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行政×テクノロジー「GovTech」はマーケター無双 元リクルート・井原氏が語るやりがいと挑戦


 リクルートライフスタイルでデータマネジメント組織を立ち上げ、データドリブンの牽引役を果たして全社イノベーション賞に二度も輝いた井原真吾氏が第二のキャリアに選んだのは、GovTech(ガブテック)というフロンティアにおける起業でした。井原氏はGovTechのどこに魅力を感じ、前職でのスキルをどのように活かしているのでしょうか。

国家もデジタルトランスフォーメーションに臨む時代

 海外のベンチャーキャピタルが熱視線を注ぐ、GovTechをご存知だろうか。GovTechとは、GovernmentをTechnologyで変革すること、つまり、行政手続きをテクノロジーで改善して市民の生活を豊かにする民間企業を意味する。

 日本ではまだ知られていない存在だが、海外にはGovTech専門のファンドも存在するほど定着しつつある。その背景には、GovTechのクライアントとなる各国の政府・自治体がIT投資を年々増やしてデジタル化への取り組みを強化していることがある。

エストニアではe-residencyをPCにつなげばほぼ全ての行政手続きが可能 Photo by Rasmus Jurkatam
エストニアではe-ResidencyカードをPCにつなげば、ほとんどの行政手続きが可能 Photo by Rasmus Jurkatam

 最も有名なのは、電子国家政策を進める東欧の小国エストニアだろう。エストニアでは「e-Residency(電子国民プログラム)」という仕組みを通じて、世界中のどこにいてもエストニアで企業を設立したり銀行口座を開設したりできるようにしている。不動産登記と婚姻手続き以外はすべて自宅からインターネットを通じて行えるというから驚きだ。

 こうした世界の潮流をうけて日本政府も行政のデジタルトランスフォーメーションに力を入れ始めている。たとえば、経済産業省は、行政手続きのデジタル化によって国民のUX改善を進めて官民双方のコストを削減しつつ、データに基づく政策立案・サービスを行うことを提唱。国として積極的にAPIを公開して民間企業との共創によるサービス改善を促す流れも定着しつつある。

リクルート流のサービス改善ノウハウを行政の世界へ

 元リクルートライフスタイルの井原真吾氏が、自ら立ち上げたデータマネジメント組織の定着を見届けた後に起業して取り組んでいるのが、このGovTechだ。2017年にグラファーを共同創業し取締役COOを務める。

 グラファーは創業後まもなく神奈川県鎌倉市や長野県小諸市、埼玉県横瀬町をはじめとする顧客を獲得し、日本におけるGovTechを代表する企業として政府へ政策提言を行うに至っている。

グラファー 井原真吾氏
グラファー 井原真吾氏

 井原氏はリクルート時代、「カーセンサー」の営業からスタートして、2年目にしてベトナムにオフショア開発の拠点を立ち上げる。リクルートライフスタイル転籍後は「じゃらん」「ホットペッパー」「Airレジ」をはじめとする様々なサービスをデータプランナーとして成長させ、その経験をもとにデータマネジメント組織を立ち上げマネージャーを務めた。

 「ホットペッパー」時代にはデータに基づいてセールスを支援する「データドリブン営業」を促進。「Airレジ」事業では、SaaSにおける「カスタマーサクセス」という概念が知られていない時代に、利用状況データに基づいてユーザーを支援する仕組みを構築した。井原氏の先見性と新しい知識への貪欲さ、そして類まれな実行力は、タレントぞろいのリクルートグループでも異彩を放っていた。

 そんな井原氏がGovTechを知ったのは共同創業者でCEOの石井大地氏を通じてだった。「Webサービスを成長させるスキルで行政サービスは変えられる。1億人いるユーザーの不満を取り除くという社会的意義の大きさに胸が躍った」と井原氏は当時を振り返る。

 井原氏は高校時代から社会問題に強い関心を持ち、先進国の貧困問題といったテーマでドキュメンタリー製作に励んできたバックグラウンドを持つ。大学時代のアルバイトではNHKのADを務めていたというから、リクルートへと進まなければ今もカメラを握っていたかもしれない。

「GovTechはビジネスとして必ず大きくなっていく分野だが、自分としては儲けたいというより、社会的な意義を強く感じることが動機になっています。

 誰しも地道なサービス改善に取り組んでいて、ふと虚しくなる瞬間があると思うんです。このフォームのCVRを0.1%改善することになんの意味があるんだろう、って。けれど、GovTechだとマーケターとしてのスキルで1億人の時間を創出することもできる。この手応えは大きいです」(井原氏)

 行政手続きは誰にとっても避けられないだけに、根深いペインが存在する。「役所の用事のために有給をとるなんておかしくないですか。会社を立ち上げるのも、すごく手間がかかります。他方で、役所の職員も、たとえば保育課などは長時間の残業を余儀なくされている。リクルート的な表現ですが、巨大な『不』の存在を感じました」と語る井原氏。解決すべき課題の大きさが、背中を押した。

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この記事の著者

江川 守彦(編集部)(エガワ モリヒコ)

東京大学文学部を卒業後、総合広告代理店でマスメディアの媒体営業業務を経験し、出版社に転じて人文系の書籍編集に従事したのち、MarkeZine編集部に参画。2018年よりオーガナイザーとしてMarkeZine Dayの企画にも携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2019/05/16 19:02 https://markezine.jp/article/detail/30856

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