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140年の歴史が語る本質 日経が説くデジタル時代のメディア、広告の役割

2017/06/26 11:00

  フェイクニュース、コピペとSEOに依存したコンテンツ制作、ビューアビリティー、ブランドセーフティー……メディアおよび広告の信頼性、健全性に関する話が昨今話題となっている。デジタルファーストが当たり前になった中、デジタルメディアおよびデジタル広告が健全に発展するためにどのような意識を持つべきなのか。5月29日、都内で開催された「日本経済新聞 電子版 コンテンツ・マーケティング・フォーラム」にて、花王の石井龍夫氏と日本経済新聞社の渡辺洋之氏がこれらについて議論。モデレーターはMarkeZine編集長の押久保剛が務めた。

問われるメディアの信頼性

花王株式会社 デジタルマーケティングセンター シニアフェロー 石井龍夫氏(写真中央)日本経済新聞社 常務執行役員 デジタル事業担当 渡辺洋之氏(写真右) 株式会社翔泳社 MarkeZine編集部 編集長 押久保剛
花王 デジタルマーケティングセンター シニアフェロー 石井龍夫氏(写真中央)
日本経済新聞社 常務執行役員 デジタル事業担当 渡辺洋之氏(写真右)
MarkeZine編集長 押久保剛

押久保:今、広告・マーケティング領域では、改めて「デジタル広告の信頼性」が問われていると感じます。昨今では広告そのものの信頼性をという話はもちろん、広告の「掲載場所」であるメディアへの信頼性に対する言及も起こっています。

 そこで今回は、石井さんと渡辺さんにお集まりいただき、広告主およびメディア双方の立場から、現状についてどうお考えで、これからどうしていくべきかについてお話を伺っていければと考えております。

石井:花王の石井です。1980年に入社後、8年間の販売現場を経て本社に戻り、「メリーズ」や「ロリエ」「ビオレ」「アジエンス」などのブランドマーケティングを手がけてきました。その後デジタルマーケティングに移り、約13年間デジタル業界に従事した後、今年1月にデジタルマーケティングセンターのセンター長を退任し、今はシニアフェローという立場で関わっております。

渡辺:日本経済新聞社の渡辺です。当社は2010年3月「日本経済新聞 電子版」を創刊し、現在は有料デジタルメディアとしてそれなりの規模まで成長を実現できています。今年はさらにダイナミックなメディアビジネスを展開するため、組織体制も大きく変え、読者と広告主の両方の期待に応えていきたいと考えています。

押久保:ありがとうございます。早速ですが昨年来、メディアや広告の信頼性を問われる出来事が相次いでいます。これをどうご覧になっていますか?

石井:デジタル広告には二つの大きなメリットがあります。第一にテレビよりコストが安いこと、第二にデジタルの特性としてターゲティングしやすいという点です。そのため、我々を含め広告主は、効率的に手っ取り早くターゲットにリーチできるということで、刈り取りに向かってしまいました。しかしこれは、マーケティング本来の目的から外れていると思うんです。

 マーケティング本来の目的は、市場を拡大して売上を上げていくことにあります。しかしデジタルの世界では、顕在的な需要を刈り取ることに注力し、「PVがある」「数多く獲得できる」というメディアを中心に投資を重ねるようになってしまいました。

 本来なら、「当社の製品を買わない人に、何をどう伝えていくか」「市場からの声を次の商品開発にどう生かすか」を考えるべきなのですが、やりやすいことに目が行ってしまう。こうした広告主の姿勢が、昨年末から続いている問題の温床になっているのではと感じます。

押久保:渡辺さんはいかがお感じですか。

渡辺:弊社の観点からだと今年に入って大きく二つの点が変わりました。一つは「日本経済新聞 電子版」の有料会員が50万人を超えたこと。私は社内で「キャズムを越えた」と言っています。つまり一過性の流行りで課金ができているというわけではなく、定着しスケールも担保できるようになりました。

 もう一つはフェイクニュースをはじめとした「メディアの信頼性」の問題。やはり信頼できる「場所」つまり「ちゃんと読者とエンゲージメントできる場所が求められはじめた」と感じます。コンテンツマーケティングもそれがない場所でやっても期待する効果につながらず、むしろヘンなことが起こる可能性もありリスクが高いことが顕在化しました。

マーケティング本来の目的に原点回帰

押久保:「信頼できるメディア」というテーマについては、後ほど改めて議論したいと思います。さて、石井さんは先ほど「マーケティング本来の目的」ということで、市場を拡大するために「買わない人にも伝えていく」「お客様の声を生かす」という取り組みに目を向けるべき、とおっしゃいました。こうした活動は、いわゆる従来型のマスマーケティングの中でどう取り組まれていたのでしょうか。

石井:花王は確かに伝統的なマスマーケティングがうまく、ブランドの認知度や売上にマスを活用してきました。

 ですが、今はお客様の価値観が多様化し、一つの製品やブランドでお客様のニーズに応えられる時代ではありません。そのため今は、お客様を小さなクラスタ化、いわゆるスモールマスとしてくくり、どのクラスタのお客様にどんな商品が求められているかを探り、提案するという小さなユニット単位の広告マーケティングを展開しています。このやり方は、本来のマーケティングの姿だと思うんですよ。

 私は「マーケティング=魚屋」と思っているのですが、昔の魚屋さんは、お客様の顔を一人ひとり覚えていて、頭の中にある購買履歴をもとにお勧め商品やメニューの提案をしてましたよね。

 時代が移り、そこからマスマーケティングの時代になりましたが、再び時代はデジタルで、「最適なお客さんに最適なタイミングで最適な提案をする」となってきている。むしろマスマーケティングが特殊だったのではないでしょうか。

押久保:それは面白い指摘ですね。テクノロジーがない時代から、マスの時代へ、そしてテクノロジーが普及したことによって、本来のマーケティングに原点回帰してきたと。

石井:はい。お客様が自分に合うものを欲しているのなら、このやり方が普及するのは当たり前ですよね。ただ、そのやり方をフェイクニュースやアドフラウドでダメにするようなことがあってはならない。私たち広告主側は、この市場を正当に拡大していく使命があると考えています。

渡辺:石井さんのお話は興味深いですね。実は私がデジタル事業に移った10年以上前、「デジタルの本質は何か」という議論が盛んでした。国内の大手デジタルメディアを中心に、「ネット(デジタル)はマスに変わる存在となる」という見方も盛んでしたが、私たちは一つの結論として「One to One」だと考えました。

 つまり「誰がどんな記事をいつ読んでいるのか」を把握することで、より良いコンテンツ作りにつながるのではないか、と。そのため、当時私が在籍していた日経BPでも、積極的にユーザーIDを取得してデータベース化していきました。

 時々「新聞を読むのに、なぜIDが必要なのか」と聞かれるのですが、最終的にOne to Oneが実現できるプラットフォームになれるかどうかは、メディアにとってとても重要なポイントだと思います。


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