社内大学でAI人材を育成 部門横断データによるポテンシャル可視化も
徳田:続いてダイキン工業でのAI実装について教えてください。
小林:当社では2017年に「ダイキン情報技術大学(DICT)」という社内講座を開講しました。新入社員のうち約100名は配属されずに2年間この社内大学に通い、AI開発やIoT活用のスキルを磨きます。これにより、社内でAI人材を育成し、活躍してもらう素地を作っています。

小林:具体的なAI実装としては、この情報技術大学生によるAIツールの内製開発を行っています。1つ目は「AIスコアリング」です。これは、過去の営業実績やお客様情報をもとに、物件単位でサービス提供の優先順位をサジェストする機能です。この提案は納入されている空調機の台数や過去5年の引き合い金額、受注頻度などを47項目以上の特徴量のデータをもとにしています。
2つ目は「物件ポテンシャル」です。従来、我々サービス部門はお客様から修理依頼があって初めて物件の規模を知るような状況でした。そこで、販売側の出荷データとサービス来歴などの部門をまたいだ情報を掛け合わせることで、サービスを提供する余地がどれだけあるかを見える化しました。

小林:AIスコアリングと物件ポテンシャルの結果を掛け合わせることで、「スコアリングもポテンシャルも高い」有力な顧客が一目でわかるようになっています。確度の高い顧客にはすぐにフォローを行い、スコアは低いがポテンシャルが高い顧客とはまずはインサイドセールスが接点を持つなど、リソースを上手く使いながら提案活動を進めています。

徳田:社内に大学を持つというのはなかなか他社は真似できないかもしれませんが、非常に効果がありそうですね。みっちり勉強した若手社員が現場に入り、自ら内製でAIツールを作ることで、企業の風土も変化していきますか?
小林:そうですね。社内大学で学んだ人材が作ったツールであることで、説得力が増します。単に「こういうツールを作ったので使ってください」と押し進めるよりも、浸透度合いは高いと思いますね。

現場のAI推進における壁。いかにして社内を説得するか
徳田:AIツールは導入して終わりではなく、セールスやマーケティング領域にいかにインストールしていくかが重要です。トピックの2つ目として、現場推進や組織マネジメントにおける「壁」と、その「処方箋」についておうかがいします。現場推進のリーダーとして、小林さんはどのような壁を感じられましたか。
小林:大きく2つの壁に直面しました。1つは「費用対効果が見えない」と言われること。もう1つは、ベテラン層を中心とした「現状維持が一番、やり方を変えたくない」という反発です。
これらを乗り越えるため、まずは「早く成功事例を作ること」に注力しました。ただし、本社からツールを押し付けるのは現場を無視することになります。まずは現場にヒアリングを行い「情報が分散している」「優先順位が不明確」といった悩みを引き出しました。次に現場担当者自身に顧客のスコアリングをしてもらい、その情報をもとにアジャイルでAIを育てていきます。
自身の情報をベースにしたAIからのサジェストであれば、結果的に現場も喜んでくれます。当社のサービス本部は全国に60拠点ありますが、都心や地方など複数拠点で有用性を測り、成功事例を積み上げました。
もう1つ徹底したのは「数字で見せること」です。導入前と導入後で、1人当たりの商談数や受注額がどれだけ増えたのか。顧客情報の整理にかかる時間が圧縮され、やるべき営業活動にシフトできたことを具体的な数字で示すことで、現場や経営層の納得を得る努力を続けています。

小林:企画は本社で行っても、最終的に売上を上げるのは現場の方々です。偉そうにリーダーシップを振りかざすのではなく、逆にリーダーシップを発揮しすぎないようにうまく立ち回りながら、現場へのリスペクトを忘れないよう心がけています。
徳田:現場へのリスペクトと数字での説得は、社内を巻き込む上で非常に重要ですね。橋口さんはいかがでしょうか? 現場でのAI実装においてはどういった課題がありましたか。
橋口:我々はツール単独の導入だけでは営業変革や成果に結びつきにくいという現実にぶつかりました。
そこで、点で存在していたツールを線でつなぎ、「業務プロセスに組み込む」ことに着手しました。先述のとおり、面談内容を音声認識AIで記録し、それをSFAに入れ、AIレポートとして生成し、次回の提案につなげるというサイクルを構築しています。特別なツールを使うのではなく、使わなければ業務が回らない仕組みを作ることが1つの処方箋です。

橋口:加えて、組織全体での活用を進めるためにさまざまな活動を行っています。経営層全員が参加するトップダウンの「AIX協議会」を設ける一方、やらされ感をなくすためにボトムアップの「AI相談会」や、部門横断の「AIXオフィサー会議」なども実施しています。
さらに、社内SNSで活用事例を発信したり、役員に若手行員をつけるリバースメンター制度を導入したりと、あらゆる角度からアプローチしています。また、現場と本部が連携した「変革共創プロジェクト」には昨年753名が参加し、優れた提案が商用化につながるなどの成果も出ています。

