顧客理解はどこまで「徹底できるか」が勝負
今井:お客様の社内で何が起きているかを掴む、という話が続いています。ここからは書籍のテーマにちなんで「顧客理解」そのものについてお話ししましょう。「顧客理解が大事」ということに異論がある人はいないと思うんです。どこまで徹底できるかの勝負かなと。お互いにこれまでどんなことをしてきたか披露しましょうか。
高橋:有益そうなものから言うと、商談でお客様が横道に逸れたときの対応です。大半の営業は、どうやって自分の用意したシナリオに戻すかと考えると思いますが、僕は脇道に逸れた瞬間にそこへ全振りする。だから予定どおりに終わらない商談が非常に多いです。
今井:脱線を許容するということですか。
高橋:許容します。お客様も「今日はこういう提案をされる日だろうな」とわかっているのに、それでも横道に逸れるということは、そこに「お客様が話したい、かつ、営業がわかっていない情報」があるということ。その正体を知りたいんですよね。
昔は受付に席の配置図が置いてある会社がありましたよね。20代の頃の僕はあれをノートに書き写して、「この配置で、誰と誰がどんな話をしているんですか」とお客様に聞いていました。窓口の担当者1人と話しているだけでは、その隣の席の人がこの案件をどう見ているかまではわからない。組織図ではなく座席の並びで捉えると、日常的に会話が生まれている単位が見えてくるんです。
東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、アルー株式会社の創業に参画。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。データとロジックから営業を科学するアプローチで、これまで4万人以上の営業強化支援に携わる。累計24万部のビジネス書著者。主な著書に『無敗営業』『無敗営業 チーム戦略』(シリーズ累計11.9万部)、『営業の科学』(6.8万部)、『なぜか声がかかる人の習慣』『気持ちよく人を動かす』『質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか?』『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』『「任せて育つチーム」はどこが違うのか』など。最新刊に『法人営業 勝ちパターン大全』。2024年4月から東京学芸大学の客員准教授も務め、「”教育”と”営業”の交差点」を探究している。また、東京都内で「人生のヒントが見つかる」をコンセプトにしたリアル書店も経営。
高橋:コンペの最終局面に差し掛かる頃には、配置図の左端の人に電話をかけて「次は隣の○○さんに回してください」とお願いしたりもしました。1人ずつ順に話を聞いていくと、社内の温度感が面で見えてきますし、お客様側も「もうこの会社に決めないほうが不自然だ」という状態になっていく。関係者全員に働きかけていくイメージですね。
今井:私は「ここだけの話」をどれだけ持てるかだと思っています。新刊『Sales is 2:ファクトファインディング』(扶桑社)にも書きましたが、それがお客様から信用されて会う意味のある人になれるかを決める。商談で聞いた生々しい話を、次の商談では昔から知っていたかのように当たり前に使う。それを続けていくと、「この人と話すと何か持って帰れる」という状態がつくれます。
ただ、その話を引き出すには前提として業界知識が必須です。私はお客様の業界に特化した資格試験の勉強をして、相手と同じ言葉で話せるようにしていました。相手が使う言葉を自分も使えるようになると、「この人はわかっているな」と思ってもらえるハードルが下がりますし、お客様の悩みも想像しやすくなる。
あとは現地・現物・現場です。小売業界のお客様に提案を行うなら、近くにできる新築マンションの価格帯やターゲットまで調べます。そうすると「今度この町にこういう人たちが増えるから、棚の置き方はこうしたほうがいいですよ」と、お客様の知らない情報を伝えられる。顧客理解とは、顧客のやりたいことを理解する以上に、「こうやったほうがいいよね」という一歩先の未来を理解させてあげられるかどうかだと思います。
「検討します」で止まったら、まず場合分けする
今井:次のトークテーマは「『検討します』で連絡がつかなくなったとき、どうするか」。営業にとっては本当にあるあるですよね。まず「検討します」のあとに連絡がつかなくなるとき、お客様側では何が起きているのでしょうか。
高橋:僕の発想は、場合分けです。「Aのときは、Bをする」ではなく、まず「Aにはどんなパターンがあるか」を洗い出す。純粋にメールが読まれていないケースもあるでしょうし、キーパーソンの紹介をお願いしているとしたら、窓口の担当者が止めているのか、キーパーソン本人まで話が届いてNOが出ているのかで、状況はまったく違います。さまざまなパターンを想定して、それぞれに合った対応をしていくしかありません。
今井:場合分けの精度は、どのように上げることができるのでしょうか。
高橋:地道ですが、終わったあとの「答え合わせ」を重ねることですかね。この間も自らプレゼンに立って受注が決まったのですが、「スライドの何ページ目がいちばんインパクトがありましたか」「どのオブジェクトですか」まで確認しました。20代の頃は、商談のあとにお客様へ電話して「今日の商談、100点満点中何点でしたか」と聞くこともありました。
「85点」なら、なぜ15点足りないのかを聞く。8割の人からは「頑張ってたよ、もういいでしょ」と電話を切られますが、残りの2割、とても親切な人がいて裏側を教えてくれる。それが自分の想像とまるで違うんです。自分が考えていることと、お客様側で起こっていることの違いに愕然として。確かめるたびに予想と違うパターンが出てくるので面白いですね。この蓄積が、そのまま場合分けの引き出しになります。
今井:私も聞きます。先ほどの点数の話と同じ要領で、「導入したい度は何パーセントですか」「そのパーセンテージは御社の感覚からすると高めですか、低めですか」「この30パーセントを埋めるためには、御社の中で誰を味方につけるべきですか」と話していく。このやりとりを重ねると、お客様が味方になって、社内営業をしてくれるようになることもありますね。
「検討します=脈がない」と判断して、見当違いな対策を立ててしまうことは避けないといけないですね。お客様側では、自分たちの想像とまったく違うことが起きている可能性もありますから、きちんとお客様と対話を重ねること。たとえば「予算がない」も、費用の捻出がネックなのか効果の見立てに懸念があるのかで、刺さる切り返しは変わる。常に場合分けを意識すべきですね。
