「設定」ではなく「設計」を。AI時代、5年先も形骸化しない基盤構築の要とは
──企業がデータ基盤を構築するうえで、最も重要なポイントは何でしょうか。
小向 単にツールを導入することではなく、「ビジネスの動線」をどこまで解像度高く整理できるか、という一点に尽きます。適切なデータを蓄積していくことはもちろん、「誰が、いつ、何のためにその情報を使うのか」という動線を整理し、必要な情報にすぐアクセスできる状態を作ることが非常に重要です。
森脇 この動線を確実に機能させるために、私たちは「設定」ではなく「設計」という概念を意識しています。設定はあくまで代行作業にすぎません。基盤構築の真の価値は、「現場でどう機能させるか」というビジネスの動線を引くための設計にあると考えています。
ハブワンでは、HubSpotに落とし込んでいく前に、まずはお客様と一緒に業務オペレーションを徹底的に棚卸しし、それをどうシステム構造に落とし込むべきかを定義します。具体的には、Lucidchart(フローチャート作成ツール)やスプレッドシートなどでAs-Is/To-Beを全部書き出します。現在の業務を可視化して将来あるべき姿を描き、さらには非機能要件(APIリクエスト数等)まで含めて、「理想論で終わらない設計」をとことん突き詰めていく。そのうえで全体設計をフェーズ分けし、「まずここから」「次はここから」と着実にステップを踏みながら実装していきます。
小向 そのうえで、実際に現場の方に使っていただき、実務に即したフィードバックを設計に反映させていく。この「要件定義」と「実務での検証」を丹念に積み重ねるプロセスを大切にしていますね。
──この「設計」の工程を疎かにすると、どのような問題が生じるのでしょうか?

小向 現場のオペレーションに深刻な歪(ひず)みが生じてしまいます。たとえば、マーケ側は「ターゲット配信のため」に従業員数の項目を作り、営業側は「アプローチの優先順位をつけるため」に別で従業員数の項目を作っている。同じ情報なのに別々で管理されているため、マーケ側が入れたデータを活用できず、営業がもう一度企業サイトを調べて入力する……。こうした「二重の手間」が発生しているケースは非常に多いです。これは、企業内のマスタの登録権限やルールが明確でないことも一因になっています。
森脇 少人数のチームでも、毎日30分ずつ無駄にしていたら影響が出てきますよね。これがたとえば2,000名規模の企業であれば、月間・年間で積み重なるロスは計り知れません。売上や利益にも響きます。さらにその先の未来を見据えると、データの整備や設計ができていないとAIを活用するフェーズに進めないんです。
──まさに今、「とにかく早くAIツールを導入しなければ」と焦りを感じている企業は多いのではないかと思います。AI時代を見据えたとき、このデータ基盤の「設計」はどのように効いてくるのでしょうか。
森脇 結論から言えば、「設計ができていない企業は、AIの恩恵を享受できない」──そう言っても過言ではないと考えています。たとえば私たちがメインで支援しているHubSpotが掲げる「Agentic Customer Platform」という構想では、土台となる「コンテキスト層」に正しい顧客データやビジネスの文脈が蓄積されて初めて、最上階の「アクション層」でAIが機能します。基盤の設計構造が歪んでいれば、AIは正しく動けないんです。
コンテキストを基盤に、AIと人が協働して仕事を前に進めるHubSpot の新しい考え方「Agentic Customer Platform」
アクション(AI)とコーディネーション(管理)を支える最下層の「コンテキスト(文脈)」こそが、ハブワンが提唱する「設計」の主戦場となる。
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森脇 今後は、AIがCRMやNotion、Google Driveなどの接続されたツールを横断して自律的にデータを取りに行き、回答を返す、といった業務のあり方がスタンダードになっていくでしょう。数年後には、人間がCRMの中にデータを入力したり探しに行ったりする行為が、おそらくなくなっていきます。
そうなると、HubSpotは単なる利便ツールとしてではなく、AIが参照するための「データの箱」としての価値が高まってきます。その箱にデータが資産として入っていれば、AIと対話するだけで即座に答えを導き出せるようになる。
もし今、その土台となるデータ基盤ができていなければ、数年後にAIを本格的に活用しようとした際、膨大な時間とコストを投じることになってしまいます。とくに変化の激しい今の世の中では、「お金」以上に、「時間」のロスによる機会損失が深刻になります。だからこそ、未来に備えて今、データ基盤を正しく設計しておくべきなのです。

