AIが分析するほど「データアーティスト」の価値は上がる
川上:「可視化→原因分析→仮説→実行」という流れで考えると、AIが最も代替しやすいのは前半ですよね。セールスストラテジーの仕事は、AIによってどう変わると思いますか?

古森:データ分析は、ほぼAIでできるようになりますよね。昔は求められた切り口で分析結果をすぐに出せる人が重宝されましたが、今はそれもAIでできます。
川上:分析結果を出せること自体の希少性が下がると、価値は分析結果を「どう読むか」に移りますね。
古森:そうです。AIは分析結果からネガティブなことを発見するのがうまいんですよ。「ここが悪い」「ここが足りない」と。それをどうポジティブに転換して、人を動かす言葉にするのか。セールスストラテジーにはデータサイエンティストの素養だけではなく、データアーティストの素養も求められます。大事なのはアートとサイエンスのバランスですね。
川上:事実を正しく示すのがサイエンスなら、その事実を「相手が動く意味」に変換するのがアートというわけですね。
古森:たとえばアカウントプランニングの場合、AIに「作って」と言えばそれらしいものは作れます。でもセールスストラテジーの仕事は、自分たちだけで戦略を作って終わりではありません。営業担当者が「お客様の役に立つためにこうしたい」と思えるプランになるまで協議を重ね、合意を得るところまでやるんです。
川上:AIが作れるのは「自社から見た顧客攻略の仮説」まで。それを顧客との共通計画に変えるところから人間の仕事になると。
古森:そうです。AIのアウトプットは叩き台として使えばいい。でも最後は「私はこう思うんです」と自分の言葉にしないと、相手の心には刺さりません。正しいプロンプトを入れて正しい答えが出るなら、誰がやってもいいわけです。知性だけで勝負していたらAIにはなかなか勝てませんが、人間には感性やパッション、そして倫理観があります。理性・知性・感性のバランスが大事ですよね。
川上:誰でも分析結果を出せるAI時代だからこそ「あなたがやる理由」を問われるんですね。セールスストラテジーにとって今の流れは追い風なのかもしれません。
組織は縦、顧客は横「10秒×4人」を38秒にするバトンゾーン
川上:セールスストラテジーは営業部門に閉じた機能ではなく、顧客を中心にレベニューのプロセスを横断して見る役割に近いと思います。
古森:はい。来期のプランニングは全社横断でやります。組織は縦でも、お客様は横に流れるからです。組織が複雑になるほど横のコミュニケーションが必要になります。そこを担うストラテジーチームは、インテリジェンスのハブみたいなものですね。
川上:「顧客を中心に360度で組み立てる」という意味では、昨今RevOpsと呼ばれている発想と重なります。ただ、横断プロセスを整えようとする企業の多くは各部門の役割を精緻に定義しようとします。
古森:完璧な組織デザインなんてできません。職務内容を明確にして「あなたはこの線から一歩も出ちゃいけません」と定義しすぎると、必ずグレーゾーンに仕事が落ちるんですよ。「これ、やっとくわ」というコミュニケーションがプロセスの滞りを解消します。
400メートルリレーで考えるとわかりやすいかもしれません。100メートルを10秒で走る人が4人いれば、単純計算で記録は40秒になります。でも実際は38秒で走ることができます。なぜならバトンゾーンを有効活用するからです。
川上:レベニューのプロセスでも、ボトルネックはまさにそのバトンゾーンです。ハンドオフ(※)をルール化するだけでは38秒になりません。設計しきれない余白をコミュニケーションで埋めるところまでがオペレーションなんですね。
※部門間で顧客やリード情報を引き継ぐこと
古森:そうです。データを突きつけて「あなたの組織は機能していません」と言ったって人は動きません。「言ったから伝わっただろう」ではなく「伝わっていなくてごめんね」というくらい、伝わるまでやる。言いにくいことはAIに言わせてもいいと思いますけどね(笑)。
