なぜ浸透?AIを「現場の武器」にするための組織づくり

──多くの小売企業が「AIを導入しても現場で使われない」という壁に直面しています。御社ではいかがでしょうか?
当社の場合、むしろ「使われすぎている」くらいです(笑)。現在、社員の80%以上がChatGPTを週に1回以上利用しており、開発などで使いすぎて割り当てられたクレジット(利用枠)の上限に達してしまうこともあり、誰がどの程度利用枠を使うかを管理する必要が出てきています。
導入当初、2024年の12月頃にOpenAI Japanのエンタープライズライセンス(企業向けプラン)を契約し、半年間の伴走支援を受けました。その中でワークショップや「社内ChatGPT活用コンテスト」を開催したことが、普及の大きな後押しになりました。
──現場への浸透を促すために、どのような工夫をされたのですか?
会社として「AIを使っていこう」という明確なメッセージを発信しつつ、社内コンテストなどで「実際の業務でどう役に立つか」という具体例を共有しました。
業務の効率化や時短につながることがわかれば、現場のスタッフは積極的に取り組んでくれます。データ活用の時もそうでしたが、環境や雰囲気作りをしっかり行うと、私が想定していなかったような使い方を編み出す「隠れたAIを使いこなす社員」が社内から自然と発掘されます。社員同士で教え合いやすい距離感があることも、浸透が早かった理由の1つだと思います。
──今後、店舗スタッフの業務において、AIが代替する部分と人間が担う部分はどのように切り分けられていくとお考えですか?
商品の補充など、物理的(フィジカル)な作業をすぐにAIやロボットで代替するのは環境的に難しいでしょう。しかし、発注作業や「商品知識の提供」については、AIによる代替が急速に進むと考えています。
ホームセンターには専門的な商品が多く、以前はベテラン社員の頭の中にしかない知識がたくさんありました。現在は、お客様の質問に対して社員がAIに検索・相談し、その結果をもとに接客するといったことが既に行われています。ナレッジの共有という長年の課題が、AIによって解決されつつあると感じています。
トップ自らが手を動かし、解像度を上げる意義
──柳瀬社長ご自身も常に最新テクノロジーを学ばれていますが、AI時代における経営層の姿勢についてお聞かせください。
AIの分野は進化のスピードが非常に早く、数週間前の常識があっという間に陳腐化します。そのため、経営トップは人づてに聞くのではなく、一次情報(公式の発表動画など)に直接触れ、自社で何ができるかの「肌感」を持っておくべきです。
今はクラウドやBIツール(データを可視化するツール)が発達し、システム部門に頼らなくても経営者自身がデータを直接触れる環境が整っています。コストも手間もかからないので、まずは自分でやってみることが重要です。
──経営トップが自らAIを触ることで、組織にどのようなメリットがあるのでしょうか?
物事に対する「解像度」が上がることです。AI活用と一口に言っても、「個人情報に関わるため厳重なセキュリティが必要な領域」と「売上分析など、すぐにアクセルを踏んでいい領域」があります。
トップが自ら手を動かし、概念(抽象)と技術の実態(具体)の両方を理解していれば、会社全体を見渡した上で「どこに投資し、どこにブレーキをかけるべきか」という的確な判断が下せます。現場の担当者だけでは部分最適になりがちなので、トップが全体最適の視点を持つことがAI活用には不可欠です。
