総務省は、平成19年版の「情報通信に関する現状報告」(情報通信白書)を7月6日の閣議に報告し、公開した。この白書は、日本の情報通信の現況、情報通信の政策の動向についての調査結果をまとめたもので、32回目となる今年のテーマは「ユビキタスエコノミーの進展とグローバル展開」。
いつでも、どこでも利用できるユビキタスネットワークの発展を表すユビキタス指数は、1995年以降伸び始め、2000年以降急速に伸びている。インターネット利用者数は平成18年末で8,754万人。世代別のインターネット利用状況は、60歳以上の高齢者の利用増大が顕著となっている。インターネット利用端末は、パソコンが8,055万人と最も多く、次が携帯・PHSなどの688万人。携帯端末のみでインターネットを利用する人の数は平成17年末と比べて64.2%減の688万人となった。
この変化はライフスタイルにも影響を与えており、3割以上の人が1~2年で食事、仕事、購買、趣味、娯楽などの生活活動に変化を感じ、その半数が購買、趣味・娯楽についてはインターネットの影響によると回答している。
総務省は、今後も日本経済が順調に推移してユビキタスネットワークのポテンシャルが発揮されると、2007年から2010年までの間、実質GDP成長率は1%ほど引き上げられると予測していいる。しかし、情報通信産業全体を見ると楽観はできない状況だ。
情報通信産業は、現在国内生産額の約1割を占めており、これは全産業の中で最大規模となっている。情報通信産業の実質GDPは順調に増加しているものの、雇用者数は平成12年をピークに減少。情報化投資に関して日米を比較すると、投資とGDPともに米国の伸び率が高い。米国の労働生産性は1990年以降一貫して伸びており、特にTFP(全要素生産性)成長の寄与が大きいのに対して、日本の労働生産性は1990年以降横ばいで資本ストックの寄与が大きくTFP成長の寄与が小さいのが特徴。
またICT(情報通信技術)ベンダーの利益率は、端末・機器分野、デバイス分野、ソフトウェア・ソリューション分野のいずれにおいても、米国・欧州・韓国に比べて低くなっている。日本は1997年から2005年の間、ほとんどの製品で世界シェアと輸出額がともに低下しており、企業競争力と生産拠点としての立地競争力のいずれも低下している。このように世界市場に占める日本市場のウェイトは年々低下しているにもかかわらず、日本ベンダーは欧米ベンダーに比べて国内市場志向が強い傾向にある。また、通信事業者の国際競争力を比較すると、国外での売上比率が高いのは欧州の事業者で、英ボーダフォンは国外売上比率が83.0%、ドイツテレコムが74.5%、スペインのテレフォニカは62.1%となっている。
情報通信産業を支える「人」に注目すると、情報通信関連学科の卒業者数が米国、中国、インドではいずれも右肩上がりとなっているのに対して、日本はここ数年横ばい状態が続いている。こうした技術者教育の問題も反映してか、日本のソフトウェアのオフショア開発の規模は2005年で636億円、2010年には約2000億円に達する見通しとなっている。オフショア開発の相手先は、日本の場合は中国が約80%、米国はインドで約95%となっており、日本が重視するのは言語とコスト、米国は技術力を重視する傾向がある。
国内ではますますインターネットが生活に浸透し、多様なサービスが消費される一方で、情報通信産業全体の国際競争力の低下を訴える今回の白書を見ると、ユビキタス社会の到来も喜んでばかりはいられない。