ロイヤルティの本質的価値とソーシャルメディアマーケティング戦略
今回は、マーケティングファネルの中でもソーシャルメディアマーケティングと最も親和性の高い、「ロイヤルティ」における戦略策定について検討していきたい。そもそも、ロイヤルカスタマーは、企業に対してどのようなベネフィットをもたらしてくれるのだろうか? 図表5を見てほしい。
ロイヤルカスタマーがもたらすベネフィットは、大きく「購買行動の増加」「建設的なフィードバックの提供」「口コミによる推奨行動」の3つに分けて説明できる。
従来のリテンション(顧客維持)・マーケティングの考え方では、基本的には「購買行動の増加」を追求するCRM的な発想が中心であった。
しかしながら、ロイヤルカスタマーはただ商品をたくさん買ってくれるだけの存在ではない。商品・サービスの改善につながるような建設的なフィードバックを提供してくれたり、口コミによる推奨行動によって新たな顧客を連れてくれる、企業にとってパートナー的な存在であるといっても過言ではない。
図表5は、これらのベネフィットに対応する企業の既存ファンクションとソーシャルメディアマーケティング戦略の関係を示している。CRMプログラムをはじめ、既存のファンクションでは十分に対応できていない、フィードバックの仕組み強化としてのHelping、Embracingや口コミを促進するEnergizingといったエンゲージメント戦略を通じて消費者・顧客との関係性を構築していくことが、ソーシャルメディアマーケティングの本質的役割であると言える。
ロイヤルティマーケティングのKPI ~ Net Promoter ScoreRとは?
ここでは少し、顧客のロイヤルティを測る1つの指標を紹介したい。
「Net Promoter Score(以下、NPS)」という指標をご存知だろうか? NPSとは、ロイヤルティマーケティングの権威であるFrederick Reichheldが、自身の著書『The Ultimate Question: Driving Good Profits and True Growth』(邦題:顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」)で提唱している、カスタマーロイヤルティを図る指標である。
NPS調査では、「X社を友人や同僚に薦める可能性は、どのくらいありますか?」という究極の質問を通じて、企業と顧客とのリレーションの強さを測る。この質問に対して、回答者は「0~10」の11段階のスケールで選択し、その結果を「Promoter(推奨者)」「Passive(中立者)」「Detractor(批判者)」の3つのグループに分類する(図表6、7)。

筆者は、2010年2月にNew Yorkで行われたNPSに関するカンファレンスとサーティフィケーションコースに参加して、アメリカでのNPSの浸透度合いを見てきたのだが、アメリカでは、グローバルカンパニーを中心に数多くの企業がNPSを導入しており、既にNPSがかなりメジャーな指標として定着していることを実感した。
本連載ではNPSについて詳しく解説することはしないが、なぜアメリカではNPSが支持され、定着しつつあるかについて、少し説明しておきたい。主因としては、次のとおり、外的な環境要因とNPSの特徴上の強みが考えられる。
- アメリカ国内市場のアクイジション(新規顧客獲得)・マーケティングにおける効率が頭打ちとなる中で、リテンション(既存顧客)・マーケティングによる顧客収益性強化の重要性が見直され始めている(一方で、グローバルカンパニーの成長戦略は、BRICsを中心とした海外シフトを軸にしている)。
- 商品スペックでの差別化が難しくなってきている状況で、カスタマーエクスペリエンスを競合との差別化要因にしていこうという考え方が注目を集めている。
- 従来のマス広告を中心としたマーケティングコミュニケーションの効果効率が低下し、口コミの重要性が高まっていることを多くの企業が認識し始めている。
- 長年の研究の結果、多くのケースでファイナンシャル指標(売上成長率、顧客収益性など)とNPSとの相関が実証的に認められる。
- 単一の質問によって、顧客とのリレーションを測るというコンセプトが非常にシンプルなため、組織内(経営層から現場まで)での浸透が早く、NPSの改善への取組みにドライブがかかりやすい。
日本においてNPSがメジャーな指標として定着するには時間がかかると思うが、ロイヤルティ向上を目的としたソーシャルメディアマーケティング戦略のストラテジックKPIとして、NPSのような指標を設定することが有効であると考えられる。