従来の口コミマーケティングの問題点
これまでの口コミマーケティングと呼ばれる手法は、主に次のようなものであった。
インセンティブ提供型 | コンテンツ提供型 |
---|---|
ブロガープロモーション | バズムービー |
アフィリエイト | ブログパーツ |
これらの手法はかなり意図的な口コミ拡散を目的としたものであるとともに、マーケティングでは認知獲得または顧客獲得を目的としたものであった。
ここで、先ほどの3メディアフレームワークをもう一度見てほしい(図表3)。この考え方は、口コミを広告メディアの領域にあるものとして捉えている。つまり、「口コミ = 媒体」として捉えており、企業が口コミをコントロール可能だと考えていることを意味する。

しかし、実際にはどうだろうか? 例えば、ブロガーに何らかの金銭的あるいはポイントなど金銭相当のインセンティブを提供して、企業の意図した記事の掲載を依頼するようなプロモーション手法がある。この場合、ブロガー側にブランド体験がないため記事そのものが薄い内容にならざるを得ず、結果として読者のパーセプション(認知)形成に寄与していないことが多い。
これは冷静になって引いた視点から考えてみれば当たり前のように思われるが、未だに「ブロガーにコメントを書いてもらうことで口コミが波及し、商品認知が爆発的に広がり、直接的に販売につながる」というような都合のいい幻想を抱く企業も少なくない。
では、本来あるべき口コミマーケティングの姿とは?
議論を分かりやすく展開するために、従来の口コミマーケティングとの対比して考えてみよう(図表4)。

まず、情報の編集権は「企業ではなく消費者に委ねられている」という考え方を取るべきである。繰り返しになるが、ソーシャルメディアは消費者が自由に発言するプラットフォームである、という定義に基づいた考え方である。
次いで、マーケティング目的について。従来の口コミマーケティングは主に広告的手法、つまり、認知の獲得と顧客獲得を目的とした手法として捉えられていた。しかし、自然発生的な口コミの内容をよく分析すると、主に「メディア情報の反響」と「ブランド体験の共有」とに大別されることが分かる。両者共にマーケティングの結果指標であるため、意図的に口コミを拡散させようということが、そもそも意味をなさないことは明らかである。そのため、意図的に拡散させようとするのではなく、結果として起こった口コミを傾聴し、顧客との関係を構築していく(カスタマーエンゲージメント)という視点が重要となる。特に「ブランド体験の共有」については、企業の商品やサービスに対する価値が問われるため、本質的な企業努力が問われる。
マーケティング目的がこれまで認知獲得と顧客獲得重視であった背景には、口コミマーケティングが短期的販促施策として捉えられていたという問題がある。しかしながら本来、口コミの本質はブランド体験の共有にあることを考えると、ブランディングの一環として中長期的視点に立って取り組む必要があるだろう。
「ブランド体験の共有」に関する情報は、新規顧客にとっては購買プロセスにおいて極めて影響力のある情報ソースとなり得る(図表5)。Nielsen Onlineの調査では、「知人からの推奨」「インターネット上の消費者の意見」が最も信頼度の高い情報ソースという結果が出ている。People believe People(人は人を信じる)であり、Nothing works better than word of mouth(口コミよりも効果的・効率的なメディアはない)であると言える。
では、どのように顧客または消費者との関係性を構築していくべきか? 企業のソーシャルメディアに対するスタンスは、これまでは「(B) to C」であったが、これからは「(B) with C」という考え方に立つべきであるという議論が最近起こり始めている。まさに関係性構築を表した、分かりやすいコンセプトではある。しかし、実際のアクションを意識すると、「企業が『C』となる」、つまりパーソナルな擬人化された人格を持って、ソーシャルメディアという「C to C」の世界に参加していくスタンス・作法が必要となってくる、と言い換えた方がイメージしやすいのではないだろうか。
アメリカではWOMMAの倫理規制が法制化、日本では?
WOMMA(The Word of Mouth Marketing Association)という口コミマーケティングに関する倫理的ガイドラインを定める業界団体があるのを、ご存知の方も多いだろう。アメリカでは2009年10月に、このWOMMAが定める倫理規定がFTC(米連邦取引委員会)により法制化されたため、企業がその素状を明かさず成りすましを行ったり、ブロガーに金銭を提供して書き込みを行わせたりすることが、企業の倫理感に委ねられていた問題から、法律によって規制されることになった。
日本では現状、このような明確な基準とレギュレーションはないものの、こうしたグローバルの大きな潮流を理解した上で、ソーシャルメディアに対しては、前述のように、顧客または消費者との関係性を構築していくというスタンスで臨むべきであると考える。
次回以降、ソーシャルメディアマーケティングの実践手法について、解説していきたい。