FDE型人材の本質は技術力にあらず
──FDE型人材の要件を整理いただきたいです。何ができるようになれば、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)はFDE型人材としての役割を担えるようになるのでしょうか。
技術の知見があればもちろんプラスにはなりますが、最も重要なのは顧客理解、つまり「業務オペレーションに対する圧倒的な解像度」です。

当社のチームに、プログラミングやシステム開発の経験がまったくない非エンジニアのメンバーがいます。彼はエンジニアリングの経験こそゼロでしたが、見積書の作成や注文書の発行、請求処理といった業務のオペレーションを誰よりも細かく理解し、高い解像度を持っていました。
彼がAIでお客様向けのアプリケーションを作ったところ、IT業界に長く身を置き技術に明るい私よりも、はるかに短時間で、かつ現場にとって使いやすい優れたシステムが出来上がったのです。このエピソードは、FDE型人材の本質が技術力ではなく「現場の業務をどれだけ深く汲み取れるか」にあることを証明しています。
──技術はAIが補ってくれるからこそ、落とし込みのセンスが問われるのですね。
そのとおりです。ただ「システムアーキテクチャ」や「UX」「セキュリティ」の視点は必要です。複数の異なる業務を1つのアプリケーションに落とし込むときに「どんな画面構成にすれば、現場の人が直感的に迷わず操作できるか」というデザインを描く力、そして情報を管理する際のセキュリティ意識は人間が持っておくべきです。
とはいえ、この力すらAIで自動化されつつあります。最近AIでテストをしたところ、一度の指示で約100個ものサブエージェントを自律的に立ち上げ、それらが裏側で互いに対話しながら、ERPに近い複雑なシステムを一瞬で構築してくれました。トークンを大量に消費するため、現時点では実用段階にありませんが、これらが安価に日常使いできる未来は遠からず訪れるでしょう。
従来の意味でのCSMは不要になる?
──FDE型人材が一般化し、誰もがAIでエンジニアリングできるようになったとき、セールスとCSの組織や存在意義はどう変化するとお考えですか?
私の予測では、従来の意味でのCSMは最終的に不要になると思います。フロントの営業担当者が、AIと対話しながら顧客の横でニーズを聞き、その場で「こんなシステムが週末までに作れますよ」と、顧客専用のモックを見せて目の前でデリバリーを完結させる。そんな世界になれば、営業担当者がFDE型人材となり、カスタマーサクセスの機能はすべてセールスに内包されることになります。役割の名称自体が「カスタマーサクセス」に統合されても良いかもしれません。
我々CSMの真の存在意義は、機能を提供することではなく、その先の経営課題の解決や本質的な売上向上に並走し、顧客と一緒になってチャレンジすることです。AIの技術が進めば進むほど、人間はシステム開発の呪縛から解き放たれ、本来の意味での“カスタマーのサクセス”に100%向き合えるようになります。
──御社では、どのようなプロセスでFDE型人材を育成していますか?
第一ステップとして、動画やGoogleスライドといった各種学習資料のリンクを体系的にまとめたオンボーディングアプリを活用しています。新しく入ったメンバーには、このアプリを使ってVALANCEのプロダクト理解から業界・業務知識、会計やサプライチェーンに関する前提知識のキャッチアップまでを効率的に行ってもらいます。その上で、当社のプラットフォーム上に自作のアプリケーションを構築する課題までやりきってもらうのが、最初のステップですね。将来的には、このオンボーディングアプリにFDE型人材に特化した学習メニューを追加することも検討しています。
オンボーディングアプリで基礎を学んだメンバーが、カスタマーサクセスチームに配属されたら、実案件を通じて業務プロセスを学ぶためのガイドラインとして、当社独自の「案件キット」を提供しています。
