ストーリーから信頼へ。透明性の時代にブランドが変わった
── 「ストーリーテリングだけに頼っていてはその域を出られない」とのこと。ブランドは本来ストーリーで伝えるものではなかったのでしょうか。
ブランド=ストーリーを伝えること、それ自体は間違っていません。「ブランド」の語源は、家畜に焼き印を押して所有権を示すための「brandr」に由来します。そこからロゴへと派生し、ストーリーを通じて時空を超えた共通認識を持つようになりました。歴史家のユヴァル・ノア・ハラリ氏も言うように、ストーリーを伝えることこそが人類最古の技術であり、ブランドの原点なのです。ただ今は、ストーリーだけでは足りません。
── 何が変わったのでしょうか。
変わったのは情報の「透明性」です。以前は情報伝達に格差とタイムラグがあったため、多少の誇張が通ってしまうこともありました。インターネット、モバイル、SNSの普及によってそれが民主化され、ほぼリアルタイムで情報が広がる時代になりました。
ある有名なアメリカの航空会社の事件が、象徴的です。長年マーケティングで積み上げたイメージが、客室乗務員によって乗客が機内から引きずり出される一部始終を別の乗客が撮影・拡散した瞬間、崩れ去ってしまいました。
これは極端な例ですが、同じことは日常の顧客接点でも起きています。店舗での接客態度、コールセンターの対応、返品の誠実さ——顧客接点での体験の積み重ねが「この会社は自分を大切にしてくれる」という信頼を生み、その結果として出来上がるのが「ブランド」です。
信頼が求められる時代になった今、従来のマーケティングファネル、つまり認知から購入までの一方通行の流れでは不十分です。購入をゴールにすると、その先にある顧客との関係が抜け落ちてしまうからです。
だからこそ、私は「フライホイール(連鎖反応型のブランド構築モデル)」を提唱しています。フライホイールは「COMPANY→PRODUCT→CUSTOMERS→BRAND(信頼に基づく差別化)」という好循環を生みます。
(1)COMPANY:「会社」が生み出す「プロダクト」
(2)PRODUCT:「プロダクト」が魅了する「顧客」
(3)CUSTOMERS「顧客」が信頼する「ブランド」
(4)BRAND:「ブランド」が差別化する「会社」
他社に真似できない「独自の視点」をどう持つか
──差別化を行う上で、書籍の中で「USP(独自の売り:Unique Selling Proposition)よりもPOV(独自の視点:Point of View)」というキーワードが印象的でした。POVによる差別化とは、どういうことなのでしょうか。
USPは1960〜70年代のアメリカで生まれた考え方で、機能の優位性を整理するアプローチ自体は間違っていません。しかし機能は真似されます。真似されると永遠に改良し続ける戦いになる。
一方、その企業のPOV(独自の視点)は真似できません。アウトドアギアメーカーのPatagonia(パタゴニア)を見てください。高機能なアウトドアギアを作る競合は後を絶ちませんが、「地球が私たちの唯一の株主」という哲学と、利益を環境保護に還元する仕組みを作り「行動」で示し続けることは唯一無二と言えるでしょう。
ユニクロも同様で、ヒートテックという機能は模倣されうる。しかし「MADE FOR ALL(国籍や年齢、性別、職業など、人を区別するあらゆるものを超えた、あらゆる人々のための服)」という企業レベルの視点は、世界中で、ブランドとして機能し続けています。商品レベルの機能の話と、企業レベルの視点の話では、次元がまったく違うのです。そしてその視点は、言葉だけでなく日々の企業行動で証明されなければなりません。
POVの探求は一度見つけて終わりではなく、継続的に問い続けるものであり、永遠の課題と言えるでしょう。創業から89年経つトヨタも、リコール問題を契機に、「幸せを量産する」というミッションを再定義しました。どんな企業も、10〜15年のスパンで自社の存在意義を見直し続けることが求められているのです。
