キーワード2:Unified Commerce思考 オムニチャネルは「顧客起点の統合」時代へと進化
2つ目のキーワードは、「Unified Commerce(統合型コマース)」である。筆者自身、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)、イオン、カメラのキタムラや、コンサルティング先の各社でオムニチャネルに取り組んできた。かつてのオムニチャネルは、店舗とECをつなぐことが目的であった。
今回のNRF APACでは、店舗・EC・アプリ・会員・物流・サプライチェーンを1つのデータ基盤で統合し、顧客ごとに最適な体験を提供する「Unified Commerce」が主流になったと感じた。
筆者はこれを、オムニチャネルの進化として以下のように整理している。
- 第1世代:店舗とECの連携を目的とする、従来のオムニチャネル(在庫・受取・返品)
- 第2世代:会員・購買データの統合(CRM・パーソナライズ)
- 第3世代:LTVを中心とした顧客起点統合と収益化を目指す「Unified Commerce(統合型コマース)」(顧客理解・継続的な関係構築)
- 第4世代:Agentic AIによる自律型オムニチャネル(予測・提案・実行)
NRF APACは、まさに「第4世代への入口」に立ったことを示していたと言える。つまり、オムニチャネルの目的は単なるチャネル統合ではない。顧客一人ひとりを中心に据え、あらゆる接点を一体として設計する「顧客起点の統合」へと進化しているのである。
この変化は、LTV(顧客生涯価値)を重視する経営とも密接に結び付いている。1回の商品販売ではなく、長期的な顧客との関係をいかに構築するか。ロイヤルティが高く、継続利用する顧客は購入頻度も購入単価も高く、長期的な収益にも大きく貢献する。
そのための基盤が「Unified Commerce思考」である。これは筆者の造語だが、部門や機能の違いを超えて、全社が顧客一人ひとりを起点に意思決定を考えることだ。この思考が、第4世代のAgentic AIによる自律型オムニチャネル(予測・提案・実行)導入の前提として求められるのだ。
実店舗とECを統合するソリューションを展開するETP社の展示。クラウドベースの基盤にAIレコメンド機能などを搭載し、「Unified Commerce」による顧客体験の最適化を支援している
キーワード3:Retail Media 広告事業ではなく「データビジネス」へ
3つ目のキーワードは、Retail Media(リテールメディア)である。
日本ではRetail Mediaが「店舗やECサイトで広告枠を販売する事業」として語られることが多いが、今回のNRF APACでは、その考え方は大きく異なっていた。
たとえば、セブン-イレブンのフランチャイズ展開やドラッグストア「Guardian」を手がける香港のDFI Retail Groupは、Retail Mediaを「データによって支えられたオムニチャネル体験」と定義し、広告ではなく顧客体験の向上を目的としている。
会員データや購買データを活用し、適切な商品やサービスを適切なタイミングで提案することで、顧客満足度を高める仕組みとして位置付けていた。オーストラリアのスーパーマーケットチェーンWoolworthsでは、ロイヤルティプログラム「Everyday Rewards」、マーケットプレイス、Retail Mediaを一体で運営している。
ロイヤルティプログラムは、ポイントや値引による集客よりも顧客のデータ収集が目的であり、マーケットプレイスは本業だけでは網羅できない様々な商材を取引先とともに展開することで、顧客との情報接点としての頻度を高める役割だ。
そして、Retail Mediaは単なる広告収入ではなく、先の2つから収集した顧客情報を元に最適な情報を提供することで、顧客にとっては「広告」ではなく「パーソナライズされた情報コンテンツ」となるのである。このようにして顧客接点をデータでつなぎながら新たな収益を創出していた。
さらに彼らは保険、金融、モバイル事業も展開しており、日本のイオングループを想起させる。両社に共通していたのは、「データ→顧客理解→サービス提供→収益」という循環を構築している点である。つまり、Retail Mediaとは広告を売るビジネスにとどまらず、「顧客データを活用して、新しい価値を創出するビジネス」に向かっているのである。
実際に、先行しているWalmartやAmazonのRetail Mediaも、顧客IDと紐づいたスマホアプリやPCのスクリーン上でのパーソナライズされた情報コンテンツの展開をメインとしている。今後、日本企業においても、広告収益を目的とするのではなく、顧客体験の向上を起点としたRetail Mediaの設計が重要になるだろう。
