する。具体的には、消費者が特定のブランドに対して深い愛情(愛着)を持ち、自分との重なり(同一化・一体感)を感じる状態を指す。

そう聞くとブランドロイヤルティという言葉が思い浮かぶ人もいるだろうが、それとは全く異なるものだ。ブランド・リレーションシップが築かれると、消費者はブランドを支持するだけでなく、積極的に口コミを広める、企業に対して改善の提案を行うなど、熱狂的な関与を示す。つまり、単なるブランドイメージを超えた、極めて強い関係性を生み出すのだ。
さらに、ブランド・リレーションシップには異なるタイプがあり、戦略を考える上でその違いを理解することが重要となる。セッションでは、「プロパティ型(小道具型)」と「パートナーシップ型(パートナー型)」の2つの基本的なタイプが紹介された。
1つ目の「プロパティ型(小道具型)」は、ブランドが自己表現の手段となるもの。例えば、特定のブランドの車を所有することで自分の個性を表現する消費者がこれに当てはまる。
2つ目の「パートナーシップ型」は、ブランドが消費者の人生に寄り添う存在となるもの。例えば、幼少期から親しんだ食品ブランドに対して持つ愛着などが代表的な例だ。

「ブランドは、理想の自分を表現する小道具にもなれば、心の支えとなるパートナーにもなります。つまり、ブランドがどのような存在になるかは、消費者との関係性によって変わるのです」(久保田教授)
タイプごとに適したアプローチ法も変わってくる。「プロパティ型」では、ブランドが自分らしさを実感したり、時には表現したりするための小道具となるような施策が求められる。一方、「パートナーシップ型」では、ブランドが個人的な経験や感情の共有者として、親しい友人のような存在に感じてもらうことが重要となる。
「どのタイプを目指していくかを明確にし、それに沿った施策を立てることが、ブランド・リレーションシップの戦略を作っていく上でのポイントになります」と久保田教授は語った。
ファンと共に創るサッポロビールのブランド戦略
続いて、ブランド・リレーションシップを実践している事例として、サッポロビールの武内氏が、同社のブランド戦略について語った。

サッポロビールでは、ブランドの「個性」と「物語」を戦略の核として位置づけている。「個性」とは、ブランドパーソナリティとも言い換えられるが、武内氏は「ブランドはファンと共に創り上げていくもの。長年愛されてきたファンのパーソナリティがブランドに投影され、それを『個性』と表現している」と語る。
一方、「物語」は、ブランドが誕生した背景や歴史、そしてそのブランドが持つ価値観や姿勢の集合体を指す。「ブランドのファンとパーソナリティがシンクロし、ブランドの物語や価値観に共感が生まれたときに、強い結びつきが形成される。そのためには、顧客を理解し、ブランド自身のことも理解し、共に磨き合うサイクルを作ることが大切だ」と武内氏は強調する。

このブランド戦略のもと、サッポロビールではブランドごとに異なるパーソナリティを設定し、それに基づいたマーケティングを展開している。
たとえば、北海道限定で販売されている「サッポロ クラシック」は、「道民に1番愛される相棒」というブランドパーソナリティを設定し、これが強化されるマーケティングを推進。一方で、「サッポロ生ビール黒ラベル」は、「常に憧れられる表現者」として、自己表現の一部として機能するようなブランディングを展開している。
ブランド・リレーションシップの観点から見ると、「クラシック」は「パートナーシップ型」のアプローチを採用し、顧客と深い信頼関係を築く戦略をとる。一方で、「黒ラベル」は「プロパティ型」のアプローチを採用し、顧客がブランドを通じて自分らしさを実感できるような体験を提供している。
「私たちのマーケティングでは、ファンと共にブランドを創ること、そしてファンが発信者となる仕組みを創ることを大切にしています。そのために、プロパティ型とパートナーシップ型のアプローチを使い分け、それぞれのブランドに合ったマーケティング施策を展開していくことがポイントです」(武内氏)