営業企画とセールスストラテジーを分ける決定的な一線
エリカ:営業企画を有する日本企業は多いですが、和代さんの話を聞いていると、セールスストラテジーと営業企画は別ものの印象を受けます。和代さんはご自身の仕事をどう捉えていますか?

和代:私たちが日々取り組んでいるのは「数字を達成するプランを緻密に練り、磨き続け、軌道修正し、達成する組織を創り上げること」です。経営戦略の中に営業戦略が含まれない企業など、本来はあり得ません。ですが、日本では「経営戦略」と「営業」が切り分けられています。違いの根はそこにあるのかもしれません。
エリカ:その違いは私も強く感じます。営業企画は営業を支援する役割ですが、セールスストラテジーはクォータ(※4)やテリトリー、コンペンセーション(※5)など、営業組織そのものを設計する役割だと理解しています。
※4 営業担当者やチームに割り当てられる売上目標や販売ノルマ
※5 営業担当者の給与やインセンティブ、ボーナスを決定する報酬制度
和代:そうですね。決まったことを回すことも重要ですが、セールスストラテジーにはリーダーとともに決めることも期待されていると思います。
エリカ:その役割を和代さん自身の言葉で表現するとしたら、どんな言葉になりますか?
和代:私はセールスストラテジーを歌舞伎の「黒衣(くろご)」だと思っています。お客様からは見えないけれど、役者である営業リーダーが最高の演技をできるように、舞台裏ですべてを整える役割です。営業はアート、ストラテジーはサイエンス。両方が揃って初めて素晴らしい舞台になります。営業とセールスストラテジーはセットなんです。
エリカ:企画部門は営業組織の「御用聞き」となってしまうケースも多いです。「ビジネスパートナー」となるために必要なことは何でしょうか。
和代:御用聞きになった瞬間、セールスストラテジーの仕事は社内政治に変わります。自分の担当する営業リーダーが他の営業リーダーより得するようにプランを設計し始め、本来の「市場で勝つ」は置き去りになるでしょう。ビジネスパートナーは「担当リーダーを成功させるために何ができるか」を考え続け、提案し続け、結果が出るまで逃げません。
エリカ:「市場で勝つ」という目的から離れず、リーダーに伴走しながら意思決定を支える存在ということですね。
平均達成率75%の目標を設計するワケ
エリカ:セールスストラテジーは、1年を通してどのようなサイクルで動くのでしょうか。
和代:期が変わる半年前に動き始め、約5ヵ月をかけて翌年の戦略を仕上げます。その前段としてロングレンジプラン(長期経営計画)があり、3〜5年先の市場予測、買収を含むポートフォリオ、セグメント別・業種別・プロダクト別の成長見立てを修正します。ここで翌期の財務目標の方向性が固まり、それを起点にプランニングするイメージです。
エリカ:クォータ、テリトリー、コンペンセーションなど、設計変数はいくつもありますが、和代さんが最も経営インパクトが大きいと考えているポイントはどこですか?
和代:クォータとコンペンセーション設計です。平均達成率が75%前後に着地する設計を意識しています。全員が100%達成できる目標は甘すぎますし、平均50%を下回ると会社が成長できません。簡単すぎず、難しすぎず、営業が挑戦し続けられるラインを探すんです。そして、注力プロダクトには係数で濃淡をつけます。売ったときのインパクトを大きくすることで、営業の行動を変えるのが狙いです。
エリカ:キャパシティプランニング(※6)も、単なる採用計画ではなく収益計画そのものと言えますか?
※6 売上目標を達成するために必要な営業リソース(人員、時間、予算)を予測・計画するプロセス
和代:そうですね。商談期間を考慮すると、大企業を担当するチームは年初の在籍率が8割を超えていなければ、その期の数字を作れません。一方、中堅中小企業の担当者は3ヵ月あれば独り立ちできるため、チームの在籍率が5割でも回ります。つまり、セグメントごとに採用ペースも昇進の動かし方も変わるんです。在籍率、独り立ちまでの期間、欠員リスクを織り込み、クォータに一定のバッファを乗せる──この調整を綿密にできる組織とできない組織では、期末の着地精度が大きく変わります。
エリカ:長年セールスストラテジーに取り組まれてきた中で、印象に残っている失敗はありますか?
和代:米国のクォータやテリトリー基準をそのまま日本に当てはめてしまったことです。市場の成熟度もリソースも日本と大きく異なるのに、米国と同じ基準で戦略を設計してしまいました。その結果、目標は軒並み未達。米国だけでなくAPACや英国など、より近い市場をベンチマークすべきでした。
