なぜトップ営業は「順番」にこだわるのか
ここまで読んで「未来の話が大事なのはわかった。でも、どうやって未来の話に持っていくのか?」と思った方もいるかもしれません。実は、ここに営業の腕の差が出ます。未来の話をすること自体は簡単です。しかし、お客様の頭の中には未来を語るための前提が整理されていないことがほとんどです。
今井晶也 著、扶桑社、2026年5月
だからトップ営業は、いきなり課題や未来を聞きません。まずは、お客様がどんな事業を行っているのか。何を大切にしているのか。どのような状況に置かれているのか。そうした前提を理解することから始めます。その上で理想を描き、現状とのギャップを明らかにし、その原因を整理しながら、本当に取り組むべき課題へとたどり着いていくのです。
セレブリックスでは、この流れを「3つのステップ」と「7つのファクト」で整理しています。3つのステップは次のとおりです。
- 顧客を理解する
- 問題を特定する
- 課題を設定する
「課題を聞く」のではなく「課題にたどり着く」という考え方です。また、その過程で整理するべき7つのファクトが以下です。
- ビジネスモデルや関心事
- 現状
- 理想
- 問題
- 原因
- 示唆
- 課題
重要なのは、この順番です。なぜなら、お客様自身が最初から課題を明確に言語化できているわけではないからです。営業が問いを重ねながら思考を整理し、認識を深め、最後に課題へ到達する。そのプロセスこそが、ファクトファインディングなのです。
困りごと質問が招く3つの落とし穴
困りごとから入る質問には、典型的な落とし穴が3つあります。
1.相談ではなく「診断」になる
「何か困っていることはありますか?」という質問は、一見すると親切な問いに見えます。しかし、お客様によっては「問題がある前提で見られている」「何か答えなければいけない」という感覚を持つことがあります。特に初回商談では、相談相手というより診断者のような立場になってしまい、心理的な距離が生まれやすいのです。
2.未来ではなく「過去の説明」が増える
困りごとを聞くと、多くの場合お客様はその背景や経緯を説明し始めます。すると会話は「なぜそうなったのか」「いつから起きているのか」という過去の話に時間を使うことになります。もちろん、その理解も大切です。しかし、本来営業が一緒に描きたいのは未来です。過去の説明ばかりが増えると「これからどうしたいか」という重要な対話が後回しになってしまいます。
3.競合比較の土俵に自ら乗る
困りごとの整理は、結果的に要件整理へつながります。要件が整理されれば、お客様は比較を始めます。比較が始まれば、競合も同じ土俵に並びます。そして最後は「どちらが安いか」「どちらが機能的か」という勝負になりやすい。つまり、営業自身が差別化しにくい土俵を作ってしまうのです。
まとめ
落とし穴はあれど、困りごとのヒアリング自体を否定したいわけではありません。大切なのは、困りごとだけで商談を組み立てないことです。トップ営業は、困りごとの奥にある理想を見ています。そして、その理想を実現するために何が必要なのかを、お客様と一緒に言語化していくのです。だからこそ、最初に聞くべきなのは「困りごと」ではなく「未来」なのかもしれません。そして、未来にたどり着くためには問いの順番が大事です。
次回は、トップ営業が質問の前に必ずつくっている「文脈」の重要性を解説します。
